花言葉を俺は知らない

李林檎

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似てる似てない

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イノリはせっかくシヴァが美味しそうにお菓子を食べてくれてるのに空気を悪くさせちゃダメだと笑うが、無理してるのがバレバレなのかシヴァは苦笑いしていた。
それでも何も聞かないシヴァの優しさに救われたような気がした。
シヴァはどう説明しようか悩んで、諦めた顔をした。

勉強不足で申し訳なく思った。
分かってたらシヴァの負担を無くせたのにと思う。
イノリとして一生を過ごすならいろいろ経験が大事だろう。

「説明下手でごめんね、簡単に言うと恋人同士のお祭りだよ」

その説明だけで、行きたかったあの祭りだと分かり頷いた。
…しかし参加はしないだろう、イノリの好きな人とは絶対に行けないから…
でも別の形で参加したいなと考えた。

「ねぇシヴァくん、出店とかあるかな?」

「出店?…あー、確かそんなのもあったかなぁ…俺、ずっと誰かと行きたいって思ってなかったからよく知らないんだ」

出店があればイノリも出したいと考えていた。
客として参加しないならせめて盛り上がるためになにかしたかった。
シヴァも知らないのかと残念に思っていたら遠慮がちにこちらをチラチラ見る視線に気付いた。

またなにか注文かな?と残りわずかになったカップケーキの皿を見つめる。
シヴァは切なそうに見つめるだけ…
なにか言いたげな瞳だったが、自分への好意に鈍感なイノリは全く気付いていなかった。

「えーっと、イノリさんは誰かと…その、予定とか」

「俺?ないない!恋人同士のお祭りには興味あるけど、今は一緒に行ってくれる人はいないし…それに、出店として参加したいなって思ってるんだ」

「出店、かぁ」

シヴァはなんかイノリが過去形で話すのに疑問があったが深く聞かず、出店としての参加を決意しているイノリに落ち込んだ。
少しでも参加したいと思ってくれてたら誘えたが、イノリは参加する気がなさそうに思えた。

シヴァは同僚にカーニバルの事を聞き密かに楽しみにしていた。
イノリと一緒に歩けたらとても楽しかっただろうな…と最後の一切れを口の中に放り込む。

恋人同士のお祭りなら、それっぽいお菓子がいいだろうなぁーって材料を考えていたら誰かが店にやって来た鈴の音が聞こえて入り口を見る。
シヴァはカップケーキを食べ終わり接客の邪魔になるといけないからと椅子から立ち上がる。

「いらっしゃいませ」

「………」

店にやって来たのはイブでムスッとした顔をしていた。
イブはこの店に入るのをかなり悩みためらいながらやっと入り、疲労していた。
しかしそんな努力なんて会話に夢中になっていたイノリは知らない。

なにかあったのか、でもいつも瞬と会うと不機嫌になっていたからいまいちイブの感情が分からない。

シヴァがトレイを持つからイノリが止めた。
置いてってくれたら自分で片付けるつもりだった。

「美味しいものを食べさせてもらったし、洗うよ」

「お客さんに頼めないよ、大丈夫だから」

イノリに優しく言われると何も言えなくなるシヴァは申し訳なさそうにイブの横を通り抜けて店を後にした。
イブはシヴァが去った方をジッと見ていた。

イブはシヴァを知ってるのだろうか。
ハイドにとても似ているから最初は驚いただろう。
イブの顔から感情が分からない。

食器を片し、イブに声を掛ける。

「彼、似てるよね…ハイドさんに」

「…全然似てないよ」

イブは小さくそう呟きこちらに振り返った。
確かに性格とかは似てないけど、イノリとイブの感じ方が違うのかなと心の中で納得した。

イブも瞬のカップケーキを美味しそうに食べていたから甘いものは好きなんだと分かるが、女の子が好みそうなデコレーションしているお菓子が特に好きみたいだ。

今、お客さんの女の子に一番人気のクマの形のモンブランをジッと見る。

栗を耳に見立てて作ったのが可愛いと評判だった。
可愛い顔のイブにとても似会うと思った。

「それにする?」

「…どれでもいい」

そう言うイブだが、目線はクマのモンブランに釘付けだった。
どれでもいいならクマのモンブランでもいいよね。
箱に入れてイブに渡し、お金を受け取る。

またイブに手作りお菓子を食べてもらえてとても嬉しかった。

イブは帰らず動かないからまだなにかほしいのかと思っていたらイノリの方をジッと見ていた。
その真剣な眼差しにイノリも緊張した。

「あのシヴァとか言う男にあまり近付かない方がいい、君のためだよ」

「……俺、の?」

イブはそれだけ言い店を出ていった。

残されたイノリはイブの言葉の意味が分からず呆然としていた。



ー?sideー

街をいつものように歩いていて、ふと頭が痛くなり人気のない路地裏に急いで向かう。

バクバクする心臓を落ち着かせながら何処かの店の壁に寄りかかる。

苦しい痛い…右目がなにか訴えてるような気がした。

子供の頃から左右の目の色が違い、周りの同じ歳の子供には気味悪がり近付いてくる人はアイツだけだった。
本人もこんな目に生まれたかったわけじゃないのにと悲しい気持ちになって。
唯一、幼馴染みだけが理解してくれて一緒にいてくれた事が支えだった。

