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目に入る全てが綺麗で可愛い、ロココ調やヴィクトリア調の家具たち。私は見ているだけで幸せな気持ちになれるのに、隣にいる彼氏は退屈そう。
セールのチラシを見て彼氏とやってきたアンティークショップ。少し割引されてるけど、それでもまだ私たちには手が出なかった。でも、いつかこんな家具に囲まれた素敵な家で一緒に暮らせたらいいね、なんて隣で彼女が言っているのに、スマホを片手に生返事は冷たくない?
彼氏の態度に少しがっかりしていると、一人の男性客が目に入った。店員さんを引き連れて、あれもこれもと注文している。こんなファンシーな店に男性が一人でいるのは珍しくて、しかもあまりにたくさん買うものだから、ついそちらに意識がいってしまって、気づけば若い女性店員と男性客の会話に耳を傾けていた。

「えぇ~!彼女さんへのプレゼントなんですかぁ!?優しい~!」
「あはは……これから一緒に暮らすので、彼女の好きそうな家具を揃えたくて……」

どうやら、あの男性は彼女へのサプライズでこんな素敵な家具を部屋に揃えてあげるつもりらしい。つい、隣にいるスマホゲームに夢中な彼を見てしまう。あんな風になんでも買って欲しいなんて言わない。せめて、どんなのが好きなのって聞いてくれるとか、お金貯めていつか買おうねって言ってくれるとか、それだけでも嬉しいのに。
あの男性は、次はベッドのコーナーへ向かう。なんとなく私たちもそちらの方へフラフラと歩いていくと、男性は店の中でもとびきり大きなベッドの前で足を止めた。

「こちらはヴィクトリアンスタイルのベッドになりまして、天蓋カーテンを変えることでまた雰囲気が変わっていいですよ~」
「いいですね、これ……彼女に似合いそうです」

まるで物語のお姫様が眠っていそうなベッド。思わずため息が出そうなほど美しいデザインだった。値札までは見えないが、きっと高いのだろう。でも、男性は値段など気にした様子はなく、平然としてあのベッドを購入していた。

「ありがとうございます!他にご入用のものはありませんか?」
「いえ、もう大丈夫です」
「かしこまりました。では配送のお手続きをいたしますので、お席へご案内いたします!」

目の前を通り過ぎていくその男性は、優しくて穏やかそうで、しかもなかなか整った顔立ち。つい、あの男性の彼女が羨ましくなってしまった。

「何見てんの?」

さっきまでスマホに夢中だった彼が声をかけてきた。私があの男性をじっと見ていたのが気に入らなかったのか、少し不機嫌な声。

「べっつにー。あんなに色々買ってあげるなんて、よっぽど彼女のこと好きなんだろうなって思っただけ」
「……こんな派手な家具、相手の意見も聞かず買い漁るなんて絶対ヤベェ男だって」
「そう?私だったらこんなに素敵な家具に囲まれた部屋用意されたら、一生そこで過ごしたいって思うけどな~」
「はいはい。腹減ったしもう帰ろうぜ」

確かに私もお腹が空いてきた。ロマンのカケラもない彼だけど、私にはお似合いなのかも。あの男性客とその彼女は、私たちとは違って、きっと小説に出てくるような素敵なカップルなんだろうなぁ。
やっぱり羨ましい気持ちは消えなかったけれど、彼の手をとって店を出た。
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