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第4章
#1
しおりを挟むどんよりとした灰色の雲。
今にも雨が降り出してきそうだな、と俺は大学病院の中庭のベンチで一人ため息を吐いていた。
本来なら家にいて布団にくるまっていたいところだったが、カオリさんからメールで『調子悪いならまた有休取るよ!』と、脅しとも取れるメッセージが届いてしまったため、仕方なく予約を取って来たのだ。
予約時間まではまだ余裕があったから、受付だけ済ませて少し外の空気を吸いに来ていた。
ミドリさんと話をしてから早1ヶ月が過ぎていた。
彼女と話して、ほんの少し知らなかった康祐さんのことをしれた気がしていたが、それはあくまでもわずかなところでしかない。
……でも、胸にあったしこりみたいなものは無くなった気がして少し、すっきりした。
――『また、おいで』
と微笑んでくれたミドリさんの顔が、康祐さんと重なって泣きそうになったのはここだけの話だ。
今度は康祐さんのお父さんも同席してくれるらしい。
しかし今更、元交際相手となってしまった相手の両親と関係を持つのはどうなのだろうか。
俺には世間一般とやらは分からないけど、あんまり良いことではないような気がした。
(あ、そろそろ呼ばれる……)
番号札と待合室のモニターを遠目から照らし合わせて、ベンチから立ち上がった。
「お、っと……」
ふらりと、めまいに襲われて思わずベンチに手をついた。
「はぁ……何言われんのかなぁ」
憂鬱なため息を中庭に残して、待合室へと戻った。
*
「うん、相も変わらず君はすぐ衰弱するねぇ」
治し甲斐があるわ!と、佐々木先生の半分怒りのようなものが滲んだ言葉に俺は頭を下げるしかできず「す、すみません……」と声を萎ませた。
佐々木先生は「まあ美澄さんだもんねー」と軽く流してくる。
(俺ってそういうもん、みたいなテンプレ貼られてます?)
心で思いつつも、佐々木先生の診断を待つ。
彼はいつ来ても変わらない、中肉中背の健康そうな成人男性だ。
「入院したい?」
「やです」
だよねぇ、なんて笑う佐々木先生。
(意地悪だ……)
恨めしく思いながら見ていると、佐々木先生はにっこり笑う。
「美澄さんさ、」
「はい」
俺の返事に頷く佐々木先生の次の言葉に、俺は目ん玉が飛び出るかと思った。
「うちではもう何もできないねぇ」
「へ」
見放されたのだろうか。
俺が何度も衰弱するから?
視線をあちこちに彷徨わせながら必死に佐々木先生の言葉を噛み砕こうとしていると、佐々木先生は言う。
「美澄さんのはねー、薬でどうにかできるもんじゃないし、薬でどうにかしちゃいけないもんなのよー」
「それは、どういう?」
俺の質問に佐々木先生は「うん、あのね」と子供に話すような優しい声音で言った。
「美澄さんの体調不良は、もう出会ってるはずの運命の番にしか治せないんだわ」
――『……この不調が出始める前に、どこかで『運命の番』に出会ってしまってない?』
カオリさんの声が、頭の中で響いて離れなかった。
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