左目は赤なのに右は青い瞳だった。
それでなんかの力が目覚めるとかそんな話ではなく…ただ、青い瞳を見ると我を忘れそうになる。
だから普段は特注のカラコンを着けていてイズレイン帝国に越して来た日からこの秘密は幼馴染みしか知らない。

イノリも知らない秘密…一番嫌われたくない相手だから自分から明かす事は絶対しない。

青い瞳を隠す眼帯を外すと、気持ちがスッと楽になる。
…その目を隠すなと誰かに言われているようだ。
同時に頭痛もなくなり、少し呼吸を整える。

不思議と、さっきまでの記憶が薄れてきて…何も分からなくなる。
きっとこれは、罰なのだろう…愛する者を守れなかった自分への…

カツカツと足音が聞こえて眼帯をズボンのポケットに雑に入れる。

少々乱れた髪を整える。

「こんなところにいたのか、探したぞ…ハイド」

「…悪い、抜け出して」

ハイドは疲れたような顔をしていた。
口の中が少し甘くて気分が悪くなった。
リチャードはハイドと非番が重なり、瞬の墓参りに行く途中だった。

墓に戻された瞬がちゃんと元通りか心配だったからでもある。
そして、瞬が死んだあの場所を通った時ハイドの意識がなくなった。
一緒にいたリチャードはハイドになにがあったのか分かっているだろうが、きっと何も言わない。

何度か同じ状況になった時もリチャードは誤魔化して何も言わなかった。
だからハイドもいつしか聞くのをやめた。

リチャードがハイドのポケットからはみ出した眼帯を見て複雑な顔をしていた事に気付かなかった。

瞬の墓参りに行こうとするハイドをリチャードが腕を掴み止める。

「墓参りなら俺が行く、お前は帰って休め」

「…そうはいかない、少しの間留守にするから瞬にも報告したい」

「留守って…お前また敵国に」

「霊媒師に会うだけだ」

リチャードはまたハイドが一人で敵国に乗り込む気かと焦った顔をしたが、ハイドの言葉にホッとして腕を離す。
ヴァイデル国は少し遠く、往復だけで3日も掛かる。
霊媒にも何日掛かるか分からないからハイドは長期休暇をもらっていた。
カーニバルまでには帰ってくるつもりだったが、1日は遅れる気がした。
近くに敵国のハーレー国があるが、ハイドがほとんど倒したからもう一人でも大丈夫だ。

一週間もカーニバルをやってるから1日くらいどうってことないとリチャードは思うが、ハイドが心配だった。

今までもそうだったが、降霊術に失敗して瞬と会えなかった時のハイドの落ち込みようは酷いものでリチャードはもうあんなハイドは見たくなかった。

「ハイド、どんな結果になっても気を落とす事はないぞ」

「…分かってる、そうなったら次の方法を探す」

死んだ人間をずっと想い続けてハイドは幸せになれるのだろうかとリチャードは疑問だった。
だからハイドに美人や瞬みたいなのがタイプなのかと普通顔の人を何人か紹介してるが、全く興味がないのか指先一つ動かさず無関心だった。

…瞬には悪いが、ハイドには新しい恋をしてほしかった。
帝国一の英雄の人生を死人探しで無駄にさせたくない。
最初は一度瞬に会えれば諦めるだろうと思っていたが、会えたとしてもハイドの欲求が増すのではと複雑な気持ちになった。
もし、瞬と一緒にいたいから死ぬとか言い出したら…

リチャードは自分よりハイドの幸せのためならハイドが嫌がる事も出来る…結果的にハイドのためになるなら…

「ハイド、俺はお前に幸せになってほしいと思ってる…だからお前が悲しむ顔は見たくない」

「お前は俺が不幸に見えるのか?」

見えないよ、愛する人を想うハイドはとても幸せそうに見える。
…けど、死んでる人間は生きてる人間を幸せになんて出来ない。

親友としてリチャードに出来る事は、新しい恋をするために背中を押す事だ。
瞬もハイドも大好きだから二人が結ばれるのが一番良かったのにといろんな感情が混ざりながらハイドと共に墓参りに向かった。
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