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もう少しだけ待っていて
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デートとも呼べないような翔とのデートの帰り、ひとりでいたくなくて奏と奏の番の律さんが営む喫茶店を訪れていた。
僕の姿を認め、笑顔で迎えてくれる奏と律さん。
奏の翔によく似た笑顔にズキリと胸が痛む。
翔はお父さんである楓さん似で、奏はお母さんである薫さん似だ。似てないように見えて、二人はとてもよく似ていた。
やっぱりここに来るべきじゃなかったな……。
「久しぶり。元気してたか?」
「うん。とっても元気」
僕の返事を聞いて奏の表情が曇った。
「――どうした?何かあったか?」
どうしてだろう。気づいて欲しい人は気づいてくれなくて、気づいて欲しくない人は気づいちゃう。
僕は別に慰められにここに来たわけじゃなかったはずなのに。
涙が零れそうになるけどぐっと堪えていつものように笑う。
「大丈夫」
「何もない」とは言わない。奏にはそんな嘘通用しないと思ったから。だから「大丈夫」って答えた。
そうすれば奏もこれ以上は何も言わない。
それが僕たちの間にある『絆』と『信頼』
「ふむ。まぁどうせうちのおちびのせいなんだろうけど――。彼方、これだけは言っとく。その「大丈夫」は本当に「大丈夫」だから、信じて待ってろ」
「――うん」
奏にそう言われると本当に大丈夫なんじゃないかなって思えてくるから不思議だ。本当はこういうの翔に言って欲しいんだけどね……。
コーヒーを飲むフリをしてこっそりと溜め息を吐いた。
*****
あれから翔からの連絡はどんどん減って、僕の一度浮上しかけた気持ちは再び沈んでいた。
今日は翔の誕生日だ。プレゼントも買ったし、翔から連絡が来たらすぐ出られるように準備もした。
時刻は正午過ぎ。まだ翔から何の連絡もない。
僕はどうしたらいいのかな。
僕たちの春は長過ぎて、もう僕の事なんてどうでもいいのかな。
小学校中学校高校――大学と翔の世界が広がって、沢山の人に出会ったよね。
そこで素敵な子を見つけてしまったのかな。
どんどん成長していく翔。
僕はあの頃のまま立ち止まっている――。
たまにしか会えなくなっていた翔からいつも同じ香りがした。
僕の知ってる誰のものでもない香り。
僕は笑って「さようなら」って言えるかな。
僕は翔より年上なんだからみっともなく縋ったりしちゃダメだよね。
翔がもう僕なんかいらないって言うんだもん。
だったら僕は笑って「さようなら」って、「今までありがとう」って――――。
最近の僕はこんな事ばかり考えていた。
翔の事は信じたい。
だけど……信じられないんだ――。
ベッドでうつ伏せになり顔を埋めた枕がじわりと濡れていく。
突然傍に置いてあったスマホが振動して着信を知らせた。
翔!?
僕は急いでスマホを手に取ると、相手も確認せずに通話ボタンにタッチした。
「もしもし!かけ――」
『もしもし。こんにちは。坂口です』
翔とは違う低めの大人の落ち着いた声。
翔……じゃなかった――。
坂口さんは僕の同僚で、番になりたいと言ってくれた人だ。
僕より5つ上の、こんな言い方失礼だけど『バツ1α』
このバツも坂口さんに問題があったわけじゃない。坂口さんの番に運命の相手が現れてそういう事になってしまったのだ。
別に僕が坂口さんの事を興味本位で調べたわけじゃなくて、坂口さんは前の番の事を本当に愛していたから別れてあげた……らしいんだけど、その落ち込みようは見ているこっちまで胸を締め付けられる程で、社内で話題になったのだ。それはもう10年も前の話で、人々の口に上らなくなった今も僕はまだよく覚えていた。
そんな坂口さんが僕に番になりたいと申し込んでくれたのはどうしてなのか分からない。同僚と言いながらも僕たちの接点なんてそんなになかったはずだ。
だから坂口さんに申し込まれた時、「どうして僕なんですか?」って訊いてみたんだ。
そしたら坂口さんは少しだけ苦し気に微笑んで、「キミが……寂しそうに見えたから」って答えたんだ。
「キミが(私と同じで)寂しそうに見えたから」
きっと坂口さんが言いたかったのはそういう事なんだと思う。
確かに最近の僕は寂しそうにしていたかもしれない。
だけど、僕はすぐにお断りした。
たとえ翔と別れる事になったとしても他の人と番うなんて考えられなかった。
僕の『好き』は全部翔の物だから、あげたくても他の人にひとつもあげる事はできない。
だから寂しいという理由で番ったって何も生まないし、その寂しさが癒える事なんてないのだ。ふたりで傷を舐め合って、いつまでもジュクつく傷を抱えて生きていくだけなのだ。
『これからショッピングでもどうですか?是非あなたをお連れしたい所がありまして』
「えっと……僕は――」
『そんなに警戒しないで下さい。これは同僚……友人としてのお誘いです』
「――分かりました……」
強引でもなかったけれど何だか断る事ができなくて、友人としてならと坂口さんと出掛ける事にした。
