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敢えて部屋の明かりはつけずに、外から差し込む自然光で彼女のために誂えたステンドグラスの美しさを楽しむ。フカフカのベッドには新品のシーツ。ベッドの隣に置いたサイドチェストの上には、花飾りのテーブルランプ。必要なものは揃えたつもりだけれど、彼女は他にも置いて欲しいものがあるだろうか。全てが落ち着いたら、今度は二人であのアンティークショップに行くのもいいかもしれない。

もう、いつでも彼女を迎えられる。彼女はきっと、この部屋を見たら目を輝かせて喜んでくれるに違いない。これから始まる彼女との生活を思うと、幸せな気分になる。でも、その一方で不安な気持ちもあった。
もしも彼女がこの家を気に入ってくれなくて、帰りたいと言ったら?あの男に脅されていて、あの男の元に帰らなければならないと言い出したら?
時間はいくらでもあるのだし、いつまでかかってでも僕はここを彼女に気に入ってもらえる家にするつもりだ。でも、彼女がそれを待ちきれずに、ここから帰らせて、と言うことは、ないだろうか?
彼女の願いなら何でも叶えたいけれど、危険を伴うことはさせられない。あの男の手の届く範囲に帰すなんてもってのほかだ。

そう。時間はいくらでもあるんだ。正面から向き合って話し合えば必ず分かり合える。僕は彼女を心から大切に思っていて、絶対に守ると決めたのだから。
僕のそばにいることが、彼女にとって、二人にとっての幸せなんだ。

すっかり気に入ってしまったステンドグラスに目をやると、天使は穏やかな表情で目を閉じている。彼女のためにできる最善を尽くしなさい、と言われた気がした。



こんな山奥だからか時間がかかったけど、数日前に注文した品が届いた。ダンボールを開けると、中にはジャラリと音を立てる拘束具が入っている。

僕は、考えうる全ての状況に対応できるように、例え無駄になったとしてもどんな準備も怠らない。彼女がもしも錯乱したり、あの男に脅されてここから帰らなければ、と言い出したらいけないから、一時的に彼女をここに留めておけるようにと、こんなものまで用意したんだ。
勿論、こんなもの使わずに済むならそれが一番いい。僕だって使いたいわけじゃない。例えこれを使うような事態になったとしても、いつかはきっと、僕がどれだけ本気で彼女を危険から守ろうとしているか、彼女は分かってくれるはずだ。

もう、これ以上はないというほど準備は万端だ。あとは、あの天国のような部屋の主人となる、愛しい人を迎えに行くだけ。

明日、彼女をここに連れて来よう。

一人だと広すぎて少し寂しい家だけど、彼女が入ってくれれば僕もこの家をもっと好きになれる。そんな予感でいっぱいだった。
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