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二章 心を取り戻す為に
四話 少年を連れ帰った
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あれから八年後に再会を果たすとは、影井は想像もしていなかった。峰岸もその時の事は覚えていなかった為、ただ虐待して性を発散する為に少年を買ったのだ。
峰岸の部屋で少年に会った時は、影井は気付いていなかった。だが、少年と二人きりにされた翌日の朝、帰ってきた峰岸に話を聞いた。
影井は夜中の内に、部屋の隅で丸くなって眠っている少年をベッドに移動させ、自分は居間のソファーで眠った。
朝方目が覚めると、影井が帰っていた。
「起きたか。ベッドで寝りゃ良かったのに」
「あの子が部屋の隅で寝てしまったから」
「あー。アイツ嫌がるぞ?」
「お前がベッド使わせてないんじゃないのか?」
「ちげーよ! 最初はベッドに寝かせようとしたさ。つか、俺だってアイツの面倒見るの大変なんだからな。お前は分からないだろうが、松山のせいで……」
「松山!? 松山って、あの?」
「そうだよ。アイツに買われた子供は皆心が壊れてしまう。アイツが子供を道具にしたててしまう。
俺が破格の値段で買えたのは松山のせいなんだよ」
「……って事は、俺とお前が初めて行ったオークションで松山に買われた子ってもしかして」
「考えた事なかったが。まさか……」
峰岸が冷や汗を流し苦笑した。あの時影井が必死に買おうとしていた子供を何の因果か峰岸が買っていたと、影井も峰岸も信じられなかった。
すぐに峰岸がオークションを開催している組織に連絡したところ、影井が買おうとした少年だという事が分かった。
「まさか、だったな」
峰岸は驚きが隠せない。
「松山から解放されたのに、次に買われたのがお前だなんてな。
俺には峰岸の人に暴力を振るわないと興奮出来ないその性癖は理解しかねる」
「理解なんて求めてねぇよ」
「とにかく、彼は俺が預かる。あんな子供に、あんな事して。お前のそれは病気だぞ? 精神科にでも行って治せよ」
「はっ、俺は昔からこうだよ。お前だって知ってて俺の友人でいるんじゃねぇのかよ?」
「知ってる。友人だからこそ止めてやってるんだろ。
そもそも安値で買ったんだろう? 二年も遊べば元は取れてるはずだ、このまま俺が連れて帰るぞ」
「元は取れてるけどな。十万、それで売ってやるよ」
「この悪徳商人め。分かったよ」
峰岸は闇商人だ。非合法なものを高額で売り付けている。影井がその仕事に対して口出しする事は一切ない。
また、峰岸も商売について影井に相談をする事はなかった。仕事は一切関わりのない友人だと互いに思っている。
そして影井は名前も知らない、顔は痣だらけで眼帯までしている少年を連れて帰ったのだった。
影井は、峰岸のマンションから二キロ程離れた結構近い位置に聳え立つタワーマンションに住んでいる。
十階に住んでおり、部屋の間取りは2LDKだが一部屋一部屋が十畳~十二畳と広めだ。その部屋で一人暮らしをしている。
少年を部屋に案内すると、少年は困った顔を影井に向けた。どこにいていいのか分からないようで、ソワソワと立ち尽くしている。
この時影井はまだ何も分かっていなかった。
「君、椅子に座りなさい。何か食べたいものはあるかい?」
ダイニングは正方形のテーブルと椅子が向かい合って二脚置いてある。
その内の一つの椅子を指さすと、少年は言われるがまま椅子には座ったが、無表情のまま「はい」とだけ答えた。
はいと答えた後、何もしないし、言わないのだ。
「何が食べたい? 先に飲み物にするか?」
「はい」
困惑した影井はとりあえず麦茶をグラスに入れて少年の前に置いた。
だが少年は何も動かない。
「良かったら飲みなさい」
言われて初めて少年はゆっくりとコクコクと麦茶を飲んだ。峰岸が少年の世話が大変だと言っていた理由を少し理解した。
「俺はこれから仕事に行かなければならない。一人になるが、この部屋の中では自由にしていて良いから」
何も反応しない少年の頭を撫で、影井は出掛けてしまった。時刻は九時を回っている。
