そんなに妹がお好きなら結婚したらどうですか? ほか短編・中編ファンタジー系まとめてみたよ短編集

天田れおぽん

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【短編 一万文字はない】廃棄聖女は里へと帰る 婚約も仕事もダメになりましたが私は幸せです

廃棄聖女は里へと帰る

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「本気でおっしゃっているのですか? セルジオ第三王子殿下」

 ルルアは銀色のまつ毛に縁取られた大きな目を見張って、目前の美丈夫に問う。

「ああ、そうだ。聖女ルルア。お前には聖女としての力が足りない。よって、婚約を破棄するっ!」

 金髪碧眼の王子が嬉しそうに指さす先で、銀髪の少女は細い体を震わせた。そして叫ぶ。

「そんな! 言いがかりですわ! 力は十分にございます。それに、私たちの婚約は国王陛下が直々になされたことではありませんか。セルジオさまの一存で破棄できるわけがありません」

「そんなことはありませんわ、ルルアさま」

「ユリナさま。なにをおっしゃるの?」
 
 ピンク色の髪をふわふわさせながらセルジオとの間に割って入った赤目の少女を、ルルアは銀の瞳で睨む。

「ふふっ。だって、聖女としてのお役目が果たせなかったのは本当のことではありませんか」

「それは……」

「ハハハッ! 見苦しいぞ、聖女ルルア。いや。聖女ですらない、ただのルルア! お前の化けの皮は剥がれたのだ。大人しく婚約破棄を受け入れて生まれた村に帰れ!」

 金髪に緑の瞳をした体格のよい青年が、ルルアを守るように第三王子との間に割って入る。

「セルジオ殿下! それはあまりにも酷い言い草ではありませんか?」

「黙れっ、キリアン! 護衛騎士の分際で余計な口を出すなっ!」

「ですが……」

「そうですわ、キリアンさま。お優しいキリアンさまがルルアを庇う気持ちは分かりますけれど。彼女が聖女として力不足であることは確かではありませんか」

「そんなっ」

「言い訳するな、ルルアっ! お前が結界を張ったはずの森に魔物が出たんたぞっ!」

「それはっ」

「言い訳は見苦しいですわ、ルルアさま。ああ、もう『さま』付けもしなくて良くなるのね、ルルア。聖女であれば王族と同等の身分が与えられるけれど。アナタはもう、聖女ではなくなったのですものね」

