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男の趣味は似る?
しおりを挟む「男の趣味って似るんだなあ」
頼まれていた玉子とそれに手土産を買い、家に戻ると、私たちは改めて師匠に結婚を許して貰えるよう頭を下げた。
──男の、趣味?
自身の顎をさすりながらしみじみと言う師匠の言葉の意図が分からず、思わず隣にいたエクトルの顔をまじまじと見てしまった。
「……俺はソフィアのお父上に似てるのでしょうか?」
「うん。もっとあいつは見た目からして真面目そうだけどな。でも、明るくて単純そうなところとかよく似てるよ」
──似てるだろうか。
確かに、髪が黒いところとか、背がすらりと高いところは父と似てるかもしれない。
顔立ちは、エクトルのほうがずっとカッコいいと思うけど。
明るくて単純というのは、エクトルには失礼だけど分からなくもない。
田舎の父も、貴族家の家令にしては裏表のない性格をしている。誰に対しても明るく、いつも元気なところとか似ているかもしれない。
うちの父も元騎士で、師匠のお付きだった。師匠は何か思うところがあるのだろう。
「……エクトルがソフィアの旦那になるのもお付きの騎士になるのも、本音じゃ許したくないが、ソフィアがこれ以上悲しむのは嫌なんだよなあ。……仕方がない。ソフィアの笑顔のためだ、許すよ。結婚のことは、私からアーベルに連絡しておくから心配しなくてもいい」
師匠はこれでもかとしかめっ面をして、私たちの結婚と、護衛契約を許してくれた。が、しぶしぶ感がすごい。父に話をしてくれるのはありがたいが、もっと祝福されたかったと思うのは贅沢なことだろうか。
「レイラーニ閣下、お許し頂きありがとうございます……! 絶対にソフィアのことは幸せにしてみせます!」
「うんうん。クローデットのことも今後も逆恨みされないように私がなんとかしておくよ。君らに子どもが産まれたら、一緒に育児も手伝うからな」
「何から何まですみません……!」
──お師匠様は何をどこまでご存知なのかしら……。
クローデットがエクトルに求婚していたことも知っていたし、何ならエクトルが断ったことによる逆恨み対策までしていた。
私がこの一月間、沼に沈むがごとく落ち込んでいた原因も当然のようにご存知だった。
さすが、軍の魔導師の中でもトップクラスで偉い人は観察力が違う、と思った。
……少々怖くもあるが。
エクトルの前で聞くのはどうかと思ったが、最近ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「お師匠様、最近ずっと私にお付きの騎士を持つようにと言ってましたよね……? 誰か勧めたい人でもいたのですか?」
「ああ、良い感じの女性騎士がいたんだ。ソフィアはここ一年、ずっとエクトルから性的に搾取されていただろう? 親としてこれ以上見ていられなくてな」
「お待ちください! 性的搾取とは誤解です!」
「付き合ってもいない、五歳も年下の女の子をベロベロに酔わせて最後までしたクセに何を言っているんだお前は」
「そっ、それは……!」
「私は全部知った上で反対したんだからな」
師匠は本当に何もかもをご存知だった。
私の処女喪失の日まで把握しているとは。
恥ずかしいのを通り越して、固まってしまった。
「お前らは身体の関係になる前に、三年もの付き合いがあったからまだいいが、ちゃんとした恋人同士になる前にそういうことをしてはいけないな」
「はい……」
「まあ、お前たちはまだ若いんだ。先は長い。今結婚して失敗しても、人生いくらでもやり直せる。気楽にやりなさい」
「こ、ここで失敗した時の話をするんですか……! 閣下!」
「何を隠そう、私が結婚に失敗したからな。三十歳の時に四歳年下の部下と結婚したが、亭主面しようとする元部下にだんだん我慢が出来なくなってな。結婚した当初は良かったんだが……。ソフィアが産まれてからはずっと別れ話ばかりしていたよ。田舎暮らしにうんざりしていたし、何より男に養われている生活がどうしても性に合わなかった。ソフィアの父親のことは愛していたが、それだけでは駄目だった」
