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第1部 隠された令嬢

24.避けられる理由 披露会編2

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 さあ、さあ、どこからどんな攻撃が飛んでくるの!
 心の中で身構えていると、最初のお客様がやってきた。

 40代くらいの口髭をはやした紳士と貴婦人だ。

「この度はお招きいただき、ありがとうございます。タイナー伯爵家の当主ウィリスと家内のケイティです」

 タイナー伯爵家は、ヘイゼル家側の招待客で公爵様と仕事を以前一緒にされた関係で懇意にしている家柄だ。
 経済学に詳しくて、帝都の流通を取りまとめている大貴族でもある。

 挨拶を返そうとすると、こちらが口を開く間もなく、

「お二人に幸福が訪れますように!」

 早口でそう言って、ご夫妻はすぐに公爵様とお父様たちの方へ挨拶に行ってしまった。

 きっとそちらと早くお話がしたかったのね……そう思って、次のお客様が現れると、やっぱりその人達も私とアルフリードとは全く会話せず、

「こんなにお綺麗な令嬢なら、エスニョーラ侯爵でなくとも隠したくなってしまうでしょうな」

 と、すぐさまお父様の方に向かって話を始めた。

「あ、いや、隠したのではなく、病気で……」

 お父様が焦っている。
 せっかく公爵様が取り繕ってくださったのに、隠されてたって言うのは世間一般に広まっちゃってる様子だ……

 その後の人達も、顔はニコニコしているのに、私たち2人を避けているかのような不自然な態度で、もう10組以上は相手をしたのにまだ一言も会話らしき会話をしていなかった。

 へえぇ? 一体なんなの!!

 困るような質問をされて答えられないって事がないのはいいけど、明らかに避けられすぎだし、それって逆に失礼では?

 分からないでいると、前から見知った方々が登場した。
 皇女様と王子様だ!

 王子様は歓迎会の時と微妙に模様の違う民族衣装だけれど、皇女様はベルベットの光沢のある濃い紫色のスカート部分がボリューミーなドレスを着ていて、いつも以上に美しさに磨きがかかっていた。

 やっぱり2人のオーラは格別すぎて、周りにいる人々が避けてどんどん道を作ってくれるので、すぐにこちらに進んできた。

「2人ともおめでとう。エミリア嬢、これでやっと好きなように外へも出られるな」

 はああ、やっとまともに話しかけてもらえた。

「はい! 皇女様、私たち何か変でしょうか? お客様達に避けられてるような気がするんですが……」

 皇女様は王子様と顔を見合わせた。

「なに、気づいてないのか? お前達、2人並んでる姿を鏡に写してみるといい。ちょっとおかしいくらい、綺麗すぎる」

 なんですか、その意味不明すぎる説明は……
 またそれを、絵画から抜き出てきたような皇女様がおっしゃいますか?

「近寄りがたいほどに美しく仕上げたからね。当然の結果さ」

 そう言うと、王子様はサラサラの自分の髪の毛に片手を通してサッとなびかせた。

 やっぱり同じように美しすぎる王子様に言われても説得力が湧きません……

「それから……アルフの目が、みな怖いのではないか」

 アルフリードの目? そういえばずっと正面ばかり見ていたから、彼のことを全然見ていなかった。
 少し横をみると、

「ヒッ……」

 思わず声を出してしまうくらい、周りが全く見えていないような盲目的な感じでマジマジと見られている。
 もしかして、お客様がご挨拶している間もこんな感じだったの?
 それは確かに怖すぎるかも……

 アルフリードはハッとしたように眉間みけんをつまむと、王子様を睨みつけた。

「……誰のせいで、こんな事になってると思うんだ」

 よかった、正気に戻った?

「アル? アルー!」

 すると、少し遠くの方から声が聞こえて、何やらこちらに手を振っているご婦人がこちらに向かって歩いてきた。

 あれ……? あの方は確か……

「叔母上? お久しぶりです!」

 アルフリードが嬉しそうに手を振り返した。

 ピラピラとしたタイトな感じの白いドレスに、肩から背中のあたりまでマントのようなヒラヒラをつけた短いカーリーヘアーのご婦人が舞台までやってきた。

「まああ! なんって綺麗なお嫁さんなの!?」

 その方は、私をみるとご自身の両頬に手を添えて目をキラキラさせた。

 多分、間違いない。
 迎賓館へ行った時に、中に引き入れてくれたご婦人だ。

 まさかアルフリードの関係者だったなんて!

「おおこれは、こちらに戻っていたのか」

 公爵様も気づいてこちらにやってきた。

「お兄様、ご無沙汰しております。この間のエルラルゴ様の歓迎会でご挨拶したかったのだけど、アルと2人して消えてしまったから。今日は招待していただいてよかったわ~」

 お兄様、ということは公爵様の妹?

「あの方は、アルフの母上の妹君でルランシア様だ。旅がご趣味だから、滅多にお会いできない方だぞ」

 事情の分かっていない私を察して、皇女様が耳打ちしてくれた。

「なんだ、いつでも遊びにくればいい」

「おほほほ、だってここのお屋敷は、なかなか敷居が高いじゃない!」

 遠回しに幽霊屋敷だから近づきたくないって言ってるけど、公爵様は気づいてないみたい……

「だけど、見違えちゃってすごいわ! これなら、バランティアに滞在してる間は頻繁に来てもいいかも。それより、アル。こんな美人のお嫁さん、あんたも隅に置けないわね」

 叔母さまはアルフリードの肩に腕を回して、彼のほっぺたを引っ張っている。
 そんな事ができるのは、この方くらいでは……

「初めまして、エスニョーラ侯爵家の長女エミリアと申します。まだアルフリード様とは婚約した間柄です」

 私は叔母さまに会釈して挨拶した。
 騎士の格好をしていた私のことを覚えているだろうか?
 それに先程からお嫁さんと連呼されているけど、まだそうではないとハッキリ言っておかないと。

「婚約も結婚も同じようなものよ! ほんっとに何て綺麗な子なの。今度ぜひお茶しましょうね」

 これは、騎士の姿の私と、今の姿の私が一致してないっぽい。しかもお茶に誘われてしまった! なんだか強引なところがお母様に似ている……

「そうそう、他の親類たちもそっちに来てるのよ。グレイリー! ローランディスたち! こっちよーー」

 叔母さまに呼ばれて4人ほどの家族連れがこちらにやってきた。

 グレイリー、ローランディス……お兄様の問題集を思い起こして……
 そうだ、彼らはアルフリードのお母様のいとこと、その子どもたち。ローランディスは、アルフリードのに当たる。

 彼らはアルフリードと私に簡単に挨拶を済ませて、公爵様と談笑をしていた。
 はとこである子ども達は、アルフリードと同じ年くらいで、どことなく彼と似た顔つきをした美形だった。


「エミリアお嬢様、ご婚約おめでとうございます」

 はて、誰だろう?

 ほとんど知り合いがいないはずの私の名前を呼んで挨拶をしてくる人がいるなんて……
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