【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの

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第8章

#2

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「カオリさーん!ご飯運びますね!」
「あ、私も手伝うわ」

「もう持ってきちゃったんで大丈夫でーす」
「もう、要くんったら」

 俺はにしし、と笑いながらカオリさんの元へご飯を運ぶ。
 二人で「いただきます」と声を合わせて食べれば、カオリさんは嬉しそうに俺お手製のうどんを啜る。

 その様子に安堵し、俺も自分で作ったうどんを啜りながら、付け合わせの副菜も口に運んで二人で話しながら夕飯を食べた。

 カオリさんが言っていたように、周藤は夜遅く帰ってきて、朝早く出ていってしまう生活だった。

 カオリさんとは頻繁にチャットや電話で仕事の合間を抜け出して連絡とっているようだが、お互いに相手がいないことへの寂しさが募っているようなのを、客観的に感じた。

 周藤から俺にも連絡が頻繁にきていて『本当に助かる』『カオリ、本当のところはどんな感じ?』と、強がり癖のあるカオリさんを心配するチャットが届くたび、俺は正直に報告しつつも『安心していいよ』と返していた。

 
(泊まるって約束してよかったかもな……)

 たまに思い詰めたような顔をするカオリさんに気付きながら、俺はわざとでもいいかと、自分なりに明るく振る舞うように心がけた。

 体調はと言えば、抑制剤のおかげでヒートみたいなのはきていない。
 しかし、衝動こそないもののその分というのだろうか。

 副作用の方がひどかった。

 夜中、吐き気で眠れなかったり、時折動悸で急に苦しくなったりする。

 ネットで薬名を検索すればそれは一過性の副作用だと書いてあった。

(結城先生は副作用の説明をしなかったな……)

 薬剤師からは説明があったが、いつも聞き流していたからあまり覚えていなかった。

 それは完全に俺が悪いな、と客間の布団の中でうずくまる。

 副作用のことはカオリさんにも誰にも話していない。

 誰にも迷惑をかけられないし、カオリさんはただでさえ出産前で不安がっているし、そこに周藤が居られないから余計に少し不安定になっているようだった。

 気を紛らわすためか、編み物をしたりゲームをやろうとしたりしているみたいだが、それもすぐに集中が切れてしまうのか、庭先をぼんやり眺め始めてしまう。

 そういう時は声をかけて二人で会話をするようにしているのだが、正直正解が分からなかった。

 子どもを産む人の気持ちは、俺には分からない。
 産む前の怖さも。

 想像はできても、その気持ちを全て理解するのは無理な話なのだ。

 ただ、ご飯を食べる量は減っていないし、夜中吐いてる様子もないし、体調自体は大丈夫そうだった。

(なんなら夜中こっそりトイレで吐いてるのは俺だし……)

 苦笑しながら、布団にくるまっていると扉がどんどん、と叩かれた。

「⁉︎」

 驚いた俺が飛び起きて、ゆっくりドアを開けるとうずくまったカオリさんがそこにいた。

 「カオリさん⁉︎ どうしました⁉︎」

 真っ青な顔をしたカオリさんはお腹を抑えながら俺の腕を強く掴んだ。

「……はっ、じ、じんつ……きた、かも」
「マジで⁉︎」

 俺は取り繕うことも忘れて、予習していた通り陣痛を記録できるアプリをセットして、まだ帰ってきていない周藤にもチャットを入れる。
 
 「カオリさん、とりあえず病院に電話してみるね。夜だけど大丈夫だよね?」

 そう聞けば、彼女は唸りながら頷くので、カオリさんの産婦人科に電話をかけ状況を説明した。

「カオリさん、痛みの間隔が10分以内になったら陣痛タクシー呼ぶね。一応、連絡して予約できるようにしておくよ。あと、周藤には連絡したから!すぐ帰ってくるって!」

 カオリさんは痛みが一旦引いたのか、「ありがとう……助かる」と疲れた声で言う。

「とりあえず、楽なところで楽な姿勢にしてて。持ってく荷物は俺が用意しておくから。あと、トイレとかも怖がらずに行って大丈夫だって。水分もとった方がいいって。おにぎりとかも。一応全部バックにも入れておくね」

「ごめんね、要くん。めちゃくちゃ助かる……」

 正直、副作用に襲われ始まったせいで、今すぐにでも吐きそうになったが、腕に爪を立てて痛みで気を逸らした。

「大丈夫だよ。俺、いつでもなんでもできるようにネットで浅知恵つけてあるから!」

 そう言うと、カオリさんは「それは大丈夫なのか」と笑ってくれた。

 でもまた痛そうな顔になってしまい「うぅ~……」と唸ってしまう。

「さすった方がいい?さすらない方がいい?」

 慌ててそう聞けば、カオリさんは「さすってぇ……」と弱々しく言うので「腰?どこ?」と聞けば、「腰で……いい……っ」というなんともよく分からない返事だった。

 とりあえず、荷物は全部準備できているし陣痛タクシーも今のところは空きがあるからいつでも、とのことだった。

 (周藤が帰って来れば、周藤が運転できるだろうけど……)

 間に合うかな。

 俺は、22時を過ぎてる時計の針を見つめながら、カオリさんの腰を摩り続けた。

 
 
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