「お師匠様……」
生々しい師匠の話。
師匠は十六年前に父と別れていた。
王都生まれの王都育ち。三十歳まで魔導師としてばりばり活躍していた師匠は、父と結婚して父の生まれ故郷へ行ったが、田舎暮らしに馴染めなかったらしい。
師匠は私が産まれてからずっと別れ話をしていたと言っているが、私は両親が言い争っている姿は見たことがない。それなりに仲の良い夫婦だと思っていた。
「ま、アーベルは私と別れた後、元婚約者と一緒になって今は幸せにやってるんだ。別れを決断した私の判断は間違ってなかったと思うよ」
カラッと師匠は笑うが、父のことを思うと複雑だった。
父はいつまでも師匠のことを引き摺っていたし、今でこそ父と師匠は良い友人関係を築いているが──父には未練があったんじゃないかと思っている。
「俺はソフィアに後悔なんてさせませんっ!」
「お、その意気だ。期待はまったくしてないが、がんばれよ、エクトル」
「少しは期待してください!」
口で言うよりも、師匠はエクトルのことを歓迎しているんじゃないかと思うが、師匠の考えはどうにも気まぐれで読めないところがある。
何はともあれ、エクトルと結婚出来ることになった。
エクトルの今後を思うと、これで良かったのかと思わなくもないが、この一月間、鉛のように重く感じていた臓腑がすっと軽くなったような気がする。
──もっと早くにエクトルと向き合っていれば。
エクトルから逃げず、きちんと彼と向き合っていれば、もっと早くに誤解は解けたはず。
結婚はお互いの価値観をすり合わせる作業だと師匠も言っていた。
彼と幸せになるためにも、私はもっと大人にならなければ。
ふんっと息をはき、まずはエクトルに正直に謝ることにした。
「ごめんなさい、エクトル……」
「何で謝るんだ?」
「……私はこの一月間、あなたから逃げていたのよ。あなたがクローデットと結婚するかもしれないと思って、怖くて」
「そんなわけないだろ、……と言いたいところだが、相手は侯爵家だもんな。そう易々と求婚を断れないと思うよな、普通。……ま、俺はすっぱり断ったけどな!」
師匠が急遽仕事の呼び出しをくらってしまったので、私たちは部屋を移動していた。
何気にエクトルが私の部屋にいる状況は珍しいかもしれない。
自分たちが座る長いソファの後には、四柱式のベッドがある。今、家には二人きりだ。密室に二人でいる状況が久しぶりで、ちょっとドキドキする。
「ソフィアに信じてもらえなかったのはショックだが、ま、これからは君に信頼して貰えるようにもっと頑張るよ」
「本当にごめんなさい……」
「謝らなくていいって。……ソフィアがどうしてもお詫びしたいなら、今からしてくれてもいいけど」
「えっ」
「閣下も出掛けたし、今からしないか?」
私がぱちぱちと瞬きすると、エクトルは蠱惑的に微笑む。確かに最近、ご無沙汰だった。主に私が逃げていたせいだが。
「え、あの、お師匠様が戻ってきたら……!」
「服を着たまますればいいんじゃないか? そうすればすぐに誤魔化せる。ほら、胸のボタンを開いて、服の裾を捲って」
そう言うと、エクトルは長いソファの隣に座っていた私の胸元に手を伸ばす。ぷちんと上から三番目あたりの小さなくるみボタンを外された。
「それに俺たちは結婚するんだ、仲が良いのは結構なことだろう?」
「っ……んっ、でも、声を聞かれたら恥ずかしい……!」
「優しくするから声は我慢しような」
首元から胸のすぐ下まで、あれよあれよと言う間にボタンは外されてしまった。肌が外気に晒されて落ち着かない。開いた胸元から整えられた指先を差し入れられ、ぽろんと白いたわわがまろび出る。
「ソフィアの胸っていいよな。白くて柔らかくて、感度も良くて」
「ば、ばか!」
ぺしんとエクトルの肩を叩き、「ベッドへ行きましょう」と私は彼を誘った。
私はどこまでも快楽に弱い女だった。
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