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第3話「心の距離、少しだけ」
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第3話「心の距離、少しだけ」
「はい、では、今から“二人で答える10の質問”を始めましょう!」
司会者の軽快な声が、静かだった会場に響いた。
テーブルごとにペアを作り、出される質問に対して互いに答えを出し合う。
それは価値観の違いを知るゲームでもあり、会話のきっかけを作るための工夫だった。
圭介は、隣に座った佳奈美と視線を交わす。
ほんの数時間前に出会ったばかりなのに、不思議と居心地がいい。
「では、第一問。理想の休日の過ごし方は?」
カードに書かれた質問に、二人は少しだけ考える。
「圭介さんは?」と佳奈美。
「そうですね……最近はもっぱら、近くの公園でぼーっとすることが多いです。あと、釣りとかも」
「へえ。ゆっくり過ごすのが好きなんですね」
「まあ、仕事漬けの生活だったんで、反動かもしれません」
「私は……日帰り旅行かな。電車で行ける温泉とか。おいしいものがあって、景色がよければ満足です」
「それ、いいですね。俺も今度、行ってみようかな」
そう言いながら、圭介はカードに「温泉」「景色」「おいしいもの」とメモした。
「……そんなに真面目に書かなくても大丈夫ですよ」
佳奈美が、くすっと笑う。
「いや、参考になるなって。自分じゃ考えつかないから」
どこか照れたようなその表情に、佳奈美の胸が少しだけ熱くなった。
こんなふうに自分の言葉が、誰かの生活に触れるなんて——
久しぶりの感覚だった。
次の質問は、「得意料理」。
そしてその次は、「最近、泣いたのはいつ?」
ふと空気が変わる。
「……妻が亡くなって三年になります」
圭介の声が、わずかに揺れた。
「亡くなったあと、なかなか泣けなくて。でも、あるときふと、娘が置いていった写真立てを見たら、堰を切ったように泣いてしまって。あれが、最後かな……」
佳奈美は、黙ってその言葉を受け取った。
無理に慰めるでもなく、ただ頷く。
「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」
彼女が言うと、圭介はかぶりを振った。
「いえ、こうして話せてよかったです。……自分でも、思ってた以上に、心のどこかで誰かに話したかったのかもしれないですね」
佳奈美もまた、胸にある重たい石をそっと撫でたくなるような気持ちだった。
言葉にはしなかったけれど、彼女もまた、抱えている過去がある。
そして、最後の質問。
「もう一度、恋をしたいと思いますか?」
会場全体が少しざわめく。
言葉にするには、少しだけ勇気の要る問いだった。
圭介は、ペンを握ったまま、手を止めていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「まだ……答えは出ません。でも、答えてみたいとは思います。できれば、誰かと一緒に」
佳奈美は、それを聞いて、小さく笑った。
「私も、同じです。怖い気持ちもあるけど、それでも、誰かと笑っていられるなら、それは……きっと、いいことなんじゃないかって」
「……はい」
その一言が、やけに静かに心に沁みた。
ゲームが終わり、司会者が「そろそろお開きの時間です」と告げる。
参加者たちは名残惜しそうに立ち上がり、自然と連絡先を交換する人もいた。
「もし、またよければ、こういうの……一緒に行きませんか?」
圭介の言葉に、佳奈美は一瞬目を丸くしたあと、頷いた。
「はい、ぜひ。温泉とか、釣りとか、ね」
ふたりの笑顔は、すっかり自然なものになっていた。
会場を出ると、夜風が頬をなでる。
少しひんやりしているのに、不思議と寒くない。
「寒くないですか?」
圭介が尋ねると、
「大丈夫。心が、ちょっとあったかいから」
と佳奈美は答えた。
その言葉に、圭介は思わず笑ってしまった。
仮面のように固まっていた心が、少しだけ、溶けた気がした。
「はい、では、今から“二人で答える10の質問”を始めましょう!」
司会者の軽快な声が、静かだった会場に響いた。
テーブルごとにペアを作り、出される質問に対して互いに答えを出し合う。
それは価値観の違いを知るゲームでもあり、会話のきっかけを作るための工夫だった。
圭介は、隣に座った佳奈美と視線を交わす。
ほんの数時間前に出会ったばかりなのに、不思議と居心地がいい。
「では、第一問。理想の休日の過ごし方は?」
カードに書かれた質問に、二人は少しだけ考える。
「圭介さんは?」と佳奈美。
「そうですね……最近はもっぱら、近くの公園でぼーっとすることが多いです。あと、釣りとかも」
「へえ。ゆっくり過ごすのが好きなんですね」
「まあ、仕事漬けの生活だったんで、反動かもしれません」
「私は……日帰り旅行かな。電車で行ける温泉とか。おいしいものがあって、景色がよければ満足です」
「それ、いいですね。俺も今度、行ってみようかな」
そう言いながら、圭介はカードに「温泉」「景色」「おいしいもの」とメモした。
「……そんなに真面目に書かなくても大丈夫ですよ」
佳奈美が、くすっと笑う。
「いや、参考になるなって。自分じゃ考えつかないから」
どこか照れたようなその表情に、佳奈美の胸が少しだけ熱くなった。
こんなふうに自分の言葉が、誰かの生活に触れるなんて——
久しぶりの感覚だった。
次の質問は、「得意料理」。
そしてその次は、「最近、泣いたのはいつ?」
ふと空気が変わる。
「……妻が亡くなって三年になります」
圭介の声が、わずかに揺れた。
「亡くなったあと、なかなか泣けなくて。でも、あるときふと、娘が置いていった写真立てを見たら、堰を切ったように泣いてしまって。あれが、最後かな……」
佳奈美は、黙ってその言葉を受け取った。
無理に慰めるでもなく、ただ頷く。
「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」
彼女が言うと、圭介はかぶりを振った。
「いえ、こうして話せてよかったです。……自分でも、思ってた以上に、心のどこかで誰かに話したかったのかもしれないですね」
佳奈美もまた、胸にある重たい石をそっと撫でたくなるような気持ちだった。
言葉にはしなかったけれど、彼女もまた、抱えている過去がある。
そして、最後の質問。
「もう一度、恋をしたいと思いますか?」
会場全体が少しざわめく。
言葉にするには、少しだけ勇気の要る問いだった。
圭介は、ペンを握ったまま、手を止めていた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「まだ……答えは出ません。でも、答えてみたいとは思います。できれば、誰かと一緒に」
佳奈美は、それを聞いて、小さく笑った。
「私も、同じです。怖い気持ちもあるけど、それでも、誰かと笑っていられるなら、それは……きっと、いいことなんじゃないかって」
「……はい」
その一言が、やけに静かに心に沁みた。
ゲームが終わり、司会者が「そろそろお開きの時間です」と告げる。
参加者たちは名残惜しそうに立ち上がり、自然と連絡先を交換する人もいた。
「もし、またよければ、こういうの……一緒に行きませんか?」
圭介の言葉に、佳奈美は一瞬目を丸くしたあと、頷いた。
「はい、ぜひ。温泉とか、釣りとか、ね」
ふたりの笑顔は、すっかり自然なものになっていた。
会場を出ると、夜風が頬をなでる。
少しひんやりしているのに、不思議と寒くない。
「寒くないですか?」
圭介が尋ねると、
「大丈夫。心が、ちょっとあったかいから」
と佳奈美は答えた。
その言葉に、圭介は思わず笑ってしまった。
仮面のように固まっていた心が、少しだけ、溶けた気がした。
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