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初代国王

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現状については、理解した。
問題は、これからのことだ。
ガゼルのことも気にはかかるが、封印の中で解析は終わっている。
同じ魔法はアズールには、もう効かないだろう。

すると、ルーンが提案してきた。
「それで、勇者と魔王をなくす代わりに、アズールにはこの世界を統治するため、中央の国王になってもらうわ。」
「勇者から国王へと変わるのか。」
今までは、国というものはなく、世界をおさめる人物はいなかった。
魔物は魔王が支配し、人間は勇者が統制していたのだ。
それを、いくつかの国に分け、その中央にある巨大国家の王にアズールはなるらしい。
ルーンが魔物を消し、魔王がいない今、勇者が国王という立場なのは間違っていないかもしれない。

「そう。勇者は記憶に隠して、人間の国王として生きるの。」
「人間として………。」
「でも、アズールはエイルにしか殺すことは出来ない。ずっと不老不死でいたら、まわりが不審に思うわ。」
「確かに。そうだな。」
「だからある程度、年齢がいったら自動的に年を戻す。赤ちゃんまで。」
「だが、年齢を戻すとなると、不都合も出てくるだろう。世襲制で王国は続く。結婚は、俺はしない。」
エイル以外の、人物と結婚など考えられない。

だが、ルーンは、そこは考えてがあるらしい。
ポゥッと、アズールの魂を包んでいる右手とは反対の手で、ひとりの司祭を写す。
司祭の正装を身につけた、二十歳くらいの優しそうな男性が立って、祈りを唱えている。
前には、同い年くらいの女性がいて、司祭を通して女神像に祈りを捧げているようだ。
「この人達は?」
「彼らに啓示をして、アズールの守護者になってもらう。そして、その子孫にも。外向きには実際の親子として育ててもらい、アズールがいない時は、国王代理として動いてもらったら良いと思う。」
顔も何も似ていないのに、それで何とかなるのか、と疑問におもうが、これがルーンの考える1番良い方法らしい。
意外と信徒いるから信じてもらえるのよ、とルーンは自慢げに言うが。そういうものなのだろう。
確かに、創造神から啓示で言われたら、信心深い国民ならば疑いもしないのかもしれない。

「そうか。分かった。」
繰り返すのか。長い年月、人生を。

まず記憶を全て紙に記録をして、忘れた時に困らないようにしなくては。
でも、彼女に関する事は記さないでおこう。
また、あの初めて会った時の幸福感を味わえるなんて、未来の自分が羨ましい。
アズールはかすかな希望を見い出した。
そしたら、いつかきっと。
「また、エイルと出会える。」

エイルに会ったら、絶対に同じ間違いはしない。
その時のために、平和な国をにしよう。
他国からも侵略されないような国をつくり、世界全てを統治する。
そのためには、何でもしよう。

ただ、忘れていた。
魔王を失ったガゼルが、長い年月、どれだけの憎しみを勇者に向けるのかを。




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