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第8話 令嬢たちは図に乗る

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 そう言ってマリアベルはもぞもぞと体をくねらせている、足がいっぱい生えている虫を指でつまみ、ひょいっとメイドに投げ返した。

「ぎゃっ」

 メイドが身をよじって避けようとすると、マリアベルは鼻で笑った。

「そんな虫で私がこわがるとでも思った?おとなしくしていればつけあがって、あなたは一体どういうつもりでクララに嫌がらせをするの?」
「ちが、わたし、そんなこと・・・」
「何がちがうのよ。いつも嫌がらせをするときのあなたの顔、本当に醜いわよ。意地悪そうに笑って、人を馬鹿にして」

 メイドの女は羞恥なのか、怒りなのか、顔を真っ赤に染めた。
 そこへやって来た侍女長のナラは、マリアベルとシャールに深く頭を下げて詫びた。

「メイドの教育がなっていなかったようです。すべてはわたくしの責任でございます。申し訳ございません」

 ナラがそう言うと、意地悪メイドはもう立っていられなくなり、他のメイドに支えられて連れて行かれた。

「ぼくの方から父上には報告するけど」
「お手間を取らせ申し訳ございません。もちろんわたくしからも旦那様にご報告させていただきます」
「ああ、頼むよ。それから、クララベルの側には信頼のおける者を付けてほしい。侯爵家に来てまだ日が浅いんだ。不安な気持ちでいるのだから、心根の優しい者にしてくれ」
「かしこまりました」

 皆が立ち去った後、シャールはマリアベルと共に部屋に入り、マリアベルを椅子に座らせた。

「ねえ、ぼく言ったよね?周りにバレないように気を付けろって」
「ええ、気を付けたわ」
「いやいや、全然バレバレだよ?クララベルは虫をつまんで投げたりしないでしょ?」
「そんなことないわよ。クララは庭の草むしりだってさせられていたのですから、あんな虫くらいつまんで投げられるわ」
「そうなの?」
「そうよ!」

 シャールはなんだか頭が痛くなってきて、額を手で覆った。

「とにかく、クララベルらしく振舞ってよ」
「でも、それではクララを守れないわ」
「ぼくが守る。クララベルのことも、マリアベルのことも。だから騒ぎを起こさないで」
「え!守ってくれるの?」

 マリアベルは嬉しそうに笑ってシャールに抱きついた。

「シャールお兄様、ありがとう!大好き!」

 シャールはマリアベルの小さな体を受け止めながら、はぁ~とため息をついたのだった。


 ◆◆◆


(ぼくが守るって言ったのに、何やってんのよ、あの兄は!)

 ほんの数日後に早くも失望させられた。
 ここは侯爵邸の中庭。
 侯爵令嬢としての最低限のマナーはできているとして、ルイーズがごく少数の令嬢たちを招いて小さなお茶会を開いてくれた。
 心配だから、と同席を申し出たのはシャールなのに、気が付けばいなくなっている。
 気に入った令嬢と席を立ってしまったのだ。
 すると同じテーブルにいたマノン・ジラール侯爵令嬢が、急に態度を変えた。
 先ほどまではしおらしく、仲良くしましょう、などとほほ笑んでいたのに。

「あ~あ、シャール様がいなくなったら急につまらないお茶会になってしまったわ。どこぞの田舎から出て来た成り上がりのご令嬢とはまったく話が合わないし。ああ、なんだか田舎臭いわ。くさい、くさい。まあ、身分をわきまえて大人しくしているから、まだ許容できますけど!」

 それを聞いて、マノンの隣の席に座っていたエマ・ローラン伯爵令嬢がくすくすと嫌な感じで笑う。
 どうやらエマはマノンの取り巻き的存在らしい。
 クララベルは小さくなって俯く。
 その卑屈な態度に、さらに令嬢たちは図に乗る。

「ねえ、あなた。悪いこと言わないから、早くもとの田舎に帰った方がいいわ。ここはあなたのいる所じゃないの。わかるでしょう?シャール様がお優しいからって、甘えてはだめよ?あなたはシャール様の本当の妹じゃないのだから」

 そんな嫌味を言われている途中で、クララベルは意識を失った。
 マリアベルに選手交代である。

「ご忠告ありがとうございます?余計なお世話ですけれども」

 先ほどまでオロオロと俯くだけだったクララベルが、まさか言い返してくるなどと思っていなかったマノンは、ぎょっとしてクララベルを見た。

「な、なによ。田舎者のくせに生意気ね」
「ふふふふ、まさか田舎者が皆、従順だとでも思っていたのですか?」
「なんですって?!」
「まぁ、こわい。そのように目くじらをたてていたら、シャールお兄様に嫌われてしまいますわよ?もう手遅れかもしれませんけど。お兄様は先ほどの伯爵令嬢のような優しい方がお好みなのですわ。あなたと違ってね」

 マノンは怒りで両手がぷるぷると震えている。

「なんと無礼な!わたくし、失礼いたしますわ!」

 マノンが荒々しく席を立つと、腰ぎんちゃくのエマも慌てて席を立ちマノンに続いた。

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