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第5章
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体をかちこちにさせながら、リビングでお茶を啜っている自分を俯瞰すると滑稽だな、と冷静に思う。
ミドリさんと琉誠くんは、ああでもないこうでもない、と何かをずっと話している。
お父さんのマサタカさんは、渋い顔のまま俺と同じくひたすら茶を啜っていた。
すると唐突に「もうっお父さん!」とマサタカさんの太ももをミドリさんが叩いた。
「な、なんだよ……」
マサタカさんは気まずそうにミドリさんにだけ視線をよこす。
ミドリさんはきっと眉を釣り上げて口を開いた。
「要くんが気まずいでしょうが!アンタが『俺も会いたい』って言ったんだから何か話してやりなさいよ!」
義実家なんて気まずいに決まってるでしょうに!と、プンスカ怒ってくれた。
(ありがたいが、より気まずくなったような……)
苦笑いで誤魔化しつつ、また懲りずに茶を啜っていた。
もう茶渋くらいしか残っていない。
それにめざとく気がついたミドリさんは立ち上がり、全員分の茶を淹れ直しにキッチンへと行ってしまった。
それをぼんやり見送っていると、琉誠くんが話しかけてくる。
「なあ兄貴とどこデート行ってたん?」
琉誠くんは目をキラキラさせて聞いてくるが、唐突なその質問に俺は「ヘぁ⁉︎」と間の抜けた声で返事をしてしまった。
(いや、ご両親の前でデートとか……)
恥ずかしいだろうよ……。
しかも君は思春期だろう?
兄のそんな話を聞いても平気なのか……。
俺は必死に思い出を掘り起こしながら慎重に口を開いた。
「え~と、映画とか近くの公園を散歩したり……ピクニックしたり、……」
そういえば、康祐さんは寄席が好きでよく若手の漫才師の寄席を観に行ったっけ。
あと、プラネタリウムとか見に行ったけど、星座なんてどっちもよくわからなくて結局、こっそり手を繋いだまま眠ってしまったっけ。
いつの間にか黙り込む俺に、琉誠くんは心配げに「要さん?」と顔を覗き込んでくる。
ハッとした俺は、「たくさん、遊びに行ったなぁと思い出してて!」と言った。
琉誠くんは満足そうに目を細めて「ラブラブじゃ~ん」とか言ってくる。
俺は顔が熱くなるのを感じ、「い、いや……いえ……」と、否定するのもなんだか違う気がして、曖昧な返事しかできなかった。
そうやって琉誠くんと話していると、ミドリさんがまた淹れ直したお茶を持って戻ってきてくれた。
「ま、でも要くんが元気そうで良かったわ。この間は、今にも消えちゃいそうだったから」
ふふ、と笑いながら湯呑を差し出され「ありがとうございます」と返した。
「そうなの?今こんな元気そうなのに」
琉誠くんはあっけらかんと言ってくる。
「馬鹿ねぇ。恋人が亡くなったら憔悴するに決まってるでしょう」
ミドリさんの呆れた顔に、俺も思わず口を開く。
「でも……ミドリさんも元気そうで良かったです」
この間はお互いに憔悴していたから。
ミドリさんは一瞬、キョトンとした顔を見せたがすぐに笑顔になった。
「……まあねぇ。思い出さない日はないけど……、家族がいるから今ここに私が居れるのよ」
ミドリさんの言葉に、マサタカさんも琉誠くんも照れくさそうにしつつも頷いていた。
(家族……かぁ……)
俺の周りは家族で溢れているなぁ。
俺には、康祐さんが家族だったからなぁ。
「要くんもそうなんじゃないの?」
ミドリさんの微笑みに、俺はなんて返したら良いか分からず言葉に詰まる。
(でも……話してもいいか。もう……)
俺は手に持っていた温かい湯呑をテーブルに置いて、両手を組んで皆から視線を外した。
「いえ……。俺には家族はいないので」
気まずくならないように笑って言っても、三人の顔は気まずそうな顔になってしまっていて、俺は慌てて取り繕う。
「だからどうとかってことではなくて、……康祐さんが、俺の家族みたいな存在だったから……」
どうして、康祐さんの話をしても目頭が熱くなることがなくなったんだろう。
あんなに悲しみに暮れて、蹲っていたのに。
「でも……じゃあ、時が解決したのかしら」
ミドリさんの少し寂しそうな顔に、俺は笑って首を横に振った。
「……俺、そういうの好きではなくて」
俺の言葉にミドリさんと琉誠くんは「え?」と声を揃える。
俺は手を弄びながら、口を開いた。
「時が解決するなんて……嘘なんです。ただ生きてる側が、悲しむのに疲れてしまうだけなんです……」
俺の言葉に三人は何も言わずじっとこちらを見つめている。
「だって、時が経っても居ない事実は変えられないじゃないですか。でもそれでも、ミドリさんが言ったみたいに、俺は明日の絶望に備えて生き抜くしかなくて……」
康祐さんとの思い出も全て背負って明日を迎えに行ってやるしかない。
彼を心に住まわせるのも、もう疲れた。
……でも、彼が居ないのは嫌だ。
「……俺と康祐さんは運命の番じゃなかったから。法的にも細胞的にも、結ばれるはずの二人ではなかった」
ミドリさんが「いや、そんなこと……」と言いかけたのを、マサタカさんが制止する。
俺はミドリさんに微笑んだ。
「ずっと、皆さんに謝りたかったんです。俺なんかが……大切なご長男を縛り付けてしまっていたこと……」
いつの間にか湯呑から立ち上がる湯気が消えていた。
ミドリさんと琉誠くんは、ああでもないこうでもない、と何かをずっと話している。
お父さんのマサタカさんは、渋い顔のまま俺と同じくひたすら茶を啜っていた。
すると唐突に「もうっお父さん!」とマサタカさんの太ももをミドリさんが叩いた。
「な、なんだよ……」
マサタカさんは気まずそうにミドリさんにだけ視線をよこす。
ミドリさんはきっと眉を釣り上げて口を開いた。
「要くんが気まずいでしょうが!アンタが『俺も会いたい』って言ったんだから何か話してやりなさいよ!」
義実家なんて気まずいに決まってるでしょうに!と、プンスカ怒ってくれた。
(ありがたいが、より気まずくなったような……)
苦笑いで誤魔化しつつ、また懲りずに茶を啜っていた。
もう茶渋くらいしか残っていない。
それにめざとく気がついたミドリさんは立ち上がり、全員分の茶を淹れ直しにキッチンへと行ってしまった。
それをぼんやり見送っていると、琉誠くんが話しかけてくる。
「なあ兄貴とどこデート行ってたん?」
琉誠くんは目をキラキラさせて聞いてくるが、唐突なその質問に俺は「ヘぁ⁉︎」と間の抜けた声で返事をしてしまった。
(いや、ご両親の前でデートとか……)
恥ずかしいだろうよ……。
しかも君は思春期だろう?
