学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

文字の大きさ
30 / 80
第5章 三姉妹の気持ち

30 願い side:日和

しおりを挟む

 あかちゃんは気になる人です。

 家に帰って夕食の準備をしていると、ふらふらと彼女が台所へと現れてきました。

 なにやらこちらを気に掛けている様子です。

「どうされました?」

「あ、いえ……夜ご飯まで勉強をしようと思っていたのですが……」

 もじもじしながら、気恥ずかしそうに顔を赤らめるあかちゃん。

 その先を言葉にはしませんでしたが、その仕草で感じ取れるものがありました。

「あらあら、お腹が空いちゃったんですか?」

「え、えへへ……お恥ずかしながら」

 あかちゃんは、この家に来てまだ日が浅い。

 どこに何があるかを把握しているわけではありませんから、どこで小腹を満たしていいか分からなかったのでしょう。

 可愛いですね。

「ですが、困りましたねぇ。夕食が出来るのにはもう少し時間が掛かりますし……」

「な、何かつまめる物あったりします?スナック菓子とか」

「そのあたりは千夜ちやちゃんが厳しくてですねぇ。『健康に良くないし、美容にも良くない』と仰って食べたがらないので自然と買わなくなっちゃったんですよねぇ」

「ああ……さすが千夜さん、意識がエベレスト……」

 よく分からないことを口走りながらあかちゃんが遠い目になってしまいます。

 そんなにお腹を空かせているのでしょうか?

「どうしても我慢できませんか?あと30分くらいですよ」

「……がまん」

 難しい単語を発したわけでもないのに、そこだけ繰り替えしてきます。

 そんなにお腹を空かせているのでしょうか。

 わたしは料理中の手元を見てみます。

「そうですね。でしたら、こちらに来てもらってもいいですか?」

「あ、はいっ」

 台所のカウンター越しに会話をしていたので、あかちゃんを呼び寄せます。

 とことこ、と遠慮がちに近づいてくる様は彼女がよく見せる動きです。

「こちらをどうぞ?」

 わたしは既に出来上がっていた卵焼きを箸でつまんで差し出します。

「……えっと」

「? どうされました」

「あーん、ですか?」

 照れ臭そうに、はにかむあかちゃん。

 こちらは何となしにやってしまったのですが、その意味を勘ぐってしまわれたようです。

 お昼のお弁当の件もありましたしね。

 あーんをさせたがる変な義姉あねだと思われたかもしれません。

「いらないなら構いませんよ?夕食の時間まで待っていて下さいね」

「自分で食べるという選択肢は……」

「洗い物を増やすおつもりですか?」

「は、箸なんですけど……」

「分かりました。洗い物は華凛かりんちゃんのお仕事ですし、わたしは気にしないことに……」

「わ、わかりましたっ!食べます!食べさせてください!」

 ちょっとイジワルでしたが、根負けしたのはあかちゃんの方でした。

「では。はい、どうぞ」

「は、はい……」

「……あかちゃん?」

「なんですか」

「口を開けて頂かないと、食べさせられませんよ?」

 それに体の距離も微妙に遠い。

 顔を寄せてくれるわけでもなく、その小さな口を半開きにするだけなのでした。

「な、なんか……口を開けるのを見られるのって恥ずかしくないですか?」

「……ほう」

 そう言われてしまうと、させたくなってしまうのが人間の性ですよね。

「では、やめておきましょうか?」

 わたしはあえて箸を下ろして、摘まんでいた卵焼きをお皿に戻そうとします。

「ああっ……ご、ごめんなさいっ。た、食べたいです」

「うふふ。そうでしたか」

 本能的な欲求に抗えない様を見せつけられると、こちらがドキドキしてしまいますね。

 なんだかイケないことをしている気持ちになってしまいます。

「はい、あーん」

「……あーん」

 あかちゃんの小さな口が開きます。

 舌の先はピンク色で、その上に黄色の卵焼きをそっと置きます。

「むぐむぐ……」

 咀嚼しているあかちゃんは視線を彷徨わせていて、やはりどこか気恥ずかしさを残している様子です。

「いかがですか?」

 ごくん、と喉を鳴らしたのを見計らって尋ねます。

「とっても美味しいです」

 えへへ、と。

 顔をほころばせてくれるとこちらも嬉しい気持ちになります。

「もう一つ召し上がりますか?」

 ついつい、おかわりをさせたくなってしまいました。

「い、いいんですか……?」

「さすがに一切れでは小腹は満たされないでしょう」

「で、でも、あんまり食べ過ぎちゃうと皆さんの分が減っちゃいますけど、いいんですか?」

 そうですね。

 以前のわたしは姉妹の関係性を保とうとするばかりで、均等を心掛けていましたから。

 量に関してだけでなく、先に食べるという行為もご遠慮願ったかもしれません。

 ですが、それすらも、わたしたち三姉妹の仲を遠ざける原因になっていたのでしょう。

 自分の主義主張はなく、ただ平等に。

 それは綺麗で無駄は少ないかもしれませんが、わたしという個人が見えなくなります。

 個人なくして関係性は築けるはずもありませんのに。

 それを教えてくれたのは、あなたじゃありませんか。

「いいんです、これは二人だけの秘密ですから」

「も、申し訳ない気持ちになりますね……」

 そうは言いつつも、やっぱり食べたい欲求には敵わないようで。
 
 あかちゃんは差し出した卵焼きに口を開くのです。

 さっきよりも大きく開いたお口は、照れが消えつつありました。

 もぐもぐ、と咀嚼する姿も可愛らしい。

「でも、日和ひよりさん。テスト週間なのにこんなにお料理に時間を掛けていて大丈夫なんですか?」

「ええ、まあ、いつものことですから」

 それにわたしは千夜ちゃんと違って成績などにこだわりはありません。

 他者より秀でることに意味を見出せないのは、今でも変わりません。

「大変だったら言って下さいね。わたしいつでも代わりますから」

「うふふ……ありがとうございます。でも、それをやってしまうとあかちゃんの成績の方が大変になってしまうのではありませんか?」

「た、確かに……」

 それに料理をすることが、こうしてあなたとの関係性を深めるきっかけになるのだから。

 それを自分から手放そうとは思いません。

「あら、スープもそろそろ出来そうですね。飲まれます?」

「ううっ、いただきたいです……」

 だって、この感情は初めて芽生えたのですから。

 他者よりも秀でたい、と。

 特別な存在になりたい、と。

 そんな願いを抱かせてくれたのは他ならぬ、あなたなのですから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...