【完結】運命さんこんにちは、さようなら

運命さんこんにちは、さようなら

４ー②

　『運命』と遭遇した時、晶馬はすぐに眠り薬で眠らされていた。熊でも一発で眠ってしまうくらい強力なもので、そうでもしないとラットを起こしたαを止められなかった。
　目が覚めて、とてつもない喪失感が晶馬を襲った。自分の『運命』が他の人間の番にされてしまった、と感じたからだ。
　もしも『運命』に出会うことがあったならそうすることは決まっていたし、自分も納得していたはずだった。だが実際に出会ってしまえばなんであれを諦めないといけないのかが分からなかった。そもそもこの番婚は先々代の願いであり、自分たちが願ったことではない。今回は晶馬の『運命』だったが、許嫁である八生やよいにも『運命』が現れたら同じことをするのか？　同じ痛みを八生にも？　と『運命』を想う以上に胸が痛くなった。
　だったら自分が『運命』と結ばれて八生を解放してやる方がいいのではないか──。一見自分勝手に思えるその考えは、晶馬が心の底から八生のことを想うがゆえなのだが、先々代と『運命』の存在が晶馬の想いを歪めてしまった為、そのことに気づけないまま晶馬はちぐはぐな想いを抱えた。　　

　すべては自分勝手な妄執に囚われた先々代たちの罪──。


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　晶馬ももうここまできたら今更なことも、咲は自分ではない燐の番だということも理解していて、予定通り八生と番うことが一番いいのだということも分かっていた。それでもモヤモヤとして落ちつかなくて、晶馬は鬱々とした日々を送っていた。
　そんな晶馬を見守ることしかできない八生もまた、表面上は普段通りに見せながらも晶馬以上に苦しんでいた。愛する晶馬の為に自分はなにができるだろうか──。


　そしてそんな不安定な晶馬の心の隙間を突くように、まるで悪魔のように甘く囁く人物がいた。

「──あの……晶馬様、僕運命様にお手紙を届けてまいりましょうか……？」

　もうひとりの『保険』、Ωである玲斗だった。