学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

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最終章 決断

69 睡眠は癒し……?

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「はあ……ビックリでしたね」

 まさか、日和ひよりさんがあんなに積極的になるだなんて。

 あ、いえ、日和さんは元々積極的にアプローチしてくれていたのでしょうか?

 そう考えると、皆さんはいつからわたしのことを想ってくれていたのでしょう。

 ……ぽっ。

 いえ、深く考えるのはやめましょう。

 頭がパンクして眠れなくなりそうです。

 髪も乾かし、パジャマも着て、後は眠るだけなのですから。

 今日は色んなことがありすぎて、疲れていますのでよく眠れそうです。

「おやすみなさい」

 お布団に潜り、瞳を閉じると、眠気はすぐにやって来そうでした。


        ◇◇◇


 現実と夢との狭間、意識が闇に溶けていく境界線。

 ――ギィィィッ

 そんなまどろみの中で、何かが開かれるような音が聞こえた気がします。

 現実なのか夢の音なのか。

 はっきりしませんが、強烈な眠気の前ではすぐにどうでもよくなります。

 わたしはそのまま消え入るように眠って……。

 ――ゴソゴソ

 ……。

 ごそごそ?

 やけに近くなった物音、そして隙間風が入って来たのか一瞬だけ体が冷えます。

 失われた温度によって、意識が引き戻されて行きます。

 ――ぴとっ

 と、思いましたが、ほのかな温もりが全身を包んでくれます。

 一瞬の凍えはすぐに忘れ、そのぬくもりに身を委ね――

「あ、明莉あかり、寝ちゃってる……?」

 ――るわけには、いきませんねっ!

 耳元からすっごい聞き慣れた声がゼロ距離で聞こえてきますもんねっ。

 億劫だった瞼の重みもすぐに気にならなくなりましたっ。

 なぜか身動きがとれなくなっているので、声の方向に顔を向けます。

「……」

「……」

 ばっちり、目と目が合いました。

 お互いかなり目を見開いています。

「……華凛さん、なにしてるんですか?」

「……寝ぼけた、的な?」

 なるほど、そういうことですか。

 華凛さんは寝ぼけてわたしの部屋に入って、ベッドに潜り込み、わたしに抱き着き、こうして目と目が合ってようやく気付いたんですね?

 なるほどなるほど、それなら――

「――納得できるわけありませんよねっ、どうしたんですか急にっ」

 さすがに無理がありますよっ、華凛さんっ。

「い、嫌……?」

「え、うええ、そ、そう言われますと……」

 目の前には華凛さんのご尊顔。

 ふさふさの睫毛に、宝石のような瞳、筋の通ったお鼻に、形の整ったぷっくりとした唇。

 いつもは両サイドで結ってる髪の毛も、おやすみ仕様なのかサラサラロングスタイルです。

 ……改めて、これどういう状況ですかっ!?

「あの、ちゃんと謝りたくて」

「謝る……?」

 大胆すぎる行動の割に、殊勝な顔つきで消え入りそうな声色の華凛さん。

 そんな顔をされてしまうと、わたしも邪険に追い払うことは出来ません。

「ほら、放課後せっかく明莉があたしの所に来てくれたのに。その時に答えられなくて明莉のこと怒らせちゃったから……」

「ああ、いえ、それは……」

 あの時は、わたしが溜め込んでしまっていたものを華凛さんと話したタイミングで爆発させてしまったようなもの。

 華凛さんに何かされたわけでもないのに、わたしが勝手に不満を募らせてしまっていたのです。

「もっと前からはっきりと言えばよかったのに、勇気出なくてうやむやにしちゃってたのがいけなかったんだよね」

「いえいえっ、わたしが悪かったんです。まさか皆さんがわたしのことを好……ぐほぇ、想ってくれてるとは考えなくて。幼稚な態度をとってしまって、わたしの方こそ申し訳ありませんでした」

「ほんと、許してくれる……?」

「当たり前じゃないですか」

 ぱあっと花が咲いたような笑顔になる華凛さん。

 むしろ、あんな態度をとっても怒らずにいてくれた華凛さんには感謝しかありません。

「それでね、あたしはすぐに謝ってこうして話したかったんだけど。家でも学校でも二人になれる事ってないから謝れるタイミングないかもと思って、こうして忍び込んじゃったみたいな……」

 な、なるほど。

 確かに一緒に暮らしていると二人きりのタイミングはなかなかありません。

 華凛さんはすぐに伝えたいと思ってくれる人なので、この時を逃してはならないという判断だったのでしょう。

 ……。

 ん、いやいや、まだ変な所ありますよ。

「あの、それはよく分かったのですけど。このホールドは一体……?」

 わたしの部屋を訪れた理由は分かりました。

 ですが、どうして一緒のベッドに入り、わたしはこうして抱き着かれているのでしょう。

 一言、声を掛けて起こしてくれたら済む話でしたよね?

