【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第4章

#5

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 周藤によって部屋が少し片付けられ、リビングの窓は開けられて、久しぶりに我が家の空気が循環した。

 周藤がキッチンを片付けたのか、カオリさんが何かいじっていてしばらくしたらソファで横たわる俺と、その横に座る周藤の元に温かい白湯とコーヒーがカオリさんの手から届いた。

 白湯はもちろん俺のためだろう。

 カオリさんも何かを飲んでいる。

 匂い的に紅茶だろうか。

 俺は横たわりながら、白湯の湯気を眺める。

 周藤夫妻は何も言わず、俺のそばに座っている。

 さっきまで泣いていたカオリさんは険しい顔をしたまま俺を見つめつつ、周藤ともアイコンタクトを交わしていた。

 二人が何を考えているのか分からなかった。

 今はとにかく、帰ってほしかった。
 一人にして欲しかった。

 しかし今の俺にそれを伝えられるほどの元気はなかった。

 しばらくして、二人が飲み物を飲む音を聞いていたら周藤が口を開いた。

「……要」

 呼ばれたけれど、返事をする気力はない。
 
 チラリと視線だけ向ければ、周藤は俺と目が合うようにソファを降りて、床に膝をつき俺の瞳を見つめた。

「運命の人、誰か教えて」

 周藤の真剣な声に俺は何を言っているのだろうと本気で思った。

(運命の人って、そんなの……周藤が一番知ってるじゃないか)

 わけのわからない質問に、俺は何も反応を示すことなくただ周藤を見つめ続けた。

「……要くん。もう、運命の番に出会ってるよね?病院で」

 カオリさんの言葉の次に、誰なんだ、と今度は周藤に問い詰められる。

 俺は「ふは」と笑った。

「……二人がよく知ってるじゃんか。康祐さんだよ、俺にはそれしかいない」

 なんでか喉がするすると動いた。

 少し体を起こして、回らない頭をソファの背に預けて、天井を見上げた。

 なんの模様もない天井。

 病院は訳のわからない模様があったな。

 あれってなんのための模様なんだろう。

「要。康祐さんは……運命の出会い、ではあったと思う」

 周藤が何か話している。

 だけど俺は天井だけを見ていた。

「……でも、本能的には運命ではない。そうだろ」

(何回言えば理解できるんだろう……土建屋になって耳だけじゃなくて頭も回らなくなったんだろうか)

 俺はゆっくり顔を戻して、表情を歪めながら俺を見つめている周藤を見返した。


「だから……運命でしょ。二度もないの」


 小説じゃないんだから、と笑って言えば、周藤はぐしゃっと顔を歪めて、「はぁ……」とため息を吐いて俯いた。

 すると今度はカオリさんが視界に映り込む。

 周藤が身を引いたようだ。

 カオリさんは眉をキリッと吊り上げて、目の端もどことなく釣り上がったような顔で俺を見た。

「現実逃避してたって、意味ないのよ。要くん」

(現実逃避?)

 そんなものした覚えはない。

 だって、現実に向き合ったから今こうなっている。

 これが結果じゃないのか?

 夢が見たいと思ったこともある。

 でも見れなかったんだから。

「要くん。あなたの運命の番は康祐さんじゃない。自分で分かってるでしょ」

「だから、康祐さんだって……言ってますよね」

 口調が荒くなるところだった。

 周藤ならいいけど、カオリさんはダメだ。

 一応、礼儀をわきまえなきゃ。

(まあでも……この人も周藤も、幸せな人間だから……結局、俺の気持ちなんてわからないんだろうな)

 今ここに何しに来たのか知らないけど、必死に俺に説教して何になるんだろう。
 
 俺の気持ちをわかろうとしないで、ただ死にそうだから助けましたってことなのかな。

 それって、道端で自殺しようとしてる自殺志願者にヒーローぶって手を差し伸べてその場限りの助けだけで悦に浸って、その後の相手の人生の責任を取らないのと同じ構造じゃん?


 でもって表彰されるのは、「もう一度生きようとした人」じゃなくて「助けてやった側」なんだよな。

 結局それが、周りの見る目なんだ。

 自死なんて悪いこと。
 現実に疲れて死ぬことは逃げだから悪いこと。

 なんでもっと早く助けてって言わなかった?

 なんでもっと早く誰かを頼らなかった?

 なんでもっと早く病院に、なんでもっと早く――。

 
 ――人に迷惑かけず、勝手に死ねよな。

 
 世間の誰とも言えない責める声が脳内を占める。
 

 
 (……黙れよ)

 

 ガシャンと白湯が入った湯呑の割れる音が部屋に響いた。
 
 震える腕で俺が投げた湯呑がカオリさんに当たらないように、周藤が咄嗟に守ったのは彼女。

 そうだよね、大切な人だもんね。

 

 
「……帰れよ。……お前らに俺はもう、用はない」


 

 湯呑が叩きつけられたテーブルは傷がつき、湯呑は床で砕けていた。

 ぽたぽたとテーブルから床に白湯が滴り落ちる。
 
 その音だけが三人のいる乾いた部屋に虚しく、響くだけだった。
 
 
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