【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ

文字の大きさ
35 / 39
運命がたり

4 運命がたり

しおりを挟む
 曽祖父たちを無事送り出して一年が経っていた。今日は燐と咲、玲斗と航を自宅へと招きささやかなパーティを開いた。
 前日から八生は料理の仕込みやらなんやらで大忙しで、晶馬も仕舞い込んでいるお皿を出してきたり普段はしないところの掃除をしたりとできることを手伝った。遅くなってしまったが、自分たちの都合に巻き込んでしまったお詫びと、曽祖父の日記から知り得たことを伝えなくてはいけないと思ったからだった。

 お互いの近況を話しながら楽しく会食は進み、食後のコーヒーを用意して、晶馬は「みなさんに伝えなくてはいけないことがあります」と言った。皆もそれとなく今日のパーティがどういう目的で開かれたのかは聞いていたので、皆佇まいを正し晶馬に注目した。
 晶馬は曽祖父の日記の内容を個人の感想も想像もなく、そのままを読んで伝えた。同じものでも個人によって感じ方は変わってくるだろうが、それでいいと思っていた。途中で鼻を啜る音が聞こえてきて、曽祖父たちの為に泣いてくれることが嬉しくて、晶馬は心の中で感謝を伝えた。そして再び日記の続きを読み始めた。

 すべてを読み終わり、晶馬と八生は並んで皆に頭を下げた。そのまま頭を上げようとしないふたりに、咲たちは困ったように顔を見合わせ、最初に口を開いたのは咲だった。咲はこの件の一番の被害者、ともいえる。

「──あのね、僕は最初からひいじいちゃんたちのこと恨んでいないよ。もちろん鷹取さんと羽鳥さんのこともね。僕は燐と番になれて嬉しいんだ。僕はずっとひとりぼっちだったから、だから家族ができて嬉しいんだよ。それが燐でよかったって思うんだ。僕は今とっても幸せなんだよ。だからね、恨み言じゃなくてありがとうって言いたいんだ。ひいじいちゃんたちだって、日記にも昔のことだけで最近のことは書かれていなかったから推測することしかできないけど、きっと幸せだったよ。だからもういいじゃない」

 そう言って優しく笑う咲。咲に寄り添うようにして燐も笑っていた。

「あの、僕も幸せですよ。『保険』にならなければ母は救えなかっただろうし、『保険』から解放されなければ航さんには会えなかったと思います。咲くんが言うようにみんな幸せなんだからもういいと思います。多分それで先々代も色々なことから解放されるんじゃないかって思いますし」

 玲斗もそう言って微笑み、航も微笑んで頷いている。

 皆が『運命』に振り回され、だけど幸せを掴んでいる。これ以上なにかを言うのも違うと思い、晶馬はもう一度だけ頭を下げてすぐに顔を上げ微笑んで見せた。八生は両手をぱちっと合わせ、「そういえばケーキがあるんですよ」とキッチンへと消えていき、その後を「手伝う」と言って晶馬が追った。その様子を二組の夫夫ふうふたちは優しげな眼差しで見ていた──。






しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...