兄のそんな話を聞いても平気なのか……。
俺は必死に思い出を掘り起こしながら慎重に口を開いた。
「え~と、映画とか近くの公園を散歩したり……ピクニックしたり、……」
そういえば、康祐さんは寄席が好きでよく若手の漫才師の寄席を観に行ったっけ。
あと、プラネタリウムとか見に行ったけど、星座なんてどっちもよくわからなくて結局、こっそり手を繋いだまま眠ってしまったっけ。
いつの間にか黙り込む俺に、琉誠くんは心配げに「要さん?」と顔を覗き込んでくる。
ハッとした俺は、「たくさん、遊びに行ったなぁと思い出してて!」と言った。
琉誠くんは満足そうに目を細めて「ラブラブじゃ~ん」とか言ってくる。
俺は顔が熱くなるのを感じ、「い、いや……いえ……」と、否定するのもなんだか違う気がして、曖昧な返事しかできなかった。
そうやって琉誠くんと話していると、ミドリさんがまた淹れ直したお茶を持って戻ってきてくれた。
「ま、でも要くんが元気そうで良かったわ。この間は、今にも消えちゃいそうだったから」
ふふ、と笑いながら湯呑を差し出され「ありがとうございます」と返した。
「そうなの?今こんな元気そうなのに」
琉誠くんはあっけらかんと言ってくる。
「馬鹿ねぇ。恋人が亡くなったら憔悴するに決まってるでしょう」
ミドリさんの呆れた顔に、俺も思わず口を開く。
「でも……ミドリさんも元気そうで良かったです」
この間はお互いに憔悴していたから。
ミドリさんは一瞬、キョトンとした顔を見せたがすぐに笑顔になった。
「……まあねぇ。思い出さない日はないけど……、家族がいるから今ここに私が居れるのよ」
ミドリさんの言葉に、マサタカさんも琉誠くんも照れくさそうにしつつも頷いていた。
(家族……かぁ……)
俺の周りは家族で溢れているなぁ。
俺には、康祐さんが家族だったからなぁ。
「要くんもそうなんじゃないの?」
ミドリさんの微笑みに、俺はなんて返したら良いか分からず言葉に詰まる。
(でも……話してもいいか。もう……)
俺は手に持っていた温かい湯呑をテーブルに置いて、両手を組んで皆から視線を外した。
「いえ……。俺には家族はいないので」
気まずくならないように笑って言っても、三人の顔は気まずそうな顔になってしまっていて、俺は慌てて取り繕う。
「だからどうとかってことではなくて、……康祐さんが、俺の家族みたいな存在だったから……」
どうして、康祐さんの話をしても目頭が熱くなることがなくなったんだろう。
あんなに悲しみに暮れて、蹲っていたのに。
「でも……じゃあ、時が解決したのかしら」
ミドリさんの少し寂しそうな顔に、俺は笑って首を横に振った。
「……俺、そういうの好きではなくて」
俺の言葉にミドリさんと琉誠くんは「え?」と声を揃える。
俺は手を弄びながら、口を開いた。
「時が解決するなんて……嘘なんです。ただ生きてる側が、悲しむのに疲れてしまうだけなんです……」
俺の言葉に三人は何も言わずじっとこちらを見つめている。
「だって、時が経っても居ない事実は変えられないじゃないですか。でもそれでも、ミドリさんが言ったみたいに、俺は明日の絶望に備えて生き抜くしかなくて……」
康祐さんとの思い出も全て背負って明日を迎えに行ってやるしかない。
彼を心に住まわせるのも、もう疲れた。
……でも、彼が居ないのは嫌だ。
「……俺と康祐さんは運命の番じゃなかったから。法的にも細胞的にも、結ばれるはずの二人ではなかった」
ミドリさんが「いや、そんなこと……」と言いかけたのを、マサタカさんが制止する。
俺はミドリさんに微笑んだ。
「ずっと、皆さんに謝りたかったんです。俺なんかが……大切なご長男を縛り付けてしまっていたこと……」
いつの間にか湯呑から立ち上がる湯気が消えていた。
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