「ユリナさま……」

「元々アナタは平民。私は伯爵令嬢。身分を考えたら、この先は接点などありませんわね。清々するわ」

「ユリナさま。ルルアさまは、正式に聖女の資格を失ったというわけではありません。無礼な言動は御控え下さい」

「あら、キリアンさま。お優しいこと。ですが、魔物が出たのは事実ですわ。キリアンさまのお仲間も怪我をなさったではありませんか」

「それはそうですが……」

「そうだ、キリアン。元々、ルルアには聖女たる資格など無かったのだ。気遣いは無用だ」

「セルジオ殿下。たとえそれが事実だとしても、無理を言って村から王都に連れてきたのは国王陛下です。ルルアさまに、もう少し、敬意を払ってもよいのではありませんか?」

「ふんっ。この女が父上を謀ったのだ。同情は無用。こんな女、さっさと村に戻してしまえ」

「殿下っ!」

「いいのです、キリアンさま。私は、神殿の自室に戻りますわ」

「ルルアさま……」

「ああ、さっさと荷物をまとめて村へ帰れ」

「ふふふ。王都の聖女は無理でも、村ならまだ使えるかもしれませんしね」

「そうだな。田舎の神殿は聖女が不足している。王都で使えないような廃棄物でも、田舎の村でなら少しは役に立つだろう」

「殿下ッ! ユリナさまッ!」

「いいのよ、キリアンさま」

「ルルアさま……」

「私は自室に戻ります……」

 ルルアは二組の嬉々とした目と、一組の同情的な視線に見送られて部屋を後にした。

 ここは王族の住まう王宮の一室。

 そこを出た所で、ルルアの心休まる場所はない。

 疲れた足を引きずって、彼女は神殿の自室を目指した。

 贅を尽くした王宮を抜け、贅を尽くした神殿を抜けて、シンプルな部屋へと入る。

 余計なモノなど何もない、休むための部屋だ。

 簡素なベッドと着替えを収納する小さなクローゼット。

 そのわずかなスペースしかないクローゼットもスカスカな、質素な部屋。

 それがルルアの自室だった。

「疲れた……」

 着替えもせずにルルアはベッドに倒れ込む。

 ルルアは17歳。聖女だ。

 平民である彼女は、王都から東にある小さな村の出身である。

「聖女になりたくてなったわけじゃない……」

 そもそも、聖女とはなりたくてなるモノでもない。

 神に与えられた力を持つ女性。それを聖女という。

 力といっても出来ることは様々あり、主に結界を張る守りの力と癒しを与える治癒の力の二種類がある。

 ルルアが持っているのは、結界を張る守りの力だ。

 力の程度は様々で、王都だけでなく地方の神殿でも働いている聖女はいる。 

「王都にだって、来たくて来たわけじゃないし……」

 ルルアが王都に来たのは十年前。七歳の時だ。

 村に国王陛下が立ち寄った際に魔物が出た。

 国王一行を付けてきたらしく、狙いは国王。

 子供たちを視察していた時に現れた魔物を、ルルアが撃退してしまったのだ。

 ルルア自身も力を持っていることに気付いていなかった時期の事だった。

 聖女の力が発動しなかったら、ルルア自身も命を落としていた事だろう。

 平和な村であったため、魔物退治に長けた兵士たちも油断していて近くにはいなかったのだ。

 護衛は居たが、彼らが守るのは国王陛下であり、子供たちではない。

 あの時、力が発動してくれたことにはルルアも感謝している。

 だが、そのせいで王都まで連れて来られてしまったのだ。

 ルルアにとっては不運な出来事だった。

 不運は更に続く。

 神殿での鑑定により、ルルアの力が国内最大である事が判明。

 その場で第三王子との婚約が決められた。

 ルルアの力を国のモノにするための婚約だ。

 そこからルルアは里には戻っていない。

「お父さんとお母さんの所へ戻れる……」

 それはルルアにとって朗報である。喜ばしい。

「でも……セルジオさまの独断だもの。また話が変わることだって……」

 ルルアにしても、セルジオとの結婚は受け入れがたい。

 愛してくれる人、ルルアを大切にしてくれる人との結婚であれば、まだ検討の余地がある。

 セルジオは、どちらもルルアに捧げるつもりはないのだ。

 最初に会った時から、セルジオとルルアは合わなかった。

 どちらかと言えば真面目なルルアと、いい加減な所のあるセルジオは水と油。

 自分中心で思いやりに欠ける第三王子のことが、ルルアはぶっちゃけ嫌いだ。

 村に戻れるのなら、その方がいい。

「そもそも、私、歓迎されてないもん。王都で」

 国王陛下が連れ帰った聖女のことは、王都でたちまち話題になった。

 第三王子の婚約者になった事も、あっという間に知れ渡り、ルルアに向けられたのは醜い嫉妬だ。

「意地悪もいっぱいされた……」

 田舎の村から連れて来られた平民の子が聖女になることが気に入らない人たちは沢山いた。

 娘を聖女にしたい貴族たちや聖女になりたい令嬢たち。
 娘を聖女にしたい平民たちや聖女になりたい平民の少女たち。

 ルルアの味方を見つける方が、はるかに難しかった。

 聖女が王族と同等の身分を与えられている、といっても、収入や後ろ盾には違いがある。

 聖女の仕事に報酬はない。

 生活の面倒をみて貰えるだけだ。

 その生活の程度には違いがあり。

 ルルアには平民並だったり、平民以下のものがあてられた。

 王都に来たばかりの頃は、それでも国王陛下の目があった。

 命の恩人ということで、多少の優遇はされていたのだ。

 七歳の子供ということもあり、気にかけて貰えた。

 それが一年経ち、二年経ちしていくうちに変わっていく。

 ルルアがココにいることが当たり前になったからだ。

 七歳と十歳では気の使われ方は違う。

 十歳と十二歳でも、だいぶ変わってしまう。

 成人年齢が十五歳の国だから、その頃には扱いだけは一人前だ。

 大人の聖女を気にかける者などいない。
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