【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

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運命さんこんにちは、さようなら

4 『運命』 鷹取 晶馬 ①

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 燐から説明を受けた時、燐は『運命』のフェロモンを『いい匂い』と表現したが、咲はあの時喜びよりも得体の知れない恐怖を感じていて、いい匂いだなんて思えなかった。強烈で、咲の意思など関係なしになにもかも支配・・されるような絶対的な香りだったのだ。咲は番とは対等でありたかった。あれほど欲しかった家族なのだから支配されたいとは思わないのも当然の話だろう。

 本当なら燐が言うようにいい匂いと感じるべき香りを怖いと感じてしまうのはおかしな話で、それは咲の『運命』の育ってきた環境が関係していた。
 『運命』は旧財閥の跡取り息子で、名を鷹取 晶馬たかとり しょうまといった。鷹取家の先々代と友人であり、若かりしころは恋仲であった羽鳥はとり家の先々代は家の事情で結ばれることができなかった。その為、せめて子どもたちが結ばれて欲しいと思っていた。しかし子どもの代はαとαで番になることはできないし(あくまでも番にこだわっていた)、孫の代へと希望は繋がれた。だが、同じ理由で実現することはなく、ひ孫の代(晶馬)へ。
 流石に自分たちの年齢的にも生きているうちに悲願が叶うのはこれが最後のチャンスだ、と今度は生まれる前から許嫁とし、たとえ番になれなくても結婚させようとしていた。しかし運命の悪戯か、ふたりはαとΩだと分かり大喜びした先々代、曽祖父たちによって本格的に番婚に向けて準備がされた。念入りに綿密に、万が一にも失敗しないように。たとえば他の人のフェロモンに惑わされないように早くから薬によって管理されたり、燐や玲斗を傍に置いたこともそうだ。他にも言い出すとキリがないほどだった。どれもこれもなまじ財力と権力があったからこそできたことだった。
 当のふたりは、小さいころから「ふたりは結婚する」、「もしもαとΩなら番に」と言われて育ってきたことから疑問に思うこともなく、時期がきたらそうするのが当たり前だと思っていた。相手への気持ち愛情というものを置き去りにして。

 だが番婚を目前に控えて、晶馬は運命に出会ってしまった。出会ってすぐさま燐が咲を攫ってしまったから咲は晶馬の姿を見ていないが、晶馬の方は咲を見てしまった。初めて感じる胸の高鳴り、多幸感。ひと目で好きというのも生ぬるいくらいに魂が囚われた。
 あれは俺のものだ。あれが欲しい。あれ以外いらない。
 なのになぜあいつが俺の番を連れて行く? なぜ俺はそれを見送らなくてはならない?
 俺の『運命』、俺のものなのに──。

 燐は言われていた通りのことを行っただけだった。そのことは晶馬も知っていた。だが頭では理解していても心が、本能がそれを認めなかった。あと一秒でも燐の行動が遅かったなら、咲の番は間違いなく晶馬だっただろう。






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