【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

文字の大きさ
62 / 112
第5章

#10

しおりを挟む
 涙を拭き終わった四人は、互いの泣き顔に笑い合い、康祐さんの思い出を語りながらアルバムを見せてもらい、夕飯をご馳走になった。

 母の作る手料理というものを、何十年ぶりかに食べた。

 康祐さんの面影が残る味で、久しぶりに出されたものを全て完食できた。

 ウサギのハンカチを嗅いでいないのに、ミドリさんが作っている匂いを嗅いだら勝手に腹が空いたんだ。

 そんな本能にも、俺は呆れて誰にもバレないように腹を少しさすり、苦笑した。

 

 *

 

「もう、来なくていいからな」


 玄関の外まで見送りに来てくれたマサタカさんたちは、少しもの悲しげにそう言った。

「あの携帯も明日解約しに行くの」

(そうか……じゃあもうあのディスプレイに『康祐さん』が光ることはないのか)

「要さん」

 琉誠くんが言う。

「もう来なくていいけど、俺の友達としてならいつでも来てな」

「……」

(ああもう。本当に……)

 このあたたかい遺伝子は康祐さんに受け継がれていたな、と微笑んだ。


「うん……!ありがとうございました。またどこかで会えたら……」

 
 ……どこかで会えたらなんだというのだろうか。


 「どこかで会えたら、今度はお友達よ」

 
 ミドリさんの言葉にハッと顔を上げる。
 マサタカさんは何も言わず、俺を見ていた。
 

 「気をつけて、帰りなさい」

 
 その呟きは、父さんに言われたみたいなじんわりと心にしみる、紛れもない愛情だった。

 
「……ありがとうございました」


 お邪魔しました、と頭を下げて俺は康祐さんの家族に背を向けた。


 肺いっぱいに取り込んだ夜の匂い。

 どこかの夕飯の味噌汁の香り、焼き魚の香り、お風呂のシャンプーの匂い――。

 絶望の淵に立たされても、地球が止まらない限り日常は続く。

 大切な人がいなくなっても、明日は来る。

 太陽は登ってしまうし、かと思ったらまた沈むし。

 どれだけ生きることが嫌になっても、腹は減るし風呂に入らなきゃ気持ち悪くなるし。

 部屋は掃除しなきゃ埃っぽくなるし。

 時だけは誰にも止められない。


(……あ、星が綺麗だ)


 昼間は晴れていたから、夜は星がよく見えた。

 でも……プラネタリウムで寝ちゃってたから、なんの星かわかんないね、康祐さん。



 ほんの少し笑って、俺は振り返ることなく歩き続けた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

ノエルの結婚

仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。 お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。 生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。 無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ 過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。 J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。 詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。

王太子殿下は命の恩人を離したくない

まんまる
BL
セネシス王国の第一王子レイヴィンは、10歳になった時、父王から側近候補のエース公爵家のオリバー、スペット侯爵家の コルトン、そしてガナー伯爵家のサランを紹介される。 4人は親睦を深める中、自分達だけで街に遊びに行く計画を立て、実行した。 楽しい一日を過ごすうち、四人はかけがけのない親友になる。 しかし、王城へ帰ろうかという時、レイヴィンを狙った暴漢に襲われてしまう。 その時、レイヴィンを庇って犠牲になったのは、かけがえのない親友だった。 成長したレイヴィンは、事件の前と変わらない態度で接してくれる友への切ない気持ちが、罪の意識からなのか恋なのか分からず戸惑う。 二人が自分の気持ちに気付いた時、一度分かたれた人生がもう一度交わる。 受けに負い目がある王太子レイヴィン(α)×傷を負った伯爵令息サラン(Ω) 短いお話の予定です オメガバースは話の流れで触れる程度です Rは15程度ですが※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

処理中です...