異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第12章 強奪の地にて

第340話 廃虚に向かう道すがらの出来事

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 もしもロブ・エッグの廃虚に数多くの霊体がさまよっているとしたら、ちょっとばかり恐ろしい。
 本当にロクでもない亡霊になっているなら【追放】バニッシュメントの魔法でこの世界から追い払うしかない。
 しかしこれまでに出会った霊体達のように話が通じるなら、何か貴重な情報が得られるかもしれないし、その場合は彼らの手助けも出来るかもしれない。
 そんなわけで改めて『遠視』の魔法で城壁を見てみると、予想通りあちこちが崩れて無残な有様を晒している。
 ただ周囲には小さな集落や物売りの店らしきものが点在しており、それなりに人の出入りはあるらしい。
 数年前まで栄えていた都市だから、ドラゴンの襲撃で滅亡したとはいえど、そこに埋もれている宝を探している人間はそれなりにいるはずだ。
 もっとも以前に訪れたバッド・ディール酷い取り引きとは違って、廃虚を再建して、都市を復活させようとしているようには見られない。
 建物の破壊が著しいのに加え、他にも色々と理由があるんだろうな。
 ただこの様子からして、いくら何でも足を踏みいれた人間がいきなりモンスターや亡霊に襲われているような事は無いようだから、オレもちょっとばかり覗かせてもらうとしよう。

 オレが廃虚に近寄ると城門や、残っている城壁の大きな隙間にはいずれも検問のような施設が設けられている様子がうかがえた。
 どうやら人間が通れる場所はいずれもその出入りを見張る施設があって、通行料を取っているらしい。
 廃虚を観光施設に使っているのか、そこであさったものの上がりをかすめているのかは知らないが、浅ましい人間の欲望で滅びた廃虚も、結局は金儲けの材料になってしまっているのか。
 そりゃまあ元の世界でも滅びた都市の廃虚が観光名所になっている事は別に珍しくもなかったけど、一夜にして滅びてからせいぜい十年かそこらでこんな事になっているのは、他人事ながらかなり気になる。
 もちろんオレ自身、好奇心で廃虚を見てみたいとは思った身だから、偉そうな事を言えた義理では無い事は分かっているけどね。
 推測だけど先ほどの店の主人が『老若男女を問わず皆殺しにされた』と言っていた事から、遺族が殆どおらず、文句を言う相手もごく少ないのだろうな。
 だがここでオレの耳にちょっとした騒ぎの声が響く。

 なんだ? まるで戦いの喧噪みたいだぞ。
 オレが声のする方に振り向くとそこでは五人の武装した人間が、一人の男を包囲していた。
 そして中央にいる包囲された男は先ほど出会った『槍の人』だった。
 これはいったい何事だ?

「おい! その槍を渡してもらおうか!」
「ふざけるな。お前達なんぞに……いや。誰だろうとこの槍を渡しはせんぞ」

 男は手にした槍を構えつつ、周囲の相手を睨み付ける。

「どうせお前のような奴が持っていたって、何の意味もねえんだ。その槍の穂先だったら千金でも求めてくれるお大尽がいるんだぜ」

 そうか。やっぱり思った通り、あの槍は『魔力の込められたドラゴンの卵の殻』よりつくられた代物だったんだな。
 ドラゴンの卵を略奪してバラストールの町が栄えていた頃でも、その殻を加工した品物は莫大な金額で取引されていたと聞いていたけど、それがもう二度と手に入らないとなれば、とてつもない値段がついていても不思議ではない。
 当然ながらその『お宝』を手に入れたくて、暴力に訴える輩だって幾らでもいるだろう。
 たかが『槍の穂先』一つですら、人間の命と引き替えにされてしまいかねない存在になり得るということか。
 しかし包囲された男はまるで動じる様子は無い。
 たぶんこれまでに何度も同じような状況に直面し、切り抜けてきたのだろう ―― 数多くの流血でその槍の穂先を赤く染めて。

「いいだろう。お前らごとき雑魚など全員、この槍で貫き通してやるだけだ」

 そういって手にした槍を振ると、包囲した男達にひるみの色が見える。
 むう。関わり合いにならなければ、何もする気は無かったけど、目の前で死人を出すような真似はなるだけ避けたい。
 ここはいつも使っている暴力的活動を抑止する【調和】ハーモニーを用いて、戦いを止めよう。

「ええい! やっちまえ!」
「貴様らは皆殺しだ!」

 両者がぶつかり合おうとした瞬間、周囲の空気が硬直したかのように、一同は一斉に動きを止める。
 しかし連中が暴力を振るえない状態になったとしても、他に仲間がいるかもしれないし、余計な事が起きる前に早いところ、両者を引き離さねばなるまい。
 オレは連中の中に飛び込んで、槍の男の手をつかむ。

「何だお前は?」
「話は後です。この場は逃げて下さい」
「何だと……」
「とにかく急いで! 新手が来たら面倒な事になりますから」
「わ、分かった」

 男はかなり困惑した様子だが、今は暴力的な活動には出られないので、オレの言う事を聞き入れてくれたようだ。
 そんなわけでオレは男の手を引いて、武器を持った連中から急いで離れた。
 毎度の事だけど、たぶんこの男との関わりはこれだけで終わらないだろうな、という漠然とした予感があったけどな。
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