【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

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運命さんこんにちは、さようなら

5 もうひとりの『保険』 桂木 玲斗

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 『保険』である燐たちは基本、主人の傍を離れることはできない。いつなんどき『運命』に遭遇してしまうか分からないからだ。だから玲斗が八生の元を離れるのは珍しいことだったが、ある理由から八生は一時間だけ、と条件をつけてそれを許した。それは玲斗がもうひとりの『保険』であった燐のことを好きだと気づいていたことと、たとえそれが先々代を裏切る結果になると分かっていてもその先に晶馬の幸せがあるなら、と思ったからだ。


*****

 玲斗はΩの春ではなく、人生そのものを売った。よくある話、稼ぎ手を突然失ってしまった家族の為だった。
 玲斗は幼いながらも契約内容をきちんと理解し覚悟を決めたものの、年齢を重ね物事をより深く理解できるようになってくるにつれ、誰とも知れない相手と番にならなければならなくなるかもしれないのだと思うと怖かった。しかもそれはなんの前触れもなく突然起こるかもしれないのだ。もしもそうならなかったとしても、誰かを好きになることも許されず生涯ひとりで過ごさなくてはいけない。お金をもらい、不特定多数の相手に身体を売ることとどちらが不幸なのだろうか──。もしくはそのどちらともが不幸なのかもしれなかった。

 それから数年が経ち、主人たち以外でよく顔をあわせる同じ立場・・・・の燐に恋をした。同じ・・というが正確には少し違っていて、燐の場合は鷹取の分家の三男ということで半強制的に決められたものだったが、どちらも家の為という点では同じ・・に見えた。自分よりもいくつか年上のα性の男の子の足にも自分と同じ、目には見えない鎖のついた枷のようなものが填められていて、耳をすませばガチャリガチャリと鎖の鳴る音が聞こえる気がした。それでもなにも恐れず前を向く燐の姿は玲斗には眩しく映った。

 始まりは同じ立場の燐への仲間意識とただの逃げ・・だったのかもしれないが、ふたりの距離が近づくにつれそれはすぐに本気の恋になっていった。
 燐は普段は飄々としていて表情も乏しく、一見すると冷たく見えたが玲斗には「困ったことはないか?」と毎日のように声をかけ、こっそり自分の分のおやつをあげたりと玲斗を気にしていた。それは玲斗がまだ幼く、親元を離れるには早すぎると思っていたし、恐らく一般家庭で育っただろう玲斗が厳しい教育・・に必死でついていこうとしている姿は、数年前の自分を見るようで切なくなったからだっだ。同じ役割を持つ『先輩』、あるいは『兄』のような気持ちからくる優しさだった。だが理由や動機はなんであれ受ける側からすれば『優しさ』は『優しさ』だ。そんな凛の優しさがことさら甘く玲斗の心には届いた。
 玲斗とてこれは許されない想いなのだということは分かっていた。だから玲斗は考えて考えて、そして思い切って燐に話をもちかけることにした。告白ではなく、主人との契約にも抵触しない範囲での約束・・
 もしも主人たちが無事に番って、もう子どもができないくらいの年齢になっても『運命』に遭遇しなかったら自分とその後の人生を共に生きて欲しい。その頃には燐たちも番になることはできないが、それでも大好きな凛と一生一緒にいられるなら大丈夫だと思えた。
 燐は玲斗に対して恋慕の情はなかったものの家族のような親しみはあったので、「それで構わない」と答えた。なのに、燐は役割を全うしてしまった──。それは玲斗との『別れ』を意味していた。

 それでも玲斗は燐との未来を期待すると同時にこうなることも覚悟はしていた為、諦めようとしていた。それなのに晶馬の『運命』を諦めきれないという様子に、玲斗の消えかけていた恋心は再び息を吹き返すことになったのだ。






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