【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第43話 秋の贈り物

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第43話 秋の贈り物

妊娠六か月になった秋の日、私たちに嬉しいニュースが届いた。

「性別が分かりましたよ」

定期検診で、医師が微笑みながら教えてくれた。

「女の子ですね」

その瞬間、美咲の目に涙が浮かんだ。

「女の子...」

「お父さん、どうですか?」

医師が私に聞いた。

「とても嬉しいです。女の子...」

私も感動で胸がいっぱいになった。

「順調に育っていますよ。予定日は十二月の中旬ですね」

---

病院からの帰り道、私たちは手を繋いで歩いた。

「女の子ですって」

美咲が嬉しそうにつぶやいた。

「美咲に似た、可愛い女の子になりそうですね」

「健太郎さんに似て、優しい子になってほしいです」

「名前、考えなければいけませんね」

「そうですね。どんな名前がいいでしょう?」

私たちは様々な候補について話し合った。

「季節にちなんだ名前はどうでしょう?冬生まれだから、雪とか」

「雪...雪菜(ゆきな)ちゃんはどうでしょう?」

「素敵ですね」

---

その夜、私たちは女の子用のベビー用品について調べ始めた。

「ピンクの服も可愛いですね」

美咲がカタログを見ながら言った。

「でも、あまり性別にこだわらなくてもいいかもしれませんね」

「そうですね。色んな色を着せてあげたいです」

赤ちゃんの部屋も、少しずつ女の子らしい装飾を加えることにした。

「この絵本、女の子にピッタリですね」

美咲が選んだのは、お姫様の絵本だった。

「将来、一緒に読んであげましょう」

---

職場でも、女の子だと分かったことを報告すると、皆さんが喜んでくれた。

「女の子!可愛いでしょうね」

山田さんが嬉しそうに言った。

「佐藤さん、お嬢さんができるんですね」

「はい。まだ実感が湧きませんが」

「女の子は、お父さんに似るって言いますよ」

同僚たちの温かい言葉に、私は改めて周りの人たちに支えられていることを感じた。

---

美咲のプロジェクトも順調に進んでいた。妊娠中ということで、周りの配慮はあったが、彼女のリーダーシップは変わらず素晴らしかった。

「美咲さん、このアイデア素晴らしいです」

チームメンバーが感心していた。

「ありがとうございます。みんなのおかげです」

美咲の謙虚な態度と、的確な判断力。妊娠によって、より母性的な包容力も加わったような気がしていた。

一方、私の国際事業部での仕事も充実していた。

「佐藤さんの企画、海外からの評価も高いです」

上司から嬉しい報告を受けた。

「ありがとうございます」

「来月、短期間ですがシンガポール出張があります。大丈夫ですか?」

美咲の妊娠を考えると、少し不安だった。

「期間はどのくらいでしょうか?」

「一週間程度です」

「検討させてください」

---

その夜、美咲に相談した。

「シンガポール出張の話、どう思う?」

「一週間なら大丈夫だと思います」

「でも、何かあったら...」

「母も近くにいるし、職場の皆さんもサポートしてくれるから」

美咲の前向きな姿勢に、私は励まされた。

「分かりました。でも、何か体調に変化があったら、すぐに連絡してください」

「はい。でも、健太郎さんも無理しないでくださいね」

---

週末、私たちは美咲の実家を訪れた。

「女の子ですって!」

美咲のお母さんが喜んでくれた。

「楽しみですね」

「名前も考え始めているんです」

「雪菜(ゆきな)という名前はどうかと」

「素敵な名前ね。雪のように清らかで、美しい子になりそう」

お父さんも嬉しそうだった。

「初孫が女の子とは...楽しみだ」

「おじいちゃんになるのね」

家族みんなで、赤ちゃんの到来を待ち望んでいることが伝わってきた。

---

実家からの帰り道、美咲が言った。

「みんなが楽しみにしてくれて、雪菜ちゃんは幸せですね」

「本当に。たくさんの愛に囲まれて生まれてきます」

「健太郎さん、私たちも良い親になれるでしょうか?」

妊娠後期に近づいて、美咲にも不安があるようだった。

「きっとなれますよ。美咲はとても思いやりがあって、責任感も強いから」

「健太郎さんも、きっと優しいお父さんになります」

私たちは互いを励まし合いながら、出産に向けて準備を続けていた。

---

その夜、ベッドで横になりながら、美咲のお腹に手を当てた。

「雪菜ちゃん、元気ですか?」

すると、お腹の中で赤ちゃんが動いた。

「動いた!」

「最近、よく動くんです。元気な証拠ですね」

赤ちゃんの動きを感じながら、私は親になる実感をより深く感じていた。

「雪菜ちゃん、お父さんですよ。早く会いたいです」

お腹に向かって話しかけると、また動いた。

「お父さんの声が聞こえるのかもしれませんね」

「そうかもしれませんね」

---

秋が深まる中、私たちは着実に親になる準備を進めていた。

指先が触れる距離から始まった私たちの関係は、今では三人の家族を迎える準備が整いつつあった。

雪菜という名前に込められた、清らかで美しい願い。私たちの愛の結晶が、もうすぐこの世界にやってくる。

その日まで、美咲と雪菜ちゃんを大切に守り続けよう。

秋の風に包まれながら、私は新しい季節への期待で胸を膨らませていた。
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