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第9話 心情を表現したらこうなった
しおりを挟むマノンが荒々しく席を立つと、腰ぎんちゃくのエマも慌てて席を立ちマノンに続いた。
それをマリアベルは鼻を鳴らして見送る。
その様子を遠目に見ていたルイーズが、心配そうに近づいて来た。
「クララベル、何かあったの?大丈夫かしら」
「お母様…。わたくしが田舎者で気の利いたことも言えないから退屈だとおっしゃって、帰ってしまわれたの。ごめんなさい」
「まぁ…!わたくしこそごめんなさいね。あなたのお友達になれそうなご令嬢を選んでお呼びしたつもりだったのよ。わたくしの判断ミスだわ」
「いえ、そんな。お母様は何も悪くありません。やはりわたくしは、まだシャールお兄様がいないとダメみたいです」
「あら、そう言えばシャールはどこへ行ったの?クララベルを一人にして」
「お兄様はかわいいご令嬢に温室を見せてあげたいと言って席を立たれましたわ」
「あの子ったら!!」
後でシャールはルイーズに叱られることが決まった。
守ってくれなかったシャールへの意趣返しである。
いつも気怠そうにしているが、シャールは女の子にもてた。
ちょっと悪そうな雰囲気が、かっこいいのかもしれない。
そしてシャールはその時々で、言い寄って来る女の子と適当に遊んでいるようだ。
今日も何人かの令嬢たちがシャールにまとわりつき、その中の一人が選ばれたのだった。
(けっ、プレイボーイめ)
マリアベルは鼻白んでそんなシャールを遠巻きに眺めていた。
お茶会が終わって邸の中に戻ると、長男のアルフレッドが声を掛けて来た。
「クララベル、お茶会は楽しめたかい?」
優しくにこりと笑いかけるアルフレッドに、マリアベルは少しだけ頬を赤く染めた。
「アルフレッドお兄さま。…あまりうまくいきませんでした」
しょんぼりと答えると、アルフレッドは大きな手でマリアベルの頭をくりっと撫でた。
「そういうこともあるさ。気にするな」
「はい。お兄様、ありがとうございます」
アルフレッドはシモン侯爵家の跡取り息子として、幼いころより厳しい教育を受けて来た。
周囲の期待に余すことなく応え、大変優秀な青年となった。
優しい甘いマスクに、性格もよい。家柄も文句なしとくれば、当然、こちらも女性に人気があった。
しかしシャールと違って、不真面目な付き合いは一切しない。
品行方正、超優良物件である。
アルフレッドの前だと、お転婆のマリアベルでも恥じらいのある淑女のようにおとなしい一面を見せてしまう。
そのためか、アルフレッドにはマリアベルの存在はまだ悟られてはいない。
そんな様子のマリアベルを見て、シャールは白目をむいたような変顔をマリアベルに見せた。
「なによ!その顔は」
「ぼくの心情を表現したらこうなったんだよ。兄さんの前では、しおらしいんだ?」
「だったら私だって、こうよ!」
マリアベルも負けずに変顔を作った。
「え、何その顔。どういう心情?」
「この女ったらし!という顔よ」
そう言ったマリアベルの頬っぺたをシャールは両側から指でつまんでグッと引っ張った。
「ひらい!」
「うわ、やわらけ~」
シャールは笑って手を離した。
「痛いじゃないの!ひどいわ」
シャールはケケケケ、と悪魔のように笑って去って行った。
クララベルに嫌がらせをしたメイドが紹介状も書いてもらえず解雇されると、見せしめとなったのか、侯爵家でいじめられるようなことはなくなった。
クララベルの周囲には優しい者が置かれ、少しずつクララベルの表情も明るくなった。
侯爵家に来てから、マリアベルの出番はだんだん減って行き、クララベルは侯爵令嬢として一歩ずつ成長していった。
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