【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第45話 家族の時間

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第45話 家族の時間

雪菜が生まれて一か月が経った。

新生児のお世話は想像以上に大変だったが、毎日が新しい発見と感動に満ちていた。

「おはようございます」

朝、私が起きると、美咲が雪菜にミルクをあげていた。

「おはよう。夜中は大丈夫だった?」

「三時と五時に起きました。でも、慣れました」

美咲の母性は、日に日に強くなっているように見えた。

「僕も手伝います」

「ありがとうございます。オムツ替え、お願いできますか?」

私たちは協力して、雪菜のお世話をしていた。

---

雪菜は日に日に表情が豊かになっていた。

「健太郎さん、見てください。笑っています」

「本当だ。初めての笑顔ですね」

小さな顔に浮かんだ笑顔は、天使のようだった。

「雪菜ちゃん、お父さんですよ」

私が話しかけると、雪菜が目を向けた。

「お父さんの声が分かるのかもしれませんね」

「そうかもしれませんね」

毎日の小さな変化が、私たちには大きな喜びだった。

---

一月の下旬、私は職場に復帰した。

「佐藤さん、おかえりなさい!」

同僚たちが温かく迎えてくれた。

「ありがとうございます。娘のおかげで、すっかり親バカになりました」

「写真、見せてください」

雪菜の写真を見せると、皆さんが「可愛い」と褒めてくれた。

「お父さんの顔つきが変わりましたね」

「そうですか?」

「責任感が強くなった感じです」

確かに、雪菜が生まれてから、家族を守らなければという気持ちが強くなった。

---

仕事から帰ると、美咲と雪菜が迎えてくれる。それが一日で最も幸せな瞬間だった。

「お疲れさまでした」

「ただいま。雪菜ちゃんは元気だった?」

「はい。今日は長い時間眠っていました」

私は雪菜を抱き上げた。生まれた時より一回り大きくなっている。

「雪菜ちゃん、お父さんですよ」

すると、雪菜が私を見つめた。その瞳には、確かに意識があるような気がした。

「お父さんが分かるのね」

美咲が嬉しそうに言った。

---

週末は、三人で過ごす貴重な時間だった。

「雪菜ちゃん、お散歩に行きましょうか」

ベビーカーに雪菜を乗せて、近くの公園に向かった。

「外の空気、気持ちいいね」

雪菜は目をきょろきょろ動かして、外の世界を見ていた。

「色んなものが見えているのかな」

「きっとそうですね」

公園のベンチに座って、私たちは雪菜を見守っていた。

「健太郎さん、幸せですね」

「本当に。こんなに幸せでいいのかなと思うくらいです」

「私たちも、両親にこんな風に愛されて育ったんでしょうね」

「そうですね。今になって、両親の気持ちが分かります」

---

二月に入ると、雪菜は首がしっかりしてきた。

「健太郎さん、雪菜ちゃんが手を見つめています」

「本当ですね。自分の手だと分かるのかな」

雪菜は自分の小さな手を不思議そうに見つめていた。

「この手で、将来色んなことをするのね」

「そうですね。絵を描いたり、文字を書いたり...」

私たちは雪菜の未来を想像しながら、現在の成長を見守っていた。

---

ある夜、雪菜が眠った後、美咲と二人で話をした。

「健太郎さん、最初に隣の席に座った日のこと、覚えていますか?」

「もちろんです。緊張しました」

「私も。まさか、こんな未来が待っているなんて思いませんでした」

「指先が触れる距離から始まったのに、今では家族になっている」

美咲が微笑んだ。

「不思議ですね。あの時の偶然の出会いがなかったら...」

「きっと出会う運命だったんですよ」

「そうですね。雪菜ちゃんも、私たちのところに来る運命だったのね」

---

三月になり、桜の季節が近づいてきた。

「来年は、雪菜ちゃんと一緒にお花見ができますね」

「そうですね。歩けるようになって、桜の花びらを追いかけたりして」

雪菜の成長を想像するだけで、胸が温かくなった。

「健太郎さん、私たちの物語はまだ続いていくのですね」

「はい。雪菜ちゃんと一緒に、新しい章を書いていきましょう」

---

その夜、雪菜のベッドの近くで、私は小さな手を見つめていた。

生まれた時に握ってくれた、小さな指。

指先が触れる距離から始まった私たちの物語は、今では三世代に渡る愛の物語になっていた。

美咲との出会い、恋愛、結婚、そして雪菜の誕生。すべてが繋がっている。

雪菜が大きくなって、いつか自分の大切な人と出会う日が来るだろう。その時、彼女は指先が触れるような、小さな偶然から大きな愛を育んでいくのかもしれない。

「雪菜ちゃん、お父さんとお母さんの愛の証として生まれてきてくれて、ありがとう」

小さく眠る雪菜に語りかけながら、私は家族の幸せを噛みしめていた。

窓の外では、春の風が桜の蕾を揺らしていた。新しい季節が始まろうとしている。

私たち家族の新しい物語も、これから始まっていくのだった。

指先が触れる距離は、今では家族の絆という、何よりも強い繋がりに変わっていた。

そして、この絆は永遠に続いていくのだろう。
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