翔からの連絡をじっと待つのに疲れてしまっただけの話だったかもしれないけれど――。
僕の姿を認め、笑顔で迎えてくれる奏と律さん。
奏の翔によく似た笑顔にズキリと胸が痛む。
翔はお父さんである楓さん似で、奏はお母さんである薫さん似だ。似てないように見えて、二人はとてもよく似ていた。
やっぱりここに来るべきじゃなかったな……。
「久しぶり。元気してたか?」
「うん。とっても元気」
僕の返事を聞いて奏の表情が曇った。
「――どうした?何かあったか?」
どうしてだろう。気づいて欲しい人は気づいてくれなくて、気づいて欲しくない人は気づいちゃう。
僕は別に慰められにここに来たわけじゃなかったはずなのに。
涙が零れそうになるけどぐっと堪えていつものように笑う。
「大丈夫」
「何もない」とは言わない。奏にはそんな嘘通用しないと思ったから。だから「大丈夫」って答えた。
そうすれば奏もこれ以上は何も言わない。
それが僕たちの間にある『絆』と『信頼』
「ふむ。まぁどうせうちのおちびのせいなんだろうけど――。彼方、これだけは言っとく。その「大丈夫」は本当に「大丈夫」だから、信じて待ってろ」
「――うん」
奏にそう言われると本当に大丈夫なんじゃないかなって思えてくるから不思議だ。本当はこういうの翔に言って欲しいんだけどね……。
コーヒーを飲むフリをしてこっそりと溜め息を吐いた。
*****
あれから翔からの連絡はどんどん減って、僕の一度浮上しかけた気持ちは再び沈んでいた。
今日は翔の誕生日だ。プレゼントも買ったし、翔から連絡が来たらすぐ出られるように準備もした。
時刻は正午過ぎ。まだ翔から何の連絡もない。
僕はどうしたらいいのかな。
僕たちの春は長過ぎて、もう僕の事なんてどうでもいいのかな。
小学校中学校高校――大学と翔の世界が広がって、沢山の人に出会ったよね。
そこで素敵な子を見つけてしまったのかな。
どんどん成長していく翔。
僕はあの頃のまま立ち止まっている――。
たまにしか会えなくなっていた翔からいつも同じ香りがした。
僕の知ってる誰のものでもない香り。
僕は笑って「さようなら」って言えるかな。
僕は翔より年上なんだからみっともなく縋ったりしちゃダメだよね。
翔がもう僕なんかいらないって言うんだもん。
だったら僕は笑って「さようなら」って、「今までありがとう」って――――。
最近の僕はこんな事ばかり考えていた。
翔の事は信じたい。
だけど……信じられないんだ――。
ベッドでうつ伏せになり顔を埋めた枕がじわりと濡れていく。
突然傍に置いてあったスマホが振動して着信を知らせた。
翔!?
僕は急いでスマホを手に取ると、相手も確認せずに通話ボタンにタッチした。
「もしもし!かけ――」
『もしもし。こんにちは。坂口です』
翔とは違う低めの大人の落ち着いた声。
翔……じゃなかった――。
坂口さんは僕の同僚で、番になりたいと言ってくれた人だ。
僕より5つ上の、こんな言い方失礼だけど『バツ1α』
このバツも坂口さんに問題があったわけじゃない。坂口さんの番に運命の相手が現れてそういう事になってしまったのだ。
別に僕が坂口さんの事を興味本位で調べたわけじゃなくて、坂口さんは前の番の事を本当に愛していたから別れてあげた……らしいんだけど、その落ち込みようは見ているこっちまで胸を締め付けられる程で、社内で話題になったのだ。それはもう10年も前の話で、人々の口に上らなくなった今も僕はまだよく覚えていた。
そんな坂口さんが僕に番になりたいと申し込んでくれたのはどうしてなのか分からない。同僚と言いながらも僕たちの接点なんてそんなになかったはずだ。
だから坂口さんに申し込まれた時、「どうして僕なんですか?」って訊いてみたんだ。
そしたら坂口さんは少しだけ苦し気に微笑んで、「キミが……寂しそうに見えたから」って答えたんだ。
「キミが(私と同じで)寂しそうに見えたから」
きっと坂口さんが言いたかったのはそういう事なんだと思う。
確かに最近の僕は寂しそうにしていたかもしれない。
だけど、僕はすぐにお断りした。
たとえ翔と別れる事になったとしても他の人と番うなんて考えられなかった。
僕の『好き』は全部翔の物だから、あげたくても他の人にひとつもあげる事はできない。
だから寂しいという理由で番ったって何も生まないし、その寂しさが癒える事なんてないのだ。ふたりで傷を舐め合って、いつまでもジュクつく傷を抱えて生きていくだけなのだ。
『これからショッピングでもどうですか?是非あなたをお連れしたい所がありまして』
「えっと……僕は――」
『そんなに警戒しないで下さい。これは同僚……友人としてのお誘いです』
「――分かりました……」
強引でもなかったけれど何だか断る事ができなくて、友人としてならと坂口さんと出掛ける事にした。
翔からの連絡をじっと待つのに疲れてしまっただけの話だったかもしれないけれど――。
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