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セリナの憂鬱と決断

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 私が呼びかけても第四王子はまぶたを開かない。腰の傷口に触れれば、治癒魔法によって傷はすでに塞がっている。これ以上、どうすれば良いのか分からず顔を上げると、先ほどお医者さんを呼んでくると言っていたおばさんが白髪の老人をともなって慌てた様子で来るのが見えた。

「お嬢ちゃん、お医者さんを呼んできたよ!」

「先生! お願いします」

「ああ、しかしこれは……」

 白髪の老人は青い顔でぐったりとしているダーク王子を一目見るなり、沈痛そうな表情を浮かべ手首と首筋の脈拍を確認し、閉じられているまぶたを開いて瞳孔の状態を見た。

「ダメだ……。もう死んでおる」

「そんな!」

 私が叫んだ時、遠くから複数の兵士がこちらにやって来るのが見えた。ダーク王子は第三王子が殺害された時の凶器を隠すように言っていた。しかし、この状況で隠すと言ってもどこへ? 

 周囲に散乱した編みカゴ、複数の板切れ、そして果物屋の露店前に置いた手押し車。せわしなく周囲に視線をさ迷わせた私は、老医師の影に身を隠しながら意を決した。



「隊長、いました! ダーク王子ですっ!」

「やっと追いついたか……」

 若い兵士二人と、遅れてアゴ髭がある人相の悪い中年兵士が「ゼイゼイ」と肩で息を切らせながらやって来て、ダーク王子の遺体を検分し始めた。

「これは……。すでに死んでいるのか?」

「ええ、つい先ほど息を引き取られたようですな」

「貴様は?」

「私はこの近くで医者をやっております。ケガ人がいると呼ばれて来たのですが、私が来た時にはもう亡くなっておりました」

「そうか……。そっちの娘は?」

 アゴ髭の兵士に視線を向けられた私はダーク王子の遺体の横で、力無く座り込みながらうつむいた。

「私は、この人が急に倒れたから心配して見に来たのですが……」

「隊長! ライガ殿下から回収するようにと命じられていた宝剣が見当たりません!」

「なんだと!?」

 ダーク王子の遺体を検分していた部下の言葉を聞いたアゴ髭の兵士は、じっと私をねめつけた。

「小娘。貴様、宝剣を知らんか?」

「……知りません」

「嘘を言えば、罪に問われることになる。正直に話すなら今の内だ。宝剣と言っても短剣で……。小娘、貴様いつまで座っているんだ?」

 遺体の横でずっと座り込んでいる私を、アゴ髭の中年兵士は不信そうな目で見ている。

「目の前で人が亡くなってしまったからショックで……」

「小娘、ちょっと立ってみろ。もしや、そのスカートの中に宝剣を隠し持っているのではないだろうな?」
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