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23. ヴィオラside 止められない綻び②
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結局、お茶会ではこれといった対処法は見つからなかった。
私達が暮らす王国では、国王陛下の命は絶対になっているけれど、信頼を勝ち取るために法に基づいた政治が行われてきた。
何代にも渡って受け継がれてきた信頼をたった一人の令嬢のために崩すことは、私達も望まなかった。
そのせいで、野放しになっているリリアは1週間経っても殿方を誘惑し続けていた。
けれども、正気を取り戻した殿方が次々とリリアから離れていって、少し前には30人いた取り巻きのご令息も今は3人になっている。
「無駄な争いは起きてしまったけれど、下手に動かなくて正解だったみたいね」
「そうね。でも、リリアはまだサーシャを恨んでいるみたいよ?」
「失敗しているのだから、恨みが晴れるとは思えないわ」
お兄様は相変わらずサーシャとの距離を詰められていないけれど、なんだかんだでサーシャは居心地良さそうにしているから、無理にでも縁談を持ち掛けて正解だったと思っている。
ようやく楽しい学院での生活が戻ったというのに、喜べない出来事を目にしてしまった。
ここは学院の中庭で、今はお昼休み。
普段よりも早く昼食が終わったから、サーシャと時間を潰しに来ているのだけど……。
「あれ、リリア様よね?」
「ええ。一緒に居る人は……怪しいわ」
「全身黒ずくめだなんて、危ない匂いしかしないわ」
リリアが怪しい人物と密談を交わしている様子が目に入った。
「何を話しているのか聞こえる?」
「ええ。静かにして」
背の低い植木の陰に隠れて、盗み聞きをする私達。
サーシャはかなり耳が良いから、私には殆ど聞き取れない会話を身振りで教えてくれた。
分かったことは2つ。
取引している相手は、どこか大きい組織の人物だということ。
もう一つは、サーシャが毒殺されそうになっているということ。
その毒を今のリリアは手にしたみたいだから、この場で指摘すれば取り調べには持ち込めるはず。
けれども、身近に存在している物が毒だった時、罪にすることは出来ない。
洗剤は良い例で、食べ物に混入させれば毒になるけれど、持っているだけで裁くことは出来ないのよね。
その毒も、サーシャには無意味なのだけど。
けれども、リリアがサーシャを殺めようとしていることは分かったから、すぐに対策しないといけないわ。
そう思った時だった。
「ヴィオラ……逃げて……」
絞り出すような声が聞こえてサーシャの方を見ると、どういうわけか刃物がサーシャの胸に突き立っていた。
背中から串刺しにされた形だと、嫌でも分かってしまった。
でも、気付いた時にはもう遅くて、私の胸元にも銀色のモノが突き立てられた。
「夢が無かったら危なかったわぁ。でも、これで清々するわ。癒しの力でどこまで治るのかしらね?」
そんな呑気な声と共に、私に刺さっている刃物が引き抜かれる。
けれど、痛みは無かった。
タイミング良く、サーシャが癒しの力をかけてくれたから。
『逃げて』
口を動かして、そう伝えてくれている。
だから、私は隙を見て立ち上がって、全力で走った。
「行かせないわよ?」
でも、私の足では逃げ切れなくて、視界がグルグルと回って……。
そこで目が覚めた。
一度目の夢はここで終わり。
けれども、まだ夜中だったからもう一度眠った。
今度の夢は襲われた日から始まった。
きっと、これは死ぬと見ることが出来る夢なのね。
確信に近いものを感じたけれど、今度の夢でも私の意志では動けなかった。
ただ見ているだけだけれど、この夢での私はお兄様や王太子殿下を誘って中庭に来ていた。
けれども、そこにリリアの姿は無かった。
突然の行動だったはずなのに、未来が変わっている。
――リリアも同じ夢を見ているのではないかしら?
私達が暮らす王国では、国王陛下の命は絶対になっているけれど、信頼を勝ち取るために法に基づいた政治が行われてきた。
何代にも渡って受け継がれてきた信頼をたった一人の令嬢のために崩すことは、私達も望まなかった。
そのせいで、野放しになっているリリアは1週間経っても殿方を誘惑し続けていた。
けれども、正気を取り戻した殿方が次々とリリアから離れていって、少し前には30人いた取り巻きのご令息も今は3人になっている。
「無駄な争いは起きてしまったけれど、下手に動かなくて正解だったみたいね」
「そうね。でも、リリアはまだサーシャを恨んでいるみたいよ?」
「失敗しているのだから、恨みが晴れるとは思えないわ」
お兄様は相変わらずサーシャとの距離を詰められていないけれど、なんだかんだでサーシャは居心地良さそうにしているから、無理にでも縁談を持ち掛けて正解だったと思っている。
ようやく楽しい学院での生活が戻ったというのに、喜べない出来事を目にしてしまった。
ここは学院の中庭で、今はお昼休み。
普段よりも早く昼食が終わったから、サーシャと時間を潰しに来ているのだけど……。
「あれ、リリア様よね?」
「ええ。一緒に居る人は……怪しいわ」
「全身黒ずくめだなんて、危ない匂いしかしないわ」
リリアが怪しい人物と密談を交わしている様子が目に入った。
「何を話しているのか聞こえる?」
「ええ。静かにして」
背の低い植木の陰に隠れて、盗み聞きをする私達。
サーシャはかなり耳が良いから、私には殆ど聞き取れない会話を身振りで教えてくれた。
分かったことは2つ。
取引している相手は、どこか大きい組織の人物だということ。
もう一つは、サーシャが毒殺されそうになっているということ。
その毒を今のリリアは手にしたみたいだから、この場で指摘すれば取り調べには持ち込めるはず。
けれども、身近に存在している物が毒だった時、罪にすることは出来ない。
洗剤は良い例で、食べ物に混入させれば毒になるけれど、持っているだけで裁くことは出来ないのよね。
その毒も、サーシャには無意味なのだけど。
けれども、リリアがサーシャを殺めようとしていることは分かったから、すぐに対策しないといけないわ。
そう思った時だった。
「ヴィオラ……逃げて……」
絞り出すような声が聞こえてサーシャの方を見ると、どういうわけか刃物がサーシャの胸に突き立っていた。
背中から串刺しにされた形だと、嫌でも分かってしまった。
でも、気付いた時にはもう遅くて、私の胸元にも銀色のモノが突き立てられた。
「夢が無かったら危なかったわぁ。でも、これで清々するわ。癒しの力でどこまで治るのかしらね?」
そんな呑気な声と共に、私に刺さっている刃物が引き抜かれる。
けれど、痛みは無かった。
タイミング良く、サーシャが癒しの力をかけてくれたから。
『逃げて』
口を動かして、そう伝えてくれている。
だから、私は隙を見て立ち上がって、全力で走った。
「行かせないわよ?」
でも、私の足では逃げ切れなくて、視界がグルグルと回って……。
そこで目が覚めた。
一度目の夢はここで終わり。
けれども、まだ夜中だったからもう一度眠った。
今度の夢は襲われた日から始まった。
きっと、これは死ぬと見ることが出来る夢なのね。
確信に近いものを感じたけれど、今度の夢でも私の意志では動けなかった。
ただ見ているだけだけれど、この夢での私はお兄様や王太子殿下を誘って中庭に来ていた。
けれども、そこにリリアの姿は無かった。
突然の行動だったはずなのに、未来が変わっている。
――リリアも同じ夢を見ているのではないかしら?
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