【完結】指先が触れる距離

山田森湖

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第46話 再会の春

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第46話 再会の春

雪菜が生まれて半年が経った春の日、私たちに思いがけない再会があった。

「健太郎さん、今日は懐かしい方にお会いする予定でしたよね」

美咲が雪菜を抱きながら確認した。

「はい。エミリーが日本に出張で来ているんです」

ロンドン時代の同僚、エミリー。あの複雑だった時期を一緒に過ごした彼女が、仕事で東京を訪れることになったのだ。

「緊張しませんか?」

「少しは。でも、美咲と雪菜ちゃんを紹介したいんです」

---

待ち合わせ場所のホテルのラウンジで、エミリーが待っていた。

「佐藤さん!」

相変わらず美しく、エレガントな彼女だった。

「エミリーさん、お久しぶりです」

「こちらが美咲さんですね。とてもお美しい方」

エミリーが流暢な日本語で美咲に挨拶した。

「初めまして、美咲です。エミリーさんのお話は主人からよく伺っています」

「そして、この可愛い赤ちゃんが雪菜ちゃんですね」

エミリーが雪菜を見つめた時、その目に優しさが溢れていた。

「とても可愛らしい。佐藤さんに似ていますね」

「ありがとうございます」

---

カフェに移って、私たちは近況を報告し合った。

「エミリーさんは、その後いかがですか?」

美咲が聞いた。

「実は、昨年結婚したんです」

「おめでとうございます!」

エミリーは左手の指輪を見せてくれた。

「フランス人の男性です。建築家をしています」

「素敵ですね」

「佐藤さんとのことがあった後、自分の気持ちと向き合えるようになったんです」

エミリーが私を見て微笑んだ。

「それで、本当の愛に出会えました」

---

雪菜がぐずり始めた時、エミリーが優しく声をかけた。

「Oh, little princess...」

英語で話しかけられた雪菜は、不思議そうにエミリーを見つめた。

「雪菜ちゃん、とても幸せそうですね」

「おかげさまで。毎日が楽しくて」

美咲が答えた。

「佐藤さんも、本当に幸せそうです。ロンドンにいた時とは全然違う表情をしています」

「そうでしょうか?」

「はい。あの時は、心の一部が常に遠くにあるような感じでした。でも今は、完全にここにいますね」

エミリーの観察は的確だった。

---

「実は、お聞きしたいことがあるんです」

美咲がエミリーに向かって言った。

「何でしょう?」

「ロンドンにいた頃の主人は、どんな様子でしたか?」

「とても真面目で、仕事熱心でした。でも、時々とても寂しそうでした」

エミリーが振り返るように話した。

「特に、美咲さんと連絡が取れない時は、明らかに落ち込んでいました」

「そうだったんですね」

「私は、そんな佐藤さんに惹かれたのかもしれません。でも、彼の心が完全に美咲さんのものだということも理解していました」

エミリーの正直な話に、美咲は深く頷いた。

---

別れ際、エミリーが言った。

「佐藤さん、美咲さん、本当にお幸せそうで嬉しいです」

「エミリーさんも、とてもお幸せそうですね」

「はい。あの時の経験があったから、今の幸せがあります」

エミリーが雪菜の頭を優しく撫でた。

「雪菜ちゃん、お父さんとお母さんの愛の結晶ですね。とても美しい」

「ありがとうございます」

「またいつか、お会いできることを楽しみにしています」

---

エミリーが去った後、私たちは公園を散歩した。

「素敵な方ですね」

美咲が言った。

「そうですね。あの頃は複雑でしたが、今となっては良い思い出です」

「健太郎さんが迷った気持ち、分かります」

「美咲...」

「でも、私を選んでくれてありがとうございました」

美咲の言葉に、私は改めて愛情を感じた。

---

ベンチに座って、雪菜にミルクをあげながら、美咲が言った。

「人生って不思議ですね」

「どんなところが?」

「エミリーさんとの出会いも、私たちにとって必要だったのかもしれません」

「必要?」

「その経験があったから、私たちの愛がより確かなものになった」

美咲の深い洞察に、私は感心した。

「そうかもしれませんね」

「雪菜ちゃんも、将来色んな人と出会って、色んな経験をするのでしょうね」

「きっとそうですね」

---

夕方、家に帰ってから、私は改めて思った。

指先が触れる距離から始まった私たちの物語は、様々な人との出会いによって豊かになってきた。

松田さん、山口さん、エミリー、中村さん。それぞれが私たちの関係に影響を与え、結果的により強い絆を築く手助けをしてくれた。

そして今日、エミリーとの再会により、過去の出来事すべてに意味があったことを確認できた。

「健太郎さん、今日はありがとうございました」

美咲が言った。

「何に対してですか?」

「過去を隠さずに、オープンに話してくれたこと」

「当然のことです。僕たちに秘密は必要ありません」

雪菜を寝かしつけながら、私は思った。

この子が大きくなった時、私たちの物語を聞かせてあげよう。指先が触れる距離から始まった、お父さんとお母さんの愛の物語を。

そして、雪菜にも素晴らしい出会いと経験が待っていることを教えてあげよう。

家族の絆は、過去の全ての経験から生まれた、かけがえのない宝物なのだから。
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