【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第7章

#4

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 目を開ければ、朝日が眩しく病室に差し込んでいた。
 どうやら看護師が様子を見に来る前に、目が覚めてしまったようだった。

(頭がスッキリしてる……)

 試しに口を開けて「あ、あ」と声を出してみれば、もう普通に話せそうだった。
 
 腕に繋がってる点滴パックも残りわずかだなあと思いながら見ていると、ノック音もそこそこに女性の看護師さんが入ってきた。

「あら、起きてたんですね」
「はい、目が覚めちゃって」

 そう返せば、看護師はニコニコと優しい笑みを浮かべながら、「じゃあ体温計を脇にさしてもらえますか?」と言うので大人しく従う。
 
 そのついでに看護師は俺の二の腕に血圧計を巻きつけ、シュポシュポと空気を入れていく。
 
 しばらくするとピピっと電子音が鳴り、体温計を取り出して表示を見れば「37.8度」だった。

「ちょっと微熱ですねぇ」

 看護師の言葉に「……ですね」と返す。

 (なんだか懐かしいなこのやりとり……)
 
 前に一週間入院した時も、七日間毎朝こんな感じのルーティンで過ごしていた。
 
 看護師は、病室のカーテンを開けて室内を明るくした後、電子カルテに記録を入力しながら話しかけてくる。

(あ、窓に格子がある……)

 前回の病室にはなかったのに。

 ぼんやり窓を見つめていると、看護師は言う。

「一応今日、昨日の先生が来る予定なんですけど、美澄さんの元の主治医って佐々木先生ですよね?」

 看護師の問いに「まあ、はい」と曖昧に答えれば、看護師は入力する手を止めて俺を見る。

「どうします?佐々木先生にしますか?確認したら今日いるから呼べるんだけど……」

 つまり、どっちに診察してもらう?ってことか。

「それ、俺が決められるもんなんですか?」

 そう問えば看護師は苦笑して「いや、昨日の担当医がカルテ見て、『佐々木先生の方が良いって患者さんが言ったらバトンタッチしようか』って言ってるんです」と言った。

(計らい、だろうか)

 俺はどちらでもよかったので、「お任せします」とだけ返した。
 看護師さんは「了解」と返して、点滴のパックを見る。

「とりあえず、点滴終わりそうだから先生呼んでくるね」
「こんな朝早いのにいるんですね」

 そう言うと看護師さんは「当直なので朝の9時くらいまではいますねぇ」と教えてくれた。

(お医者さんも大変だなぁ)

 そんなことを呑気に思っていれば、カルテを打ち込んでいた看護師が「あ」と言った。

「よく見たらカウンセリングも受けてたんですね」

(バレた)

 俺は苦笑いをして「あー、まあ」と濁せば看護師はまた「呼びます?」と昨日のカオリさんと同じことを言う。
 
 昨日のやり取りを思い出しながら俺は再び首を横に振って、「いえ、大丈夫です」と返した。

(文月さんは俺の運命の番だって佐々木先生は知ってるのに、カルテには載せないのか……)

 少し不思議に思ったが、看護師は「わかりました」と頷いた。

 きっとこれから来るどっちかの医師の指示に任せようと思ったのだろう。

「あの……ひとつ質問してもいいですか?」

 俺がおずおずと聞くと、看護師は「どうぞ」とにこやかに答えてくれた。
 俺は窓を指差す。

「前回、入院した時、格子がなかったように思うんですが……」

 そう言うと、看護師は「ああ」とカルテを確認してからまたこちらを見た。

 「美澄さんは確かに前回もここ――オメガ隔離病棟に入院されましたが、その時はヒートも来てなかったのでアルファも入れる、隔離病棟でも一般病棟の方だったんですよ」

「一般病棟?」

 看護師は忙しいだろうに体をこちらに向けて教えてくれた。

「うちの病院は、オメガ隔離病棟の中でもまた2種類に分けられているんです」

 看護師は手でピースの形を作って見せてくれた。
 
「オメガの何かしらの病でも比較的軽い症状で、医師以外のアルファに会っても大丈夫な方が入院できる病棟を『一般病棟』と呼んでいて、ヒートの調整が難しい方、医師の中でも番のいるアルファ――つまり、確実に他者のヒートを誘発しない医師だけが入れる『完全隔離病棟』。それがここになります」

「そうだったんですか……」

「今回、美澄さんは救急車で運ばれるほどの症状だったし点滴の投与で調整しなければいけなかったので、一般病棟には回せませんでした。ただ、一晩経って今、ヒートが落ち着いていますし美澄さん自身にも錯乱したり破壊衝動なども見られないので、佐々木先生に会っても大丈夫だと思いますよ」

(ということは、佐々木先生は番がいないのか……)

「他に何か心配なことはありますか?」

 ずいぶん優しい聞き方をしてくれる看護師だな、と妙に感動しつつ「いえ、大丈夫です」と返した。
 
 看護師は満足げに頷いて「じゃあ先生呼んできますね」と言って、病室を出て行った。

 図らずともまた個室にいる自分。

(医療費が怖いな……)

 まさかヒートなんかで戻ってきしまうとは。
 微熱があるけど、帰してもらえるのかな……。

 抑制剤が効いているのか、今は体に不具合は感じない。
 それこそ、熱のせいで体が少し火照っているのは分かるけど……。

 俺はなんとなくベッドから降りて靴を履く。

 点滴を持ちながら窓まで移動した。

(シマトネリコ……あるかな)

 カーテンを開けて窓を見れば、シマトネリコなんか全然見えなかった。
 
 隔離病棟は一般病棟よりも高層部分にあるようで、中庭は見えるけどかなり地面まで遠い。
 
 朝早いせいか人もいないので、ベンチと植物だけがあるけれどどれも小さくてなんだかつまらなくて見るのをやめた。

 俺は火照った体を涼めたくて、窓を少し開けさせてもらった。
 もちろん、窓の外には鉄格子がついているので飛び降りなんてできない。

(対策バッチリ)

 さすが大学病院だな、苦笑しながら窓を開けた。
 
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