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本当にこんなところに家があるのかと不安になりながら山道を行くと、一軒のお屋敷が見えてきた。少し古いが、大きくて立派だ。車を停めて家のインターホンを鳴らすと、若い男性が出てきた。なんと、彼がこの家の主人らしい。もっと高齢の男性が出てくるものと思っていたから、少し拍子抜けだった。

「ご注文ありがとうございます。早速作業に入らせていただきます」
「はい。よろしくお願いします」

2階の部屋に通されると、他の部屋は家具が少なくて殺風景な印象だったのに、そこだけは絵画の中のような豪華な部屋で度肝を抜かれた。ソファもテーブルもベッドも、全部見たことないような豪奢なデザインだ。

「すごいですね…」
「あはは……この部屋だけは特別なんです」

思わず口をついて出てしまった言葉に、屋敷の主人は少し照れ臭そうに応えた。
作業に取り掛かってしまえば、あっという間だ。窓に縁を当てて固定し、ガラスをはめ込む。そしてもう一度内側に縁を当てて固定すれば、もう完成だ。

「すごい……僕の理想通りです……」

屋敷の主人の絞り出すような声に嬉しくなる。作品を見せた客は大抵大喜びしてくれるのだが、こんな風に、心からの感情が漏れ出たような反応をもらえたのは初めてだった。
この美しい部屋を、さらに気高い雰囲気に仕上げるステンドグラス。天使と、白やピンクの花のデザインは主張しすぎず、しかし精密に組まれたガラスは見るものの目を離さない。薄暗い部屋の中から見ると、外からの明かりで益々美しく見えた。

「ありがとうございます。すごく綺麗で……」
「気に入って頂けたようで……この部屋はどんな方が使われるんですか?」
「……僕の、恋人です」

こんな大きな屋敷を持っている割に、照れた顔は幼い。恋人のためにと、決して安くはないこのステンドグラスを用意した主人の心遣いを思うと、こちらも胸が温かくなるようだった。
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