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魔族の恋人
無神経な人
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ラヴィアスとの久しぶりのお風呂は照れもあったけれど、嬉しさの方が上を行った。
それに……体を慣らすのだと言われて、色々されている……恥ずかしい。
一緒に寝るのも嬉しくて、抱き合って寝る事ができるって幸せだ。
そんなある日、執務室でユルの手伝いをしていれば、知らない魔族の人が来た。
短い黒髪に通った鼻筋。魔族って年齢不詳だけれど、少し魔王様みたいな雰囲気がある。
青色の瞳から鋭い眼光を放ち、ギロリと睨まれた。
人間が嫌いな人みたいだ。
そっとユルが俺の前に出て背後に隠してくれた。
「例の件、考えたか?」
「バイデン叔父上。その話は断ったはずです。それから、急な訪問は困ります」
叔父って事は、魔王様の弟かな。
「──叔父として甥っ子の心配をするのは当たり前だ」
「後継には兄上がいます。私には関係のない話です」
「魔族の王子として、伴侶を迎えるのは当たり前の事だ」
伴侶……。
考えなかったわけじゃないけれど、ラヴィアスに結婚しろって言ってるんだよね……。
嫌だと言えば嫌だけれど……ラヴィアスは、俺が独り占めしていい人じゃないのはわかる……。
「人間なんかで遊んでいる場合ではない」
また睨まれた。俺がラヴィアスと一緒にいる事をよく思われていないみたいだ。
「遊んでいません」
「──準備はできている。この数日でお前の目も覚める」
「私の城で勝手な事をしないで下さい!」
「明日には皆集まる。丁重にもてなせよ」
ふんっと鼻息を荒くして、さっさと執務室を出て行った。
ラヴィアスは、バイデンの出て行った扉を見つめてガックリと項垂れた。
ユルがラヴィアスに声を掛ける。
「強引に進めてしまいましたね……みんな忙しそうにしていましたよ」
「迷惑だと言ったのに……」
「仕方がありません。バイデン様の指示でしたら、城の者も従うしかありませんからね」
「くそ……」
ラヴィアスは、眉間に皺を寄せたまま、俺を見つめてくる。
「リディオ……明日から数日間、部屋から一歩も出るな」
「うん。わかった……」
ちゃんと説明されないのは慣れている。
俺は頷くしかない。
「部屋に戻れ。ユル、リディオを送れ」
「はい」
ユルに連れられて部屋に戻ってきた。
扉の前でユルと向かい合う。
「リディオ。今回はユシリスもフォウレも手が離せません。一人で部屋に籠る事になると思いますが、部屋から出てはいけませんよ」
「わかってるから大丈夫だよ」
一人で城を出歩いていると危ないもんね……。
「ラヴィアス様もしばらくは来れないでしょう。数日間の辛抱ですよ」
「ユルも、俺の心配ばかりしてないで仕事がんばってね」
「リディオ……」
ユルにギュッと抱きしめられるのは久しぶりだ。
優しい抱擁は、懐かしさが湧く。
ユルは、俺の母親みたいだ。
「何か必要な物はありますか?」
「うーん……それじゃあ、本がいっぱい欲しい。時間を潰すのに物語を多めにね!」
「わかりました」
優しく微笑んでくれるユルと別れて、一人で部屋に入って大きなため息をついた。
◆◇◆
それから一日経った。
城の外では色んな人が出入りしている気配がする。
この城に、魔族の人がいっぱい来ているみたいだった。
ご飯はシャールちゃんが持ってきてくれたけれど、忙しそうですぐに戻って行った。
俺も邪魔をしたくないから大人しくしていた。
この部屋は、広いワンルームみたいになっている。
ソファもベッドも扉を開ければ見える位置にある。
広いから仕切りがなくても気にはならない。
トイレもお風呂もついているから不便はない。
いつも通りに部屋にあるお風呂に入ってベッドに潜った。
また一人だ……ラヴィアスがいないと寂しい……。
なんて考えても仕方がないともうわかっている。
俺は人間だから、ラヴィアス達と同じようにはいかない。
さっさと寝よう。俺も逞しくなったと思ってもらえるようにしないといつまでも子供扱いだ。
夜も更けて、外も静かになった。
ウトウトしている時に、バルコニーの扉が開いた。
もしかしてラヴィアスかもしれない。
そんな期待をしながら、パッと起きてバルコニーの出入り口まで出迎えようとした。
