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女王様の初めての誘惑~食べられるまでの前哨戦~
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空腹に負け、仕方なくゲテモノで妥協をしようとした所、現れたのは奇跡の大物。
今だから正直に言おう。
この時の私は、完全に調子に乗っていた。
釣り上げた極上品に、すっかり舞い上がっていたのだ。
まさかその極上品の正体が、コーヒーでいうコピルアーク(超高級コーヒー豆だが、実はとある猫の糞から採取されるという衝撃の品)のようなものだったとも知らずに!!
何が言いたいかといえばつまり。
癖のあるものほどうまい。
世の中そういうものなのかもしれない。
※
「すごい……」
男に連れられマンションらしき場所に入った瞬間、驚いた。
まずは入口。
どうやら24時間体制で誰か人が詰めているらしい。
それも守衛といった類ではなく、制服を来た「こんしぇるじゅ」という専門の人間。
”こんしぇるじゅ”の前を通る際、「この子、今度から登録しておいて」と、何気ない口調で言っていたあのセリフは、一体何だったのだろう。
登録とは一体。
「あの……さっきのはどういう意味だったんですか」
気になったので、とりあえず早速聞いてみた。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥である。
「あぁ、あれ?あれはね、君を俺のお客さんとして正式に認めるってことだよ」
「?お客さん??」
はて。言っている意味がまだわからない。
首をかしげた少女に、苦笑しながら男は更に教えてくれた。
「このマンションは警備が厳しくてね。たとえ親兄弟であろうとも、居住者本人が認めた人間でなければ立ち入りが禁止されてるんだ」
例の”こんしぇるじゅ”の他にも、このマンションには複数の管理者が存在し、建物内に入る人間すべてを監視しているらしい。
恐ろしい。
なんか私、もしかしてとんでもないところに来てしまったのではないだろうかとようやく気がついた。
「あの……私なんて登録しちゃってよかったんですか?」
所詮、今日あったばかりの他人である。
それともこの男は、こうしていつも家に女を連れ込んでいるのだろうか?
疑問が顔に出ていたのか、男はニッコリと微笑んで少女の頭にぽんと手のひら置いた。
「言っただろ?逃がさないって」
「……別に逃げません……けど……」
むしろここまで来たら美味しくいただく気マンマンである、とはさすがに言えない。
けれど気持ちは十分に伝わったのか、面白そうな顔で「じゃあ何も問題ないな」と笑った彼。
……問題、ないのだろうか。
よくわからない。
でもこれ一度で済ませるのには惜しい気はするから、私にとっては都合のいい話かも知れないと、どこか不穏な空気を漂わせる男の言動に目をつぶり、上目遣いにじっと男を見つめる。
「コーヒーでも飲む?」
「いえ……特にはなにも」
飲みたいのはむしろあなたの血ですとは言えやしない。
「ところで、あの……」
部屋の中に招待されたのはいいが、なぜか座るように言われたのがベッドの上だったのも少し気になる。
沈み込むような寝心地の良さげなベッドを手持ち無沙汰に撫でていれば、「ちょっと寝てみる?」と誘惑するような男の声が。
いや、これはむしろ誘惑されているのか。
ベッドに体を横たえたところで野獣のごとく襲いかかってくるとか!?
「よし好都合!!」
「え?」
「いや、なんでもないです」
つい心の声が口をついて出たのを慌ててごまかし、「それじゃ遠慮なく」と思い切りベッドに飛び込む。
思ったとおり、まるで抱きしめられているような見事なフィット感。
このまま寝れそうだ。
勿論、空腹でなければの話だが。
ギシ……。
「気に入った、そのベッド?」
「ええ、とっても」
背後に感じる男の気配。
軋むベッドと、男が服を脱ぎ捨てる乾いた音がする。
よかった。
どうやら、誘惑するまでもなく上手く事が運んでくれそうだ。
ベッドに俯せになっていた体がそっとひっくり返され、顔の横には彼の両腕が。
間近でみる彼の顔は、やはりもろに少女のタイプだった。
「――――ーーーーー名前は?」
随分今更な事を聞くな、と思ったが、ジッと見つめる視線に耐え切れず、少女は己の名をようやく口にした。
「レジーナ」
途端、男が少し驚いた様子で目を見張った。
「もしかして君……日本人じゃなかったのか」
「一応、母は日系英国人よ」
レジーナ、とは主に英国で使われる言葉で、その意味は「女王」。
男はどうやら意味を知っているようなので、「名前負けだと思った?」と聞けば、笑って首を振ってくれた。
それだけのことが、無性に嬉しい。
あぁ……。
『早く食べたい』
はだけたシャツから覗く骨ばった首筋が少女を誘惑し、まるで炎に惹かれる羽虫のように、ふらふらとそれに手を伸ばす。
手のひらにどくん、と感じる彼の鼓動。
「とっても美味しそう……」
つぶやいた少女に、彼は言った。
「それは俺のセリフだよ」と。
今だから正直に言おう。
この時の私は、完全に調子に乗っていた。
釣り上げた極上品に、すっかり舞い上がっていたのだ。
まさかその極上品の正体が、コーヒーでいうコピルアーク(超高級コーヒー豆だが、実はとある猫の糞から採取されるという衝撃の品)のようなものだったとも知らずに!!
