【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第7章

#3

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 「……?」

 目を開けた時、視界に入ったのはどこかで見覚えのある白い天井だった。

(変な模様の……)

 ぼんやりとした頭で、ここはどこかと視線を彷徨わせれば、点滴のパックが視界に入り病室であることが分かった。

(俺……)

 あ、そっか。
 急にヒートを起こして、マスターに電話してそれで――。

「あ、要くん起きた?」

 カオリさんが心配げに俺の顔を覗き込んだ。
 
 その様子に俺はうまく反応できず、ぼんやりと見つめ返す。

(なんで俺、こんなぼーっとしてるんだろ……)

 ふと反対側にも誰かいることに気づき、そちらにも目をやればマスターが俺を心配そうに見ていた。

「よかった、目が覚めたんだねぇ」

 そう呟いたマスターは少し涙声でそんなことを言う。
 
 俺はまだ頭がはっきりせずに、もう一度カオリさんを見た。

「俺……買い物……」

 そう呟くとカオリさんは「はぁ、よかった……」と呟いてパイプ椅子に腰掛けた。

「ごめんね、要くん。まさかヒートが来ちゃうとは思わなかった……」

 カオリさんの言葉に、俺は「謝ることじゃない」と言いたいのに、口が上手く動かせず頭にハテナが浮かぶ。
 
 俺の様子に気がついたのか、カオリさんは「あ、」と口をひらく。

「今、抑制剤を投与してもらってるの。強くないものらしいけど、ホルモンを調整してるから頭ポヤポヤしたり倒れる前の記憶がなくなっちゃう人とかいるみたいだから……」
 
 カオリさんの言葉に納得して、マスターに顔を向けた。

「……すみません、俺……」

(頼れる人が思いつかなくて……)

 そこまで伝えたかったけれど、やはり口が回らなかった。
 
 マスターは意図を汲んでくれたのか、「いやむしろありがとうね」と言ってくれた。

「電話してくれて良かったよ……。通りがかったベータの方が救急車呼んでくれたらしくて、電話も繋ぎっぱなしだったから全部聞けてすぐ駆けつけたんだよ」

(そう、だったのか……)

 申し訳ないことをしてしまったな……。
 
 そう思っていると、カオリさんはマスターに同調して笑う。

「私も、あまりにも要くんの帰りが遅いから鬼電してたら、マスターさんが出てくれて知ったのよ。……本当にごめんね」

(だから、謝らないでほしい……)

 そう思いながらも動かない体にうんざりして、なんとか目で伝わらないかとカオリさんを見つめる。
 
 すると、マスターが「じゃあ僕はこれで失礼するよ。お店を家内に任せて来てしまったから」と言った。

「お騒がせしてすみませんでした。ありがとうございました」

 俺の代わりにカオリさんが頭を下げてお礼を言ってくれた。
 
 俺は目線だけでマスターを見つめた。

 マスターは「全然よ。何かあったらまたいつでも電話してね。僕はベータだから心配しないで」と言って病室から出て行った。

 扉が閉まるまで見送ったカオリさんは、「よいしょ」と丸椅子に座って、俺の手を優しく握る。

 顔を覗き込まれて、俺もカオリさんの瞳を見つめ返す。
 
 彼女の瞳が何を語っているのか、なんとなく予想がついてしまった。

「……よかったね、要くん」
「……」

(よかった、のかな……)

 俺にはまた、絶望の始まりとしか思えない。
 
 ぼんやりした頭だからか、ヒートを無理やり薬で抑えているせいで情緒が不安定なのか、俺にはわからなかった。

「ヒートが来たってことは、……外で文月さんに会ったの?」

 カオリさんの質問に、(そういえば……)と思い出す。

「……遠くで、見かけた……」

 ぼんやり返せばカオリさんは目を細めて「そう」と呟く。

「遠くから見ただけで、全くこなかったヒートが来るようになるなんて……」

 カオリさんの呟いた言葉の意味が分からず、俺は(どういうこと?)と言う気持ちを込めて見つめ返した。
 
 すると、それを察してくれたのかカオリさんは苦笑して俺の手を握り直す。

「……いや、『運命』ってちょっと怖いなって思ったのよ」

 彼女の瞳がどこか揺れている。
 
 泣くわけではない。

 ただ、彼女の起こるか分からない未来を憂いているような揺らぎ方だと思い、俺は励ますように握り返した。

(確かに、こんなんじゃ……まともに外も歩けやしないな)

 今日がたまたまなのか。
 また周期は安定するのだろうか。

 いやでも俺は文月さんと番じゃないから、周期は安定しないだろうな……。

「とりあえず、一晩は様子見ようって担当の先生が言ってくれてるから、今日は入院してね。あたしは、ヒロくんが迎えに来たら帰るから」

「ごめん……かおり、さん」

「謝るのはあたしよ」

 困ったように笑う彼女に、何か言葉をかけたいと思い口を開くけれど、何も思い浮かばなかった。

 (『運命』が怖い、か……)

 そうだよな。
 だってもう、覚悟を決めて結婚して周藤と番になって子供まで産むんだ。

 そんな時期に、本能にあてられて何ヶ月も来なかったヒートがきて制御できないくらいになってるオメガなんて見たら、流石のカオリさんも不安になるよな。

 何かを言ってあげたいけれど、自分の心の整理もついていない今じゃ何も言ってやれることは思い浮かばなかった。

「そうだ。ここ、あの大学病院なのよ」
「……へ」

 ってことは……。

「でも、担当の先生は佐々木先生じゃなかったわ。それにまた、オメガの隔離病棟だから小児科の文月さんとは会わないはずだから安心して」

 (隔離病棟……?)

 まさかまた自分があの病院に舞い戻っていたなんて。
 天井を見直せば、確かに見覚えのある変な模様の天井。

 いや、病院なんてこんなもんか。

 思い直して、もう一度カオリさんに顔を向ける。

「文月さんは呼ばない方がいいよね?」

 そう聞かれ、俺は迷わず頷いた。

「佐々木先生は?どうする?」

 まあこっちが言わなくてもカルテで佐々木先生にも伝わると思うけど……と、言うカオリさんに頷く。

「……知られたら、でいいかな」

「わかったわ」

 微笑むカオリさんは「もう少し寝たら?もうここにはアルファはいないから」と言って、布団を肩までかけてくれた。

 俺はその言葉に甘えることにして、目を瞑った。

 なんだかずっと眠いんだ。
 きっとホルモンバランスを無理やり整えている最中だからかもしれない。

 俺はあっという間に夢の中に落ちていった。
 
 
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