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セリナの憂鬱と決断

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 双子たちと朝食を食べ終わり、パティスリーを開店してケーキやスコーン、焼き菓子の売れ行きを見ながら追加分を作り一段落ついた頃だった。調理場と保冷庫に置いてある果物の在庫を確認して、私は腕を組んだ。

「ふむ……。そろそろ果物を買いに行こうかしら」

「あ、セリナ様。市場に行かれるんですか?」

 開けっぱなしの扉から、ひょっこり猫耳と顔を出したルルに尋ねられて一つ頷く。

「うん。今、行っても大丈夫かしら?」

「ショーケースの中にあるケーキの個数は余裕がありますから大丈夫ですよ~」

「そう、じゃあちょっと行ってくるわね!」



 こうして私は手押し車を押しながら市場へと向かった。果物を販売する露店で色とりどりの果物を眺めて、店の主人に薦められて黄色や緑色の熟した梨、レモンやリンゴ、ブドウを購入して手押し車の中に入れた。

「今日も良い果物が手に入ったわね」

 ホクホク顔で市場から出ようと思ったその時、不意に大きな物音がして悲鳴が上がった。何ごとかと思って見れば黒衣の男性が複数の編みカゴや木板を倒して、市場の片隅で倒れている姿が見えた。

「おじさん、ごめんなさい! ちょっと手押し車、ここに置いておくから見ておいてもらえる!?」

「ああ、分かったよ!」

 果物を売っている露店のおじさんに手押し車のことをお願いした私は、足早に倒れている黒衣の男性に駆け寄った。

「どうしたんですか!? しっかりして下さい!」

 うつ伏せに倒れている黒衣の男性を仰向けにして、私は唖然とした。暗い金髪を乱して血の気が失せた顔色で、ぐったりしている黒衣の男性は王立学園時代に同じクラスだったダーク王子だったからだ。

「ダーク王子!?」

「おまえは……。セレニテス子爵家の」

「ええ、セリナよ。いったい何でこんな所で……」

 そう言いながらダーク王子の腰に触れていた自分の手に、ぬるりとした感触を受けて意味が分からず見れば私の手はドス黒い血で濡れていた。

「くっ」

「あなたケガを!」

「えっ! ケガをしてるのかい!? お医者さんを呼ばないと!」

 倒れたダーク王子の様子を何ごとかと恐る恐る伺っていた、通りすがりのおばさんが慌ててお医者さんを呼びに行った。苦痛に顔を歪めるダーク王子と手についた大量の血液に、これは一刻も早く治癒させないと命に関わると感じた私は傷口に治癒魔法をかけ始めた。

 やがて傷口に魔力が集まっているのが感じられたのだろう。ダーク王子が苦し気に閉じていたまぶたをゆっくりと開いた。
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