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魔族の恋人

ユルの願望 ユル視点 *少〜し会話だけ

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 執務室には、ラヴィアス様が机に向かって書類を書いている。

 リディオはというと──。

「ユル……これでいい?」
「ええ。では、次はこっちの書類をお願いします」

 書類を振り分けていた。
 驚いた事にどこで覚えたのだか、字の読み書きができる。
 そういえば、幼い頃は図書室に入り浸っていた。だからかな。
 大いに役に立ってくれている。

 そして、一つ気になることがある。
 昨日は久しぶりにラヴィアス様とお風呂に入って一緒に寝たはずだ。
 あの薬も飲ませて準備万端だった。

 それなのに、リディオから香るラヴィアス様の香りが昨日と変わっていない!

「リディオ……昨日はラヴィアス様と寝ただけですか?」
「うん」
「ですよね……」

 そっとラヴィアス様の横へ移動して、ラヴィアス様に囁く。

「ラヴィアス様、どうしたのですか? 腑抜けになったのですか?」
「違う。ただ……ベッドが……」
「ベッドがどうしたのです?」

 弾み心地が悪いとかだったら買い替えなきゃ。

「ベッドが……ユシリスの香りがして……気が散った……。私が一緒に寝ていない間、時々ユシリスと寝ていたそうだ」

 なんてこった。
 ラヴィアス様は、移り香程度なら気にしないのに、ベッドは気になるんですね……。
 あの狼さん、純情少年のままで、本物の狼にならずに済んで良かったです。

「ですが、帰ってきた時はベッドでしようとしていましたよね?」
「あの時は……リディオに夢中で……」

 ……ご馳走様です。
 久しぶりにリディオに触れたので、タガが外れるのはわかります。

 すると、ふとラヴィアス様がほんのりと赤くなって口元を覆った。
 ニヤけている?

「でも、風呂では少しした」
「どの程度?」
「指は挿れた」
「痛がりませんでしたか?」

 淫魔の私は痛い事は全くないけれど、人間は違うはずだ。

「痛がっていたから……しばらくは風呂で慣らす」
「それがいいかもしれませんね」

 リディオから香るラヴィアス様の香りは以前に比べて強い。
 キスでもしない限り、他の香りがリディオに移る事はなさそうだ。
 焦る必要はないのかもしれない。

 一生懸命に仕事をするリディオを見つめる。

 魔族でも書類仕事はある。
 嘆願書だったり、請求書だったり、契約書だったり、たくさんの処理をする。
 そんな中でも特に多いのは結婚の申込書だ。
 魔族の王子であるラヴィアス様は、結婚相手を何人も選べる。男も女も関係ない。
 それでもラヴィアス様の心を動かした魔族はいない。

 結婚の申込書は丁寧に封筒に入っているので、リディオにはわからない。
 封筒の束が何を意味するのかリディオがわからなくて良かった。

 いっその事リディオと結婚してしまえばいいのだけれど、それには深い問題がある。

 彼が人間だと言う事だ──。

 今まで、人間と結婚した魔族はいない。
 結婚の許可を出すのは魔王様だから、結婚自体はできるだろうけれど、周りの反対は目に見える。
 私自身も人間自体を好きかと言われたら嫌いだ。
 リディオ自身を知らなければ、私も反対派だっただろう。

 そして、リディオの寿命は短い……。

 残されるのはラヴィアス様で、すぐに独り身になってしまう。
 そうなると、易々と賛成はできない。辛いのは残される方だ……。

「リディオ、来い」

 ラヴィアス様に呼ばれてリディオがラヴィアス様の方へ行けば、グイッと引っ張られてラヴィアス様の膝の上でお姫様抱っこされる。

「ラヴィアス、仕事は?」
「このままする」
「俺の仕事は?」
「お前の仕事は、私の側にいる事だ……」

 おや……まぁ……こちらが恥ずかしくなるようなこんなセリフをラヴィアス様から聞く日が来ようとは思いもしなかった。
 リディオは少し戸惑いながら私を見た。

「ユル、いいの?」
「ふふっ。リディオ。あなたはいつだってラヴィアス様の言葉を一番に聞きなさい」
「うん……」

 リディオは、ラヴィアス様にチュッとキスをされて真っ赤になった。
 ラヴィアス様がリディオを抱っこしながら書類の処理に励む光景は、リディオが幼い頃から変わらない。
 思わず微笑んでしまうのは、きっとこの二人を見るのが私は好きだからだ。
 この二人は結婚などにこだわる必要はないのかもしれない。
 ずっとこのままこの光景を見ていられたらいいのに……そう思わずにはいられなかった。
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