何が言いたいかといえばつまり。
癖のあるものほどうまい。
世の中そういうものなのかもしれない。
※
「すごい……」
男に連れられマンションらしき場所に入った瞬間、驚いた。
まずは入口。
どうやら24時間体制で誰か人が詰めているらしい。
それも守衛といった類ではなく、制服を来た「こんしぇるじゅ」という専門の人間。
”こんしぇるじゅ”の前を通る際、「この子、今度から登録しておいて」と、何気ない口調で言っていたあのセリフは、一体何だったのだろう。
登録とは一体。
「あの……さっきのはどういう意味だったんですか」
気になったので、とりあえず早速聞いてみた。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥である。
「あぁ、あれ?あれはね、君を俺のお客さんとして正式に認めるってことだよ」
「?お客さん??」
はて。言っている意味がまだわからない。
首をかしげた少女に、苦笑しながら男は更に教えてくれた。
「このマンションは警備が厳しくてね。たとえ親兄弟であろうとも、居住者本人が認めた人間でなければ立ち入りが禁止されてるんだ」
例の”こんしぇるじゅ”の他にも、このマンションには複数の管理者が存在し、建物内に入る人間すべてを監視しているらしい。
恐ろしい。
なんか私、もしかしてとんでもないところに来てしまったのではないだろうかとようやく気がついた。
「あの……私なんて登録しちゃってよかったんですか?」
所詮、今日あったばかりの他人である。
それともこの男は、こうしていつも家に女を連れ込んでいるのだろうか?
疑問が顔に出ていたのか、男はニッコリと微笑んで少女の頭にぽんと手のひら置いた。
「言っただろ?逃がさないって」
「……別に逃げません……けど……」
むしろここまで来たら美味しくいただく気マンマンである、とはさすがに言えない。
けれど気持ちは十分に伝わったのか、面白そうな顔で「じゃあ何も問題ないな」と笑った彼。
……問題、ないのだろうか。
よくわからない。
でもこれ一度で済ませるのには惜しい気はするから、私にとっては都合のいい話かも知れないと、どこか不穏な空気を漂わせる男の言動に目をつぶり、上目遣いにじっと男を見つめる。
「コーヒーでも飲む?」
「いえ……特にはなにも」
飲みたいのはむしろあなたの血ですとは言えやしない。
「ところで、あの……」
部屋の中に招待されたのはいいが、なぜか座るように言われたのがベッドの上だったのも少し気になる。
沈み込むような寝心地の良さげなベッドを手持ち無沙汰に撫でていれば、「ちょっと寝てみる?」と誘惑するような男の声が。
いや、これはむしろ誘惑されているのか。
ベッドに体を横たえたところで野獣のごとく襲いかかってくるとか!?
「よし好都合!!」
「え?」
「いや、なんでもないです」
つい心の声が口をついて出たのを慌ててごまかし、「それじゃ遠慮なく」と思い切りベッドに飛び込む。
思ったとおり、まるで抱きしめられているような見事なフィット感。
このまま寝れそうだ。
勿論、空腹でなければの話だが。
ギシ……。
「気に入った、そのベッド?」
「ええ、とっても」
背後に感じる男の気配。
軋むベッドと、男が服を脱ぎ捨てる乾いた音がする。
よかった。
どうやら、誘惑するまでもなく上手く事が運んでくれそうだ。
ベッドに俯せになっていた体がそっとひっくり返され、顔の横には彼の両腕が。
間近でみる彼の顔は、やはりもろに少女のタイプだった。
「――――ーーーーー名前は?」
随分今更な事を聞くな、と思ったが、ジッと見つめる視線に耐え切れず、少女は己の名をようやく口にした。
「レジーナ」
途端、男が少し驚いた様子で目を見張った。
「もしかして君……日本人じゃなかったのか」
「一応、母は日系英国人よ」
レジーナ、とは主に英国で使われる言葉で、その意味は「女王」。
男はどうやら意味を知っているようなので、「名前負けだと思った?」と聞けば、笑って首を振ってくれた。
それだけのことが、無性に嬉しい。
あぁ……。
『早く食べたい』
はだけたシャツから覗く骨ばった首筋が少女を誘惑し、まるで炎に惹かれる羽虫のように、ふらふらとそれに手を伸ばす。
手のひらにどくん、と感じる彼の鼓動。
「とっても美味しそう……」
つぶやいた少女に、彼は言った。
「それは俺のセリフだよ」と。
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