「……寝てる明莉を見たら、つい?」

 ぺろっと舌を出す華凛さん。

 あら、可愛い。

 いやいや、待て待てわたし。

「わたしは一緒に寝て抱き着く“つい”を知りませんよっ!?」

「あ、じゃあ明日はあたしの部屋に来たらいいんじゃない? 気持ち分かるかもよ?」

「なんですか、その新しい発想!?」

「えー、明莉はこうされるの嫌?」

「い、嫌と言われると……そんなことはありませんけど……」

 ですが、こんなのドキドキして仕方ありませんよ。

 こんなに密着されたら、華凛さんの息遣いも、そのぬくもりも、全てが伝わって来ちゃいそうです。

「それとも、あたしみたいな体じゃ不満……?」
 
「ぼふぉえっ」

 吐血する、このままじゃ吐血してしまいますっ!

「あ、明莉!?」

「し、失礼……取り乱しました」

 そんな熱のこもった瞳で、強く抱き着かれて、おかしくならないわけがありません。

「ほら、あたし日和姉ひよりねぇとか千夜姉ちやねぇみたいに出るとこ出てないし……抱き着かれても微妙かなって」

 や、やめて……!

 それ以上、可愛らしいことを言わないで!

 理性がっ、理性が爆発するぅっ!!
 
「気にしすぎですっ、華凛さんもふわふわであったくて気持ちいいです!!」

 確かに月森三姉妹さんの中では華凛さんは一番スレンダーですが、それはあのお二方が女性的すぎるというだけであってですね。

 華凛さんもモデルさんのように素敵ですし、柔らかくて包み込まれるような感触だってちゃんとあります。

 ……合ってますかね、この感想!?

 段々、異常事態に頭が冷静さを欠いてるような気がしますっ。

「そうなんだっ、じゃあ今日はこのまま寝てもオッケーね!」

 それとこれとは話が違いますよ!?

 ――バンッ!!

「“ばんっ”て何ですかっ!?」

 派手な効果音にわたしは飛び上がります。

 扉が勢いよく開かれた音でした。

 ずかずか、と足音が近づいて来ます。



「……何をしているのかしら、華凛?」



 氷点下を下回る声。

 華凛さんのぬくもりが一気に凍えてしまいそうなほど……って、なんかデジャブな展開が気がするのですが……。

「よう、千夜ねえ……」

 とは言いつつも、華凛さんは顔を引きつらせていました。

「姉妹で一緒に眠るルールなんてあったかしら?」

「……ダメっていうルールもなくない?」

 さすがは姉妹、返事も似ています。

「華凛?」

「ひいっ」

 でも日和さんよりすぐに問答をやめて、縮こまってしまいます。

 この辺りは良くも悪くも姉妹という上下関係が見えなくもないですねぇ……。

 ずるずると首根っこを掴まれ、ベッドから追い出される華凛さん。

 わたしの体も解放されました。

「戻りなさい」

「はあい……」

 とぼとぼと、わたしの部屋から出て行く華凛さん。

 何はともあれこれで眠れそうですね。



 ――ゴソゴソ

 ……?

 ――ぴとっ

 ……え。



「……」

「……」

 見つめ合う二人。

 ほのかな温もりと、息遣いが届きそうな距離感。

 あの、なんか既視感……。

「……千夜さん?」

「何かしら」

「何してます?」

「抱き着いてるのよ、分からない?」

 いえ、分かってるから聞いてはいるんですけど……。

 そんなクールな瞳と声音で聞き返されると、わたしの方がおかしいのかと思っちゃうのですが……。



「千夜ねえ、怒るよ?」



 再登場の華凛さん。

 完全にお風呂の時と同じ展開です。

 姉妹ってこんなにリンクするものなんですか?

「これで華凛も、他の人に同じことをされるとどう感じるか分かったでしょ?」

「千夜ねえ?」

「……冗談よ」

 ずるずると、華凛さんに首根っこを掴まれて部屋を出て行く千夜さん……。

 珍しい絵面ですね……。



「でも、私の方が抱き心地は良かったはずよ」

「ねえ!! それ気にしてるんだから言わないでくれる!?」

「とは言っても日和の方が女性的な体つきだから、華凛の気持ちも分かるわ」

「じゃあ尚更、言わないでよ!!」

「きっと貴女がいなければ……私の心は折れていたでしょうね」

「綺麗風に言わないでくれる!? あたしを下に見て安心してるだけだよねっ!?」



 廊下から怒声が聞こえてきます……。

 夜は、もう少しだけ長くなりそうでした。

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