【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第25話　大阪での出会い

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第25話　大阪での出会い

山口さんの件が一段落してから二週間が経った頃、今度は私の方に予想外の出来事が起きた。

新しくプロジェクトに参加することになった女性がいた。中村さんという、東京本社から派遣されてきた企画担当者だった。

「佐藤さん、こちらが中村さんです。今回のプロジェクトでご一緒していただくことになりました」

上司に紹介され、私は中村さんと挨拶を交わした。

「中村です。よろしくお願いします」

「佐藤です。こちらこそよろしくお願いします」

中村さんは私と同世代の女性で、とても知的で美しい人だった。前職は有名な外資系企業で働いていたそうで、経験も豊富そうだった。

「佐藤さんの手がけられたプロジェクトの資料、拝見させていただきました。とても素晴らしい内容でした」

「ありがとうございます」

彼女の的確な分析と提案に、私は感心した。これは頼りになるパートナーになりそうだった。

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一週間一緒に働いてみて、中村さんの能力の高さを実感した。仕事に対する姿勢は真摯で、アイデアも豊富だった。

「佐藤さん、この部分の分析なんですが、もう少し詳しく検討してみませんか？」

「そうですね。どんなアプローチがいいでしょう？」

仕事の話をしていると時間を忘れてしまう。彼女との議論は刺激的で、新しい発見がたくさんあった。

ある日、残業が遅くなった時、中村さんが提案した。

「佐藤さん、お疲れさまでした。もしお時間があれば、お食事でもいかがですか？」

私は少し戸惑った。仕事の延長とはいえ、女性と二人で食事をすることに抵抗があった。

「ありがとうございます。でも...」

「仕事の話の続きもありますし。近くに美味しいお店を知っているんです」

結局、私は中村さんの提案を受けた。仕事の話なら、と自分に言い聞かせて。

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レストランでの会話は、最初は仕事の話が中心だった。でも、次第に私生活の話にも及んだ。

「佐藤さんは大阪にいらして、寂しくありませんか？」

「そうですね...確かに一人の時間は多いです」

「ご家族は東京に？」

「家族ではないんですが...大切な人が東京にいます」

私は美咲のことを話した。中村さんは興味深そうに聞いてくれた。

「そうなんですね。遠距離恋愛は大変でしょう」

「はい。でも、彼女は理解のある人なので」

「素敵な方なんですね」

中村さんの反応は自然だった。嫉妬や失望の色は見せなかった。

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それから、中村さんとはよく一緒に仕事をし、時々食事もするようになった。彼女は良い同僚で、仕事のパートナーとしても信頼できる人だった。

でも、同時に少し複雑な気持ちもあった。美しく、知的で、仕事ができる女性が身近にいることで、時々美咲以外の女性を意識してしまう自分がいた。

ある夜、中村さんとの食事の後、私は美咲に電話をかけた。

「お疲れさまです」

「佐藤さん、お疲れさまでした。今日は遅いですね」

「プロジェクトの打ち合わせが長引いて...」

「大変ですね。一人で？」

私は少し迷った。中村さんのことを話すべきだろうか。

「実は、新しく東京から来た担当者の方と一緒に作業していて」

「そうなんですね。どんな方ですか？」

美咲の質問に、私は正直に答えることにした。

「中村さんという女性の方です。とても優秀で、頼りになる同僚です」

「女性の方なんですね」

美咲の声に、わずかな変化があった。

「はい。でも、仕事の関係だけです」

「もちろんです。佐藤さんを信頼していますから」

美咲は理解を示してくれた。でも、何か言いたそうな雰囲気があった。

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翌日、美咲からメッセージが来た。

『佐藤さん、昨日は中村さんとお食事されたんですか？』

私はドキッとした。食事のことまで話していなかった。

『はい。仕事の打ち合わせの延長で』

『そうですか。楽しかったですか？』

その質問に、私は困った。確かに楽しかった。中村さんとの会話は刺激的で、有意義だった。でも、それを美咲に言っていいものだろうか。

『仕事の話が中心でした』

曖昧な返事をしてしまった。

夜、美咲から電話があった。

「佐藤さん、正直に聞きます」

「はい」

「中村さんのこと、どう思っていますか？」

美咲の直球の質問に、私は戸惑った。

「同僚として、とても優秀だと思います」

「それだけですか？」

「それだけって？」

「女性として、魅力的だとは思いませんか？」

美咲の不安が伝わってきた。私は正直に答えることにした。

「確かに、魅力的な方だと思います」

美咲は少し沈黙した。

「でも、美咲さんに対する気持ちは変わりません」

「本当ですか？」

「本当です」

でも、私の声に確信が足りなかったのかもしれない。実際、中村さんに対して何の感情もないかと言えば、嘘になるだろう。

「佐藤さん、私も山口さんのことで同じような状況になりました」

「はい」

「その時、佐藤さんは正直に嫉妬すると言ってくれました」

「はい」

「今度は私が嫉妬する番ですね」

美咲の言葉に、私は申し訳ない気持ちになった。

遠距離恋愛では、お互いに誘惑や試練がある。それは避けられないことなのかもしれない。

大切なのは、どう向き合うかということだった。

指先が触れる距離にいた頃は、こんな複雑な感情を抱くことはなかった。でも今の私たちには、それぞれの環境がある。

この状況を、どう乗り越えていけばいいのだろう。

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