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「お二人とも大丈夫でしたか?」

 エミルさんとジョージさんの方へ駆け寄る。

「ヨール……お前……。」
 
 エミルさんがゆっくりとこちらに歩み寄り、怪我をしていない右腕を振り上げた。

(殴られる!)

「ごめんなさ……」

 反射的に目を瞑ると、エミルさんはガシッと背中に腕を回し、強い力で俺を抱き寄せた。

「弱いくせに、お前って奴は無理しやがって……。」

(ステータスが上がってなかったら骨が粉々になりそうだ。)

「ちょっとエミルさん! 痛いです! 昼間だったら死んじゃってますよもー!」

 俺は少し照れくさそうにそう言った。

「助かったよ、ありがとうなヨール君。」

 ジョージさんが優しく頭を撫でてくれた。

 やっと俺を解放してくれたエミルさんが、

「戻るか、気を抜くなよ!」

 と気を引き締めた。

 何事も無く湖に戻ると、松明の明かりに気づいたみんなが駆けつけた。

「オークはどうなったの? あなた! 怪我をしているじゃない!」

 マチルダさんを優しく抱き寄せるエミルさん、ジョージさんも奥さんと抱き合っていた。俺はニヤニヤしていた。

「お熱いようで、ごちそうさまです。」

 俺がいつものお返しとばかりにからかうと、エミルさんに軽く頭を小突かれた。

 エミルさんが静かに口を開く。

「俺は左腕を骨折した。ジョージは俺を庇って死ぬところだった。子供達には親からきつく言っておいてくれ、得にデリルには厳しくな。でだ、オークが複数頭確認されたのは俺が生まれてから初めてのことだ。森のどこかにコロニーができている可能性がある。これから慎重に村に戻り、俺とジョージとヨールで村長に報告する。明日にもレギンの街の冒険者ギルドに詳細を説明せねばならん。今回俺達の命があるのはヨールのおかげだ。詳しくは後ほど話すが、周囲を警戒しながらすぐに村に戻るぞ!」

 村に着くまでは俺がメインでモンスターを倒した。ミドルハウンド1頭とスライム2匹で、オークには出会わなかった。

 村に着くと、張り詰めていた緊張感が解けたのか、みんなが俺を賞賛してくれた。特に子供達は、目を輝かせて俺のことをヒーロー扱いだ。

 調子に乗った俺は大きな岩の上に飛び乗り片足立ちになり、両手をクロスさせて、

「ダークヒーローヨール見参!」

 と格好つけてみせた。

 代わりばんこに俺の真似をする子供達を見てほんわかした俺達は、ジョール村長の家へ向かった。

「村長! エミルだ! 急ぎの用件がある!」
「何の騒ぎじゃ。」

 ヒゲもじゃの村長が大慌てで出てきた。

 俺達が今回の経緯を詳細に説明した。

「父さん、緊急事態だ。伝令の魔道具を使用するべきだと思う。」

 ジョージさんは村長の息子らしい。どうやら村には街の冒険者ギルドとやり取りのできる手段があるようだ。

 村長は頷くと家に戻り、1枚の手紙と鈍い光を放つ球体を持ってきた。手のひらに手紙を乗せ、その上に球体を置くと、

「ジェプラ!」

 と村長が唱えた。

 すると、光とともに球体は胸に宝石がついたトンビのような姿にみるみるうちに変化し、目で追うのも難しい程のスピードで飛び去った。

 この伝令の魔道具は、心で思い浮かべた人の所へ飛んで行き、その人が受け取ると手紙と球体に戻る仕組みらしい。異世界って感じがする。
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