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第6章
#3
しおりを挟む佐々木先生の特大爆弾でダメージを喰らった俺は、深く息を吐いて気合いを入れ直し、店内に戻る。
音を立てて扉を開ければ、文月さんとマスターが何やら話をしていて、こちらに気づくなりわざとらしく話題を変えた気がした。
(ぜってぇ俺のこと言ってたじゃんか……)
内心、辟易しながらも「戻りました」と声掛ければ「おかえり~」とマスターに揚々と言われる。
「誰かの噂話でもしてたんすか」
じとっと横目で文月さんを見ると、マスターは「人聞きが悪いなぁ」と笑う。
「コーヒーの話をしていただけだよねぇ、文月さん」
(名前を呼ぶ間柄になってる……)
グラス拭きをしているマスターと並んで、おしぼりのストックを作っていると文月さんは「そろそろ行きます」と飲み終わったグラスを差し出して立ち上がった。
「あ、はい」
文月さんの会計を済まし、佐々木先生の時と同様にドアを開けてやると奥からマスターが「少し散歩してきていいよ!」と叫ぶ。
「はい?」
首を傾げていると、文月さんが言った。
「さっきマスターと話して、美澄さんを少し借りられないか交渉したんです」
「やっぱコーヒーの話じゃなかったんですね……」
ため息を吐けば、文月さんは相変わらず申し訳ないと思ってないような顔で「すみません」だなんて言った。
俺は入り口からマスターに「じゃあ行ってきますね」と声をかける。
マスターは(ぐっ)と親指を立ててウィンクしてきた。
(キャラが濃いんだよなぁ……)
店の扉を閉めて「それで?」と文月さんに話しかける。
文月さんは少し考えて、顔を上げた。
「俺まだ時間あるんで、この近くの児童公園のベンチにでも行きませんか」
「へぇ。児童公園なんてあったんですね」
文月さんの提案に賛同しつつ、彼と歩幅を合わせて同じ方へと歩みを進めながら言えば、彼は「はい」と頷く。
「小児科の外来に来る子どもたちがそこで遊ぶのが好きみたいで。今の時間ならみんな、保育園とか幼稚園とか、小学校に行ってると思うので」
静かだと思います、と付け足した文月さんに「なるほど」と頷いた。
「今日は早く病院に着いちゃったんですか?」
「え?」
「時間に余裕あるみたいだったから、早く着きすぎちゃったのかなって」
そう言えば、文月さんは「ああ」と返す。
「いえ、俺はいつも始業の2時間前くらいには病院に着いてます」
「え、早くね?」
思わず驚いて素で反応してしまう。
文月さんは笑って「早いですよね」なんて平気そうに言う。
「だって研修医なんてただでさえ忙しいって言うじゃないですか。レポート?みたいなの書いたりするんでしょう?」
(あれ?それは看護学生か?)
俺はネットで軽く見ただけの浅い知識を披露するが、文月さんは特に気にした様子もなく「まあ、やることは多いですね」なんて言ってのけた。
「睡眠時間とか……」
そう呟けば、文月さんは「ふふ」と笑って俺を見た。
「何です?」
訝しげに彼を見上げれば、文月さんは「なんだか……」と言う。
「なんだか?」
(なんだよ)
と、思いつつ彼を見る。
文月さんは、微笑みながら言った。
「俺、心配されてるみたいですね」
その台詞に「はあ?」と顔を顰める。
「そりゃあ誰だって心配しますよ!看護学生だろうが研修医だろうが、昔から研修が過酷だって、興味のない俺でも知ってるくらい有名じゃないですか」
文月さんは俺の言葉に「まあ確かに」と納得したように頷く。
(病院ばかなのか……?)
失礼なことを平気で考え始めた時、文月さんの声が「あ、あそこです」と言った。
彼の指差す方向へ歩いて行けば、確かにそこには人っ子ひとりおらず、静かな公園が佇んでいた。
「あそこのベンチに座りましょう」
大きな広葉樹が影になって直射日光が遮れる場所だった。
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