【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

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運命さんこんにちは、さようなら

3ー③

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 燐は戸惑っていた。咲に教えられた場所に行くと、そこはどう見てもそっち系、風俗関係の店ではなかったからだ。場所も最初に咲と遭遇した一本通りの違うれいのホテル街は通らず、近くというだけでまったく無関係な場所に位置していた。
 半信半疑で受付で咲のことで話があると告げると、確かに咲はこの会社に勤めていて、どうやら社長と直接話ができるようだ。受付の傍で社長を待つ間、それとなく周囲を窺ってみた。
 小さなビルながらもアットホームな感じの職場のようだった。そこに働く人間の表情は明るく、みな活き活きとしていた。燐はそれを見て安心した。そっち系の仕事ではなかったこともだが、咲がここで働いていたことが嬉しかったのだ。初めて来た場所なのに、あちこちににこにこ笑顔で元気いっぱいに動き回る咲の姿が見えるようで、自然と頬が緩む。
 そうこうしていると、秘書が燐を呼びに来て応接室へと案内された。

 色々なことは伏せて、ただ咲と番になったことと結婚して家に入ってもらうから仕事を辞めさせてもらう旨を伝えた。社長も最初は燐を疑うような鋭い視線を向けていたが視線がとある場所で止まり、それから急に破顔し態度が軟化した。

「──そうですかそうですか。私どももあの子のことは心配していたんですよ。あなたのような方と番になれて咲も幸せでしょう。本当によかった」

「は、はい。私も咲さんと番になれて幸せです。これからふたりでやっていきますので、どうかご安心ください」

 そう言って、燐は気持ちを込めて頭を下げた。
 幸せかどうかはまだ分かっていないが、それ以外は本心だった。仕事があっち系ではないし、社長の話ではΩの身で力仕事をやっていたと言うのだから咲のことを尊敬すらしてしまう。番って出会って数日、とまだ短い間しか一緒にいなかったが、その言動は至極真っ当で、ハッとさせられることも多い。更に真面目で一生懸命な勤務態度を聞くことができて、燐の中で咲の株は天井知らずの爆上がりだった。

「よう。あんたがうちの咲と番になったっていうヤツか?」

「あなた方は……?」

 咲のことを考えていて応接室に人が入ってきたことに気づけなかった。こんなにも自己主張の激しい大きな身体の男たちだというのに。

「俺たちは咲の兄、みたいなもんだ」

「あ……!」

 燐はソファーから立ち上がり、勢いよく頭を下げた。

「よしてくれよ。俺たちはそんな頭を下げられるような上等なもんじゃねぇ。ただ弟のように可愛がってる咲を心配してるだけだ」

「咲、さんは私と番になり、幸せだとアニキ・・・たちに伝えて欲しいと言っていました」

「──そうか。どうやら本当のことを言ってるみたいだな。じゃなきゃ俺たちのことをアニキだなんて呼ばねぇもんな」

 アニキたちはそう言って「がはは」と笑った。

 無事話がついて、燐が帰ろうとしたところでひとりのアニキが自分の頬をトントンと人差し指で軽く示した。

「?」

「ふっ、それはチョコか? それがなきゃあんたがどんなにうまいこと口にしたって信じなかったぜ。ま、あいつも苦労してきたんだ。目一杯幸せにしてやってくれよ?」

 社長とアニキたちはうんうんと頷き、燐に穏やかな目を向けた。
 社長が途中で態度を変えたのも頬についたチョコを見つけたからだった。咲の番だと言うならきっと咲と分け合って食べたはずだから、そんな相手なら幸せじゃないわけがないと思ったのだ。
 燐はハンカチで頬についたチョコを乱暴に拭き取り、顔を真っ赤にさせて「はは……」と笑った。燐は咲と出会って、とにかく格好がつかない。だけどそれが自分らしいという感じもして、心地がいいと思った。
 さぁ約束の時間まであと二十分。早くは無理だったが、せめて約束した時刻までには咲の元へ帰りたいと、燐は逸る気持ちを抑えつつ車に乗り込んだ。





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