「ラヴィアス?」
暗がりでよく分からない。
キョロキョロと部屋を見回している気配がする。
「ここは……ラヴィアスの部屋か? あいつの香りがするな……気持ち悪りぃ……」
声が……知らない人だった。
慌てて明かりをつけた。
そこに現れたのは、花みたいな薄紫色の髪を少し編み込んでいるちょっとチャラい感じの人だった。
服は真っ黒で魔族だとよくわかる。その人は、俺を見つけると眉間に皺を寄せた。
「お前──誰だ?」
「あなたこそ誰なのでしょう……?」
どっちかって言うと不法侵入はこの人だ。
しかも堂々と……。
「はぁ? 黒髪だからって馬鹿にしてんのか? 魔族なら俺を知っているだろ?」
魔族じゃないし……知らないし……。
近付いてきたその人は、ラヴィアスと同じぐらい身長があって、俺を見下ろしてきた。
青い瞳が宝石みたいで綺麗だった。
「お前……黒目じゃねぇか……まじか……」
「人間なんで……」
「はぁ⁉︎ その黒髪で人間⁉︎」
めちゃくちゃ驚かれて、まじまじと顔を覗き込まれた。失礼だ。
ちょっとイラッとして不機嫌な態度を表に出して、視線を逸らす。
「ああ……悪りぃ」
驚いた。自分が失礼だと気付いたのか謝られた。
悪い人じゃないのかもしれない。
「確かに……あいつの香りしかしないな……本当に人間なんだな。お前さ、その黒髪で人間界で暮らせたのか?」
「黒髪だったから……ここにいる……」
「でも、人間だよな? 魔界じゃ仲間外れだろ?」
「…………」
今現在仲間外れにされている。
「もしかして──ここで一人で閉じ込められている訳だ?」
この人……なんだよ……。
俺が気にしている事をズケズケと言ってくる。
悪い人じゃないけれど、無神経だ。
何も言わないでいると、ニヤリと笑った。
「なぁ、風呂かして」
急にそんな事を言われてガクッと力が抜ける。
なんてマイペースな人だ。
「面倒臭いイベントも遅刻だし、もう夜更けだろ? 今から顔出したんじゃ、ここの城のみんなに迷惑かけちまうだろ?」
「そういう事なら……どうぞ……」
「ありがとな」
ニカッと犬歯を覗かせて鼻歌を歌いながら、お風呂の場所を発見して中に入って行った。
「お風呂入ったら出てって下さいねー!」
返事はないけれど、聞こえているはずだ。はぁっとため息が出た。
とりあえず……寝よ。
それに……体を慣らすのだと言われて、色々されている……恥ずかしい。
一緒に寝るのも嬉しくて、抱き合って寝る事ができるって幸せだ。
そんなある日、執務室でユルの手伝いをしていれば、知らない魔族の人が来た。
短い黒髪に通った鼻筋。魔族って年齢不詳だけれど、少し魔王様みたいな雰囲気がある。
青色の瞳から鋭い眼光を放ち、ギロリと睨まれた。
人間が嫌いな人みたいだ。
そっとユルが俺の前に出て背後に隠してくれた。
「例の件、考えたか?」
「バイデン叔父上。その話は断ったはずです。それから、急な訪問は困ります」
叔父って事は、魔王様の弟かな。
「──叔父として甥っ子の心配をするのは当たり前だ」
「後継には兄上がいます。私には関係のない話です」
「魔族の王子として、伴侶を迎えるのは当たり前の事だ」
伴侶……。
考えなかったわけじゃないけれど、ラヴィアスに結婚しろって言ってるんだよね……。
嫌だと言えば嫌だけれど……ラヴィアスは、俺が独り占めしていい人じゃないのはわかる……。
「人間なんかで遊んでいる場合ではない」
また睨まれた。俺がラヴィアスと一緒にいる事をよく思われていないみたいだ。
「遊んでいません」
「──準備はできている。この数日でお前の目も覚める」
「私の城で勝手な事をしないで下さい!」
「明日には皆集まる。丁重にもてなせよ」
ふんっと鼻息を荒くして、さっさと執務室を出て行った。
ラヴィアスは、バイデンの出て行った扉を見つめてガックリと項垂れた。
ユルがラヴィアスに声を掛ける。
「強引に進めてしまいましたね……みんな忙しそうにしていましたよ」
「迷惑だと言ったのに……」
「仕方がありません。バイデン様の指示でしたら、城の者も従うしかありませんからね」
「くそ……」
ラヴィアスは、眉間に皺を寄せたまま、俺を見つめてくる。
「リディオ……明日から数日間、部屋から一歩も出るな」
「うん。わかった……」
ちゃんと説明されないのは慣れている。
俺は頷くしかない。
「部屋に戻れ。ユル、リディオを送れ」
「はい」
