【R18・完結】私、旦那様の心の声が聞こえます。

野地マルテ

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過去の思い出

※初夜

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 チェチナは今日、十歳年上の伯爵家当主ウィンストゲンと結婚式を挙げたばかりの新妻だ。
 ナイトドレスに身を包んだ彼女は悩んでいた。

 ウィンストゲンから、口から発していないはずの声が聞こえるのだ。

 (あの声は一体なんなのかしら……。ウィンストゲン様は何も話されていないのに、声が聞こえるなんて。私、頭がおかしくなってしまったのかしら)

 ウィンストゲンは口では妻の自分を愛し、伴侶として対等な存在だと認めるようなことを言っているのに、『あの声』は完全に自分のことを子ども扱いしていた。

 結婚したばかりの夫から聞こえる謎の声。湯殿に浸かりながら考えたが、あの声が彼の本音なのではないかとチェチナは考える。小説でああいうのを読んだことがある。しかし、小説の設定では大概は逆だった。表向きは新妻に興味のない様子なのに、頭の中は新妻のことでいっぱいというのが物語のセオリーなのに。

 チェチナがベッドの端に座り、うんうん唸りながら考えていると、戸が叩かれた。彼女は慌てて返事をする。
 扉の前にはウィンストゲンがいた。彼は柔和な笑みを浮かべている。

「チェチナ、準備は良いだろうか?」

 ウィンストゲンはゆったりとした綿のシャツとズボン姿だった。上下は揃いの生成りの服で、明らかに夜着姿だ。チェチナの胸が緊張で跳ねる。とうとう、初夜を迎える時がやって来たのだ。

「はい……!」
「すまないな。本当は君と関係を築いてから初夜をするべきなのだろうが……」
「大丈夫です! 覚悟は出来ておりますから!」
「そうか」

 元気いっぱいに答えるチェチナに、ウィンストゲンは小さく笑うと、彼は彼女を抱き寄せた。

 チェチナはウィンストゲンの腕の中で胸を高鳴らせる。どのような夜になるだろう。生成りのシャツからは清潔な匂いがする。彼の胸元に頬を寄せると、じんわり温かく、心地良い。
 彼女が瞼を閉じたその時だった。臀部へ腕を伸ばされたと思ったら、そのまま尻を鷲掴みにされた。

 (えっ……⁉︎)

 尻たぶに指が食い込むのではないか。それぐらいの力加減でむにりと掴まれ、ぐにぐにと揉まれている。
 性急な行為にチェチナは戸惑うが、身体が固まってしまってウィンストゲンを止めることが出来ない。

 《子どもかと思っていたが、尻の肉付きは良い。本で読んだ知識だが、これなら出産も可能だろう》

 ウィンストゲンはなんといきなり尻の感触を確かめ出した。普通は口づけを交わすなり、手の甲や髪にキスなりを落としてから行為を始めるものだろう。それを、両手を使っていきなり尻を揉むとは。
 しかも尻を揉むと同時に股間も擦り付けている。チェチナは腹部に擦り付けられている硬くて熱いものに小さく悲鳴をあげた。

「どうした? チェチナ」
「あ、あの……そんな……いきなり……」
「やはり嫌になったのか? 交合が」

 《怖がっているのか。やはり見た目通り子どもだな》

 呆れたような、ウィンストゲンの第二の声。
 チェチナは慌てて否定する。

「違います! したいです! 交合を!」
「そうか。今夜は頑張ろうな」

 全力で交合がしたいと宣言してしまったチェチナは首まで真っ赤になる。何なのだ、このやりとりは。いくら家同士が決めた結婚とはいえ情緒がなさすぎる。
 しかし、彼女の戸惑いはこれで終わらなかった。


 ◆


 《う~ん、なかなか解れないな。こんなことで果たして繋がれるのだろうか》

「うっ……あっ」

 ベッドの上、チェチナは大きく股を広げたまま、天井を見上げていた。その瞳には光はない。
 彼女は脚の間にウィンストゲンの指を三本も咥えこんでいる。それまで何も受け入れたことの無かった蜜口は限界まで押し広げられ、皮膚が突っ張っていた。
 チェチナは股だけでなく、胸のまわりも唾液でベタベタにしていた。ウィンストゲンに執拗に愛撫されたことで、薄紅色だった尖りは硬くなり、赤く充血している。

 (どうして……こんな……)

 ウィンストゲンの愛撫はとにかくねちっこかった。交接時にチェチナに怪我を負わせたくないのは分かるが、だからと言って十回も絶頂を迎えさせるのはやりすぎだ。指でがつがつ隘路を攻められたせいで、チェチナはウィンストゲンの指で処女膜を失っていた。
 チェチナはもう、慣れぬ衝動を受け入れすぎて動けなかった。少し油断したら気を失ってしまうかもしれない。身体がとにかく重怠い。頭の中も霧掛かったように思考が回らない。


「もうそろそろいいかもしれないな。チェチナ、挿れるぞ」
「はぁい……」

 本来ならば怖く思うはずの初めての挿入も、チェチナは逆にホッとした。この執拗な愛撫が終わるのなら、何でもいい。

 《はぁ、緊張するな……》

 しかしこの挿入でも、ウィンストゲンはやらかしてしまう。彼がじっくり解してくれたおかげで、つるんと肉棒は根元まで入っていったのだが。
 緊張すると第二の声が吐露した瞬間、

