カウントダウン

solid

文字の大きさ
5 / 6

5

しおりを挟む
敢えて部屋の明かりはつけずに、外から差し込む自然光で彼女のために誂えたステンドグラスの美しさを楽しむ。フカフカのベッドには新品のシーツ。ベッドの隣に置いたサイドチェストの上には、花飾りのテーブルランプ。必要なものは揃えたつもりだけれど、彼女は他にも置いて欲しいものがあるだろうか。全てが落ち着いたら、今度は二人であのアンティークショップに行くのもいいかもしれない。

もう、いつでも彼女を迎えられる。彼女はきっと、この部屋を見たら目を輝かせて喜んでくれるに違いない。これから始まる彼女との生活を思うと、幸せな気分になる。でも、その一方で不安な気持ちもあった。
もしも彼女がこの家を気に入ってくれなくて、帰りたいと言ったら?あの男に脅されていて、あの男の元に帰らなければならないと言い出したら?
時間はいくらでもあるのだし、いつまでかかってでも僕はここを彼女に気に入ってもらえる家にするつもりだ。でも、彼女がそれを待ちきれずに、ここから帰らせて、と言うことは、ないだろうか?
彼女の願いなら何でも叶えたいけれど、危険を伴うことはさせられない。あの男の手の届く範囲に帰すなんてもってのほかだ。

そう。時間はいくらでもあるんだ。正面から向き合って話し合えば必ず分かり合える。僕は彼女を心から大切に思っていて、絶対に守ると決めたのだから。
僕のそばにいることが、彼女にとって、二人にとっての幸せなんだ。

すっかり気に入ってしまったステンドグラスに目をやると、天使は穏やかな表情で目を閉じている。彼女のためにできる最善を尽くしなさい、と言われた気がした。



こんな山奥だからか時間がかかったけど、数日前に注文した品が届いた。ダンボールを開けると、中にはジャラリと音を立てる拘束具が入っている。

僕は、考えうる全ての状況に対応できるように、例え無駄になったとしてもどんな準備も怠らない。彼女がもしも錯乱したり、あの男に脅されてここから帰らなければ、と言い出したらいけないから、一時的に彼女をここに留めておけるようにと、こんなものまで用意したんだ。
勿論、こんなもの使わずに済むならそれが一番いい。僕だって使いたいわけじゃない。例えこれを使うような事態になったとしても、いつかはきっと、僕がどれだけ本気で彼女を危険から守ろうとしているか、彼女は分かってくれるはずだ。

もう、これ以上はないというほど準備は万端だ。あとは、あの天国のような部屋の主人となる、愛しい人を迎えに行くだけ。

明日、彼女をここに連れて来よう。

一人だと広すぎて少し寂しい家だけど、彼女が入ってくれれば僕もこの家をもっと好きになれる。そんな予感でいっぱいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

処理中です...