ユルに連れられて部屋に戻ってきた。
扉の前でユルと向かい合う。
「リディオ。今回はユシリスもフォウレも手が離せません。一人で部屋に籠る事になると思いますが、部屋から出てはいけませんよ」
「わかってるから大丈夫だよ」
一人で城を出歩いていると危ないもんね……。
「ラヴィアス様もしばらくは来れないでしょう。数日間の辛抱ですよ」
「ユルも、俺の心配ばかりしてないで仕事がんばってね」
「リディオ……」
ユルにギュッと抱きしめられるのは久しぶりだ。
優しい抱擁は、懐かしさが湧く。
ユルは、俺の母親みたいだ。
「何か必要な物はありますか?」
「うーん……それじゃあ、本がいっぱい欲しい。時間を潰すのに物語を多めにね!」
「わかりました」
優しく微笑んでくれるユルと別れて、一人で部屋に入って大きなため息をついた。
◆◇◆
それから一日経った。
城の外では色んな人が出入りしている気配がする。
この城に、魔族の人がいっぱい来ているみたいだった。
ご飯はシャールちゃんが持ってきてくれたけれど、忙しそうですぐに戻って行った。
俺も邪魔をしたくないから大人しくしていた。
この部屋は、広いワンルームみたいになっている。
ソファもベッドも扉を開ければ見える位置にある。
広いから仕切りがなくても気にはならない。
トイレもお風呂もついているから不便はない。
いつも通りに部屋にあるお風呂に入ってベッドに潜った。
また一人だ……ラヴィアスがいないと寂しい……。
なんて考えても仕方がないともうわかっている。
俺は人間だから、ラヴィアス達と同じようにはいかない。
さっさと寝よう。俺も逞しくなったと思ってもらえるようにしないといつまでも子供扱いだ。
夜も更けて、外も静かになった。
ウトウトしている時に、バルコニーの扉が開いた。
もしかしてラヴィアスかもしれない。
そんな期待をしながら、パッと起きてバルコニーの出入り口まで出迎えようとした。
「ラヴィアス?」
暗がりでよく分からない。
キョロキョロと部屋を見回している気配がする。
「ここは……ラヴィアスの部屋か? あいつの香りがするな……気持ち悪りぃ……」
声が……知らない人だった。
慌てて明かりをつけた。
そこに現れたのは、花みたいな薄紫色の髪を少し編み込んでいるちょっとチャラい感じの人だった。
服は真っ黒で魔族だとよくわかる。その人は、俺を見つけると眉間に皺を寄せた。
「お前──誰だ?」
「あなたこそ誰なのでしょう……?」
どっちかって言うと不法侵入はこの人だ。
しかも堂々と……。
「はぁ? 黒髪だからって馬鹿にしてんのか? 魔族なら俺を知っているだろ?」
魔族じゃないし……知らないし……。
近付いてきたその人は、ラヴィアスと同じぐらい身長があって、俺を見下ろしてきた。
青い瞳が宝石みたいで綺麗だった。
「お前……黒目じゃねぇか……まじか……」
「人間なんで……」
「はぁ⁉︎ その黒髪で人間⁉︎」
めちゃくちゃ驚かれて、まじまじと顔を覗き込まれた。失礼だ。
ちょっとイラッとして不機嫌な態度を表に出して、視線を逸らす。
「ああ……悪りぃ」
驚いた。自分が失礼だと気付いたのか謝られた。
悪い人じゃないのかもしれない。
「確かに……あいつの香りしかしないな……本当に人間なんだな。お前さ、その黒髪で人間界で暮らせたのか?」
「黒髪だったから……ここにいる……」
「でも、人間だよな? 魔界じゃ仲間外れだろ?」
「…………」
今現在仲間外れにされている。
「もしかして──ここで一人で閉じ込められている訳だ?」
この人……なんだよ……。
俺が気にしている事をズケズケと言ってくる。
悪い人じゃないけれど、無神経だ。
何も言わないでいると、ニヤリと笑った。
「なぁ、風呂かして」
急にそんな事を言われてガクッと力が抜ける。
なんてマイペースな人だ。
「面倒臭いイベントも遅刻だし、もう夜更けだろ? 今から顔出したんじゃ、ここの城のみんなに迷惑かけちまうだろ?」
「そういう事なら……どうぞ……」
「ありがとな」
ニカッと犬歯を覗かせて鼻歌を歌いながら、お風呂の場所を発見して中に入って行った。
「お風呂入ったら出てって下さいねー!」
返事はないけれど、聞こえているはずだ。はぁっとため息が出た。
とりあえず……寝よ。
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