いつもなら朝早く出勤しているが、今日は事が事なだけに、秘書に電話をして遅刻をする旨を伝えた。
もっと少年の事を峰岸に聞いておくべきだったと、後悔する事になるとは知らずに。
峰岸の部屋で少年に会った時は、影井は気付いていなかった。だが、少年と二人きりにされた翌日の朝、帰ってきた峰岸に話を聞いた。
影井は夜中の内に、部屋の隅で丸くなって眠っている少年をベッドに移動させ、自分は居間のソファーで眠った。
朝方目が覚めると、影井が帰っていた。
「起きたか。ベッドで寝りゃ良かったのに」
「あの子が部屋の隅で寝てしまったから」
「あー。アイツ嫌がるぞ?」
「お前がベッド使わせてないんじゃないのか?」
「ちげーよ! 最初はベッドに寝かせようとしたさ。つか、俺だってアイツの面倒見るの大変なんだからな。お前は分からないだろうが、松山のせいで……」
「松山!? 松山って、あの?」
「そうだよ。アイツに買われた子供は皆心が壊れてしまう。アイツが子供を道具にしたててしまう。
俺が破格の値段で買えたのは松山のせいなんだよ」
「……って事は、俺とお前が初めて行ったオークションで松山に買われた子ってもしかして」
「考えた事なかったが。まさか……」
峰岸が冷や汗を流し苦笑した。あの時影井が必死に買おうとしていた子供を何の因果か峰岸が買っていたと、影井も峰岸も信じられなかった。
すぐに峰岸がオークションを開催している組織に連絡したところ、影井が買おうとした少年だという事が分かった。
「まさか、だったな」
峰岸は驚きが隠せない。
「松山から解放されたのに、次に買われたのがお前だなんてな。
俺には峰岸の人に暴力を振るわないと興奮出来ないその性癖は理解しかねる」
「理解なんて求めてねぇよ」
「とにかく、彼は俺が預かる。あんな子供に、あんな事して。お前のそれは病気だぞ? 精神科にでも行って治せよ」
「はっ、俺は昔からこうだよ。お前だって知ってて俺の友人でいるんじゃねぇのかよ?」
「知ってる。友人だからこそ止めてやってるんだろ。
そもそも安値で買ったんだろう? 二年も遊べば元は取れてるはずだ、このまま俺が連れて帰るぞ」
「元は取れてるけどな。十万、それで売ってやるよ」
「この悪徳商人め。分かったよ」
峰岸は闇商人だ。非合法なものを高額で売り付けている。影井がその仕事に対して口出しする事は一切ない。
また、峰岸も商売について影井に相談をする事はなかった。仕事は一切関わりのない友人だと互いに思っている。
そして影井は名前も知らない、顔は痣だらけで眼帯までしている少年を連れて帰ったのだった。
影井は、峰岸のマンションから二キロ程離れた結構近い位置に聳え立つタワーマンションに住んでいる。
十階に住んでおり、部屋の間取りは2LDKだが一部屋一部屋が十畳~十二畳と広めだ。その部屋で一人暮らしをしている。
少年を部屋に案内すると、少年は困った顔を影井に向けた。どこにいていいのか分からないようで、ソワソワと立ち尽くしている。
この時影井はまだ何も分かっていなかった。
「君、椅子に座りなさい。何か食べたいものはあるかい?」
ダイニングは正方形のテーブルと椅子が向かい合って二脚置いてある。
その内の一つの椅子を指さすと、少年は言われるがまま椅子には座ったが、無表情のまま「はい」とだけ答えた。
はいと答えた後、何もしないし、言わないのだ。
「何が食べたい? 先に飲み物にするか?」
「はい」
困惑した影井はとりあえず麦茶をグラスに入れて少年の前に置いた。
だが少年は何も動かない。
「良かったら飲みなさい」
言われて初めて少年はゆっくりとコクコクと麦茶を飲んだ。峰岸が少年の世話が大変だと言っていた理由を少し理解した。
「俺はこれから仕事に行かなければならない。一人になるが、この部屋の中では自由にしていて良いから」
何も反応しない少年の頭を撫で、影井は出掛けてしまった。時刻は九時を回っている。
いつもなら朝早く出勤しているが、今日は事が事なだけに、秘書に電話をして遅刻をする旨を伝えた。
もっと少年の事を峰岸に聞いておくべきだったと、後悔する事になるとは知らずに。
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