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第8章
#3
しおりを挟む「あ、やば……破水、したかも」
「え゛⁉︎」
カオリさんの呟きに、俺は思わず下を見ると確かに濡れている。
「カオリさんそこにいて!もう病院に行こう!陣痛タクシー呼ぶから!あと、着替え持ってくるから!」
俺は勝手にカオリさんの寝室に行き、入院着とは別の着替えとタオルをたくさん持ってカオリさんのところに行く。
タクシーに連絡をして、すぐに来てもらい運転手の女性に手伝ってもらいながらカオリさんを車に乗せ、その間に病院に電話と周藤に連絡をした。
周藤はちょうど帰ってる途中だったらしく、病院で合流ということになった。
カオリさんは陣痛の波に苦しんでいるのか、痛い時は俺の腕をものすごい力で掴んでくるようになった。
そのおかげで痛みの波がわかる。
陣痛タクシーも記録してくれているので、おかげで病院までは妙に落ち着いてカオリさんに声かけができた。
病院に着けば、看護師さんたちが車椅子を持って待機していてくれたので、カオリさんを看護師に任せて、タクシーに残した荷物と代金を支払う。
「おめでとうございます。無事に元気な赤ちゃんが生まれることを祈っています」
運転手の女性から、領収書と一緒に安産祈願と書かれた可愛らしいキーホルダーを渡される。
「あ、ありがとうございます!」
会社のロゴが入っているから、きっとマニュアルなのかもしれないが、どこか心細かった俺はその優しさと会社としての思いやりに、ほんの少し泣きそうになった。
運転手と別れて、荷物を持ち受付に説明してカオリさんの病室へと向かう。
陣痛室へと連れていかれ、最初は旦那と勘違いされたので自分の関係性とバース性を説明していると、周藤がようやく到着し、看護師が彼を連れて陣痛室へと入っていった。
なんでかそこで気が抜けたのか、俺は一気に脱力し、アドレナリンで抑えられていたのか吐き気がぶり返し、慌てて病院のトイレへと駆け込んだ。
「お゛ぇ……っ」
ビシャっと夕飯を吐き出し、何度かえづき、もう苦い胃液しか出なかったのでようやく息を深く吸って吐いた。
頭がフラフラする。
洗面所で顔と手を洗い、口を濯いだ。
(顔色は大丈夫だな……)
少し寝不足なのが垣間見える程度だろう。
気合いを入れ直し、陣痛室前の廊下に座り直す。
(生まれる……のかな)
カオリさんの弱った姿を初めて見たなぁ、なんて呑気に思っていれば、看護師が出てきた。
「ご家族の方ですよね?カオリさん、少し長丁場になるかもしれませんので、もしよろしければお休みになっていても大丈夫かもしれませんよ」
そう声をかけて去っていった。
忙しそうだ。
どこかの誰かも、新しい命と戦っているのだろうか。
俺は、吐いた疲れなのか、誰かを世話することの気力疲れなのか、分からないまま、どっときた眠気に身を任せて、廊下の椅子でそのまま首を下げて、意識を手放していた。
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