【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第4章

#4

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 *


「要ー」

 どこか遠くで、聞き覚えのある声がする。

「っわ⁉︎ なんだこれ⁉︎ 要⁉︎ 」
「え、ちょ、なんでこんな散らかってんの?強盗⁉︎」
 
「いやわかんねぇ、ちょ、カオリ足気をつけてそこガラス!」
「あ、ヒロくんそっち床がトゲトゲしてる!」
 
「うっわあぶね、ってかここ賃貸だぞ……」
「要く……要くん‼︎ ヒロくん‼︎ 要くんいた‼︎」
 
「えっ、おい‼︎要⁉︎ 」

 バタバタとどこかを走り回る音が聞こえる。

 なんだか近くで足音がしているように聞こえるのは、俺が床に寝転がっているからかもしれない。

 耳が床にくっついているから、振動と音が大きく聞こえるんだ。

 体を起こされるような感覚。

 だけど、俺の目が開くことはない。

 もう何日食べていないんだか、忘れてしまった。

 水も飲んでいない。

 そもそも、キッチンもリビングも足を踏み入れられる状況じゃない。

 風呂も鏡の破片が飛び散っているから入っていない。

 手足の怪我は、よく覚えていない。
 でも、もう痛くなかった。

 俺の体が生きることを拒否し始めていた。
 感覚でわかる。

 オメガというやつはもしかしたら、オメガ自身が劣等遺伝子だという自覚があるのかもしれない。

 だから、『オメガの喪失障害』ではなくても、オメガとしての遺伝子を消そうとできるのかもしれないな。

 四肢を動かせず、目も開けない。

 僅かに開いた口からは涎が流れ落ちていっているのが分かる。

 こんな状態を友人に見られるのは恥ずかしいし、嫌だなぁ。

 けれどオメガがそうしろというのなら、その本能にくらいは従ってやってもいいかと思った。

 それなら、『康祐さんの恋人として』死ねるということでしょう。




(……最高の、『死』じゃないか)




 そう思っていた時、バシャッとものすごく鋭いくらいに冷たい液体とコロコロした硬くて冷たいものが顔にふってきて、「ぶはっ⁉︎」と目を開けて飛び起きた。

 勢いよく起き上がってしまい、頭がくらくらしたが自分がびしょ濡れなことに気がついて、そばにいる人らに目をやった。

「す、どう……」

 カオリさん、とまでは声が出なかった。

 どうやらぶっかけられたのは氷水だったらしい。

「は、ふぅ……っ」

 呼吸が止まっていたのか、首を触って肩で息を整える。

 何が何だか理解が追いついていない。

 視界に写った周藤夫妻は呆然とした顔で俺を見つめている。

 その顔の意味も分からなくて、俺はただ見つめ返すしかできなかった。

 「なんで、ここに……」

 ようやく声を出せた俺は、一瞬でぎゅうっと強く誰かに抱きしめられていた。

 「か、おり……さん?」

 あたたかい柔らかい女の人の温度と感触。

 ミドリさんを思い出した。
 
 ぼんやり抱きしめられていると、カオリさん越しに周藤が目に入った。

 周藤は俺を見ずに片手で目を擦って肩を揺らしている。

 その隙間から涙が溢れているように見えるのは気のせいだろうか。

 カオリさんもしゃくりあげるように俺を抱きしめて離さない。

「なんで……、なんで、……こんなこと、するのよ……っ」

 カオリさんは俺の後頭部に手を当ててぐしゃっと抱き込める。

 ミルクのような甘い香り。
 
(優しい匂いだな……)

 遠い世界の誰かの日常を覗いている気分。

 カオリさんは俺から体を離し、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま俺の両肩を掴んだ。


 
「この馬鹿‼︎」


 
 (怒られた……)

 久しぶりに……?
 
 それこそ、両親が生きていた頃以来……かもしれない。

 ぼんやりカオリさんを見つめていると、彼女はまた顔をぐしゃっと歪めて、せっかく綺麗になっているメイクがぐちゃぐちゃになってしまうと思った。


「……オメガの本能、舐めないでよ。ねえ、もう分かったでしょ?……要くんの番が誰か……。分かったから、こんなことしてるんでしょ‼︎」


 こんなこと、とは何に対してだろうか。
 この部屋のことだろうか。

 

 それとも、本能に任せて死のうとしたことだろうか。

 
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