「うっっ……」

 ウィンストゲンは「しまった」と言わんばかりに、苦悶の声を出す。なんとチェチナの奥へ自身を埋めたと同時に、彼は果ててしまったのだ。

 《しっ、しまった。「あたたかいな」と思って気が緩んだら出てしまった……!》

「旦那様?」
「す、すまない……」

 下腹の奥にじわりと広がる温かいもの。膣に収まったものはビクビクと跳ね回っている。未知の感覚にチェチナが目を丸くしていると、またウィンストゲンの第二の声が飛んできた。

 《挿れたと同時に果ててしまうなんて。これでは童貞だったとバレてしまう……!》
「えっっ」

 (ウィ、ウィンストゲン様が童貞……⁉︎)

 ウィンストゲンは社交界でも評判の美男子で、色々な女性との交際が噂されていた。舞踏会でも常に派手な女性達に囲まれていたのだ。
 それが、童貞とは。
 やはり、この第二の声は彼の真実を告げてくれているのではないか。男性が己の性体験の無さについて暴露しないだろう。普通。
 一瞬、チェチナは彼が同性愛者なのではないかと勘繰ってしまったが、一応自分のことを抱けているので異性愛者ではあるのだろう。

 チェチナが戸惑っている間にも、脚の間に収められたものはむくむくと力を取り戻している。昂りを吐き出したことで一度は柔らかくなっていたが、チェチナがウィンストゲンの真実を知った衝撃で蜜口を窄めたことが、刺激になったようだ。

「チェチナ、行為を続けてもいいだろうか?」
「は、はい」
「すまない、いきなり精を吐き出してしまって……。驚いただろう」

 ウィンストゲンは眉尻を下げているが、チェチナ的には抱いて貰えるか不安に思っていたので、むしろいきなり精を吐き出して貰えて嬉しいぐらいだ。

「私は……嬉しいです。旦那様が私相手に出来なかったらどうしようって思っていましたから」
「何を言っているんだ。君は魅力的な女の子だ。そんなことあるわけないだろう」

 ウィンストゲンは腰をぐいぐい押し付けながら、熱っぽく見つめてくる。肉棒の丸い穂先が、最奥に当たっているらしい。柔らかなところをぐっと押されると鈍い痛みが走った。
 チェチナは苦悶の表情を浮かべて、ウィンストゲンの背を叩く。

「うぅ、旦那様……深いです!」
《すごい、奥まで挿れると亀頭からまるごと包み込まれるようだ。チェチナの中はなんて温かく柔らかいのだろう。締め付けはとてもキツいが、肉壁に扱かれるのは気持ちいいな……》
「ああっ、あ!」

 初夜の時は、まだ行為の最中でもウィンストゲンの心の声が聞こえていた。初めて知る女の味にウィンストゲンは陶酔していた。チェチナはウィンストゲンの背に腕を回し、必死になって彼の行為を受け止める。
 
「チェチナ」
「は、はい……んんぅっ」

 名前を呼ばれ、チェチナが顔を上げると、すぐさま唇を唇で覆われた。彼女の目はまた点になる。結婚式で交わした口づけとは比べものにならないぐらい、それは強いものだった。口づけというよりも、喰らいつかれると表現したほうが正しいかもしれない。勢いが強すぎて歯が当たってしまった。

 最初こそ痛みや圧迫感ばかり感じていたが、ウィンストゲンの性急な口づけを受け入れながら、下腹を攻められ続けているうちに、少しずつ苦しみ以外の感覚も湧いてきた。

「ふうぅっ」

 ウィンストゲンは腰を打ちつけながら、チェチナの紅い唇を舐めて、吸った。
 結合部からは粘着ある水音が絶えず漏れていて、チェチナは自分の身体が変わってしまったのだと思った。自分の股がこんなにも濡れるだなんて。
 肉棒で濡れた中を抽送されるたびに、びくりと腰が小刻みに浮き、媚肉内が戦慄く。小刻みに迎える絶頂が心地よく、チェチナはウィンストゲンに身を任せながらうっとりしていたのだが、彼はまた苦しげな声を漏らした。

「チェチナ、駄目だ……うっ、また」

 ウィンストゲンは腰を震わせると、またチェチナの中へ精を吐き出す。股間をぐっと押し付け、胎の奥へ奥へと白濁を注ごうとするのは本能だろうか。

「旦那様、大丈夫ですか?」

 ウィンストゲンが苦しそうに吐精するので、チェチナはよしよしと彼の背を撫でた。この行為は攻め手の方が辛いのかもしれない。

 《うまく出来ただろうか……。キスをしたのも今日が初めてで、歯が当たってしまって恥ずかしい》

「とっても良かったと思いますよ?」

 彼の心の声があまりにも自信なさげだったので、チェチナは思わず返事をしてしまった。いや、しかし、キスも初めてとは。今夜は驚きの連続だ。

「本当か? もうしたくないとは思わないか?」
「そんな! 旦那様とくっついていられて気持ち良かったです」

 チェチナが鈴の音のような声で笑うと、また下腹に埋められたものの質量が増した。さすがにチェチナも焦る。こう何度も何度も抜かずに行為を続けられては、体力的に厳しい。

 《チェチナも気持ちよく感じてくれた……良かった。今夜は初夜だ。若い彼女を満足させられるように頑張ろう》

「えっっ」

 すでにチェチナは満足していた。へとへとだった。出来ればこのまま行為を終わらせて欲しいと思っている。しかし、三十近くなって初めて女の味を覚えてしまったウィンストゲンの暴走は止まらない。

 結局ウィンストゲンはチェチナを抱きに抱き潰し、次の日からは『多くても二回』という暗黙のルールが二人の間に出来るのだが、それはまた別の話だ。
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