中学生のボク理論〜明けない夜はない〜

十人 秋夜

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「せーんぱい」
「せーんぱい」
「せーんぱい」
「せーんぱい」
「せーんぱい」
「せーんぱい」
 視界が揺らぐような蒸し暑い体育館の中、あの声がボクの頭の中をぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるした。
 ボクはたった一人である部に入った。男女混合のある部なのだが、ボクが入部した頃のこの部は、優しく面白い先輩達によってだった。とはいっても練習は一生懸命していたし、オンオフの切り替えが良かっただけだったのだと思う。ある程度市の大会であれば成績も残していたから、余計に良い思い出なのだ。
 変化があったのは二年生になった時、小一から続けている男女四人と初心者男女二人が一年生で入部してきた。つまり、二年生一人に対して、一年生六人だった。七月頃の三年生引退まではボクもただただ先輩についていき、あともう少しでボクも部長になってあんな風になるんだ、ってちょっとワクワクもしていた。
 ところが、ボクの指示に従う後輩は一人もいなかった。毎日毎日、放課後の部活が終わると、カッサカッサの喉で、ガラガラ声になっていった。身体にも様々な形でストレスが表れた。辛かった。顧問は放ったたかしで、経験のある一年生を大事にしていた。だから一年生も余計にボクを始めた。苦しかった。死にたくて、もう学校に行きたくない、って思った。休みがちにもなったし、成績も落ちて行った。どん底にいる感覚がボクにビッタリ付いていた。
 結局ボクは残りの二年生の間は休部することにした。部活に出る余裕もないくらいに身体も心も、くたびれていた。
「なんで部活に行かない?」
 友達のそんな言葉が、はまだ嫌だった。首を傾げて、ん~~っと苦笑いをしてやり過ごしていた。
 休部の間に少しずつ自分の気持ちを整理した。先輩が一人しかいなかったらナメて当然だと、自分でも思うようになった。後輩も悪くないし、ボクも悪くない。事故のようなもので、これから生きていく上ですごく良い経験だったと思う。こう思い始めて、ボクはちょっとすごいことに気づいた。「死ななくて良かった」心のどこかでそう思っている自分が出てきたのだ。それくらいボクは本気で死のうとしてたのかもしれないけれど、ボクの真っ暗な夜は明け始めていた。
 そして三年生の春、ボクは復帰した。もう、彼らのやりたいことについていこう。そう、決心して行った。が、友達に聞いていた通り、練習は一ミリもせず、二時間くらいの間ひたすらしゃっべって追いかけっこをしていた。またボクの頭の中がぐるぐるしだした。
 ボクが選んだ道は、一人で練習するということだ。自分は何をしに行っている?練習だ。ぐるぐるしそうになったら、その質問を繰り返した。
 思い出すと、涙が出てきそうになる。
 バレー部のエースの友達に相談すると、スパイクをぶつけてやるなんて笑って言ってくれた。女子卓球部の友達は一人で練習しているボクに遠くから手を振ってくれたりした。男子卓球部の友達は、後輩達と出身小学校が同じで「先輩に敬意を持て」なんて言っているところを見たりもした。ボクの友人の後輩は、ボクが練習場にモップをかけていると、「先輩が掃除してるぞ、良いのか?」と言ってくれていた。ボクの部の後輩が変わることはなかったけれど、ボクは普通の部活動というものを失って、本当の優しさを持った友人の存在を知ることができた。世の中捨てたもんじゃなかった。
 しかし、先生とは残酷だ。
「一人で練習しないでほしい」
 後輩とうまくやれ、的なことも言われた。普段は言い返せないボクも、「もうそんな段階じゃない。一緒にはできない」と、伝えたが、ボクが後輩達を毛嫌いしていると先生方は判断したようだ。ある時、ちょっと、と先生に呼び出された。ある教室に入れと言われた。
 
 息が止まった。呼吸の仕方を一瞬忘れてしまった。
 
 もう会いたくないと思っていた彼らがそこにいた。よく覚えていないのだが、すごい人数の先生と、六人の後輩、そしてボクがそこにいた。もしかしたらという言葉が先生方の間で出たのかもしれない。確かに一人で練習するのは見栄えも悪いし、外部の人に見られたらいじめと判断されてもおかしくないと思う。けれど、事実とは異なった推測で、当のボクの主張も聞き入れず、先生達はとりあえず一緒にしようとした。
 それからボクはすぐにあった市の大会で引退した。県大会に出ることもできたが、もう限界だった。
「なんで部活行かない?」
「後輩とうまく行かなくてさー」
「一人だから大変だな」
 今は笑って答えられている。
 大人になったらボクは孤立するかもしれない。もしかしたら、すごくたくさんの友人に囲まれているかもしれない。でも、この経験はすごく重たく、大きかった。こんなに友人に「ありがとう」なんて思うこと、これから先にはないと思う。
 今笑って、あの時は大変だったなーなんて言えるのは、ボールをぶつけてくれたり、手を振ってくれたり、ボクにはできなかったけれど、はっきり言ってくれた、心の綺麗な人達のおかげでしかない。
 そういえば、隣の席の子はその時何をしていたのかというと、ボクが見たときは先生に怒られたり引っ張られたりしていた気がする。それか、放課後にもなっているのに、まだ寝癖のついた髪の毛をふわふわさせて、ウロウロしていたと思う。
 もし近い将来、隣の席の子の名前がテレビから聞こえてきたら、ボクは周りに「この人の隣の席に座ってたんだ」と自慢しまくるだろう。「家も徒歩二分くらいで~」なんて長々と語ってしまうかもしれない。どんな分野で活躍するかなんて、ボクには想像もつかない。自分のでさえも将来について、何にも決まっていない。
 時々、未来が怖くなる時がある。それは暗闇の中をさまよっているような、恐怖ではないだろうか。一歩踏み出したそこは崖かもしれない。もしかしたら海かもしれない。真っ逆さまに落ちていくかもしれない。足の裏に釘みたいなのが刺さるかもしれない。
 それが嫌だったら、動かなければ良いと思うのだが、ボクはこうも思うのだ。三歩先にはかっぱえびせんが落ちているかもしれない。そこから二歩進んで振り返ると、バレー部のエースがいて、その隣にはコントの二人組がいるかもしれない。きっと、また明日晴れるか曇るかで盛り上がっていて、そのうち「ねぇ、春ノ日!」っていつものように呼んでくれるだろう。こう思うと、ちっとも怖くなくなる。
 国語でというものを知った。本当にそれらの言葉の意味は反対だろうか、と思う。良いの真裏に悪いが隠れているかはわからないのではないだろうか。だから、この向こうには悪いが隠れていると決めつけず、何があるかわからないから裏返してみよう、と思えば、いつかは偉大な発見ができるだろう。
 部活のことで悩んでいる時、友人が手を差し伸べてくれるなんて思いもしなかった。やっぱり明けない夜はないんだなと改めて思うと同時に、夜にもきらめく星々が無数にあるのだなと思った。
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