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第7話「すれ違いの中で」
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第7話「すれ違いの中で」
「この間は……ごめんなさい」
再会した“シングルナイト・夜カフェ編”の入り口で、佳奈美が小さく頭を下げた。
圭介は少し驚いた顔で彼女を見た。
「謝ること、何かあったっけ?」
「前回……私、圭介さんが話しかけてくれたとき、ちょっと素っ気なかったかなって。いろいろ、考えすぎてしまって」
圭介は小さく笑った。
「大丈夫。俺も、なんだか空回りしてた気がするから」
照れくさそうに笑い合う二人。
その姿を見て、美咲は受付の後ろでそっと目を細めた。
それでも——
その夜の二人の間には、少しだけ“距離”があった。
イベントが進み、ペアになって話す時間。
圭介は別の女性と話していた。
相手は華やかなワンピースを着た、同年代の女性だった。
「へえ、釣りがご趣味なんですね?すてき」
「海を見てると落ち着くんです。……あ、でも、佳奈美さんも山派でしたよね。登山」
その言葉に女性は一瞬、ふふっと笑った。
「もしかして、お気に入りの人がいるんですか?」
「え?……あ、いや、そういうんじゃ……」
圭介の言葉は、曖昧に空を切った。
佳奈美は少し離れた席でその様子を見ていた。
別に、嫉妬しているわけではない——
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に針のようなものが刺さる。
(私だけじゃないんだ。話して、笑って、つながっていく相手が……私じゃなくても)
彼女は小さく息をついた。
その日の帰り道、偶然にも、駅前で再び圭介に出くわした。
「帰り、同じ方向?」
「ううん、ちょっと用があって。でも……少しだけ、歩けますか?」
「もちろん」
夜風が少し冷たく、肩をすぼめながら歩く二人。
「……圭介さん、あの女性と楽しそうでしたね」
「え?……ああ、うん。明るい人で、話が盛り上がって」
「そうですか」
その言い方に、圭介は立ち止まった。
「……もしかして、気にしてる?」
「してません。……でも、私、少しだけ怖くなって」
「何が?」
「圭介さんと話すのが、すごく楽しくて……でも、その気持ちを持ってしまったことで、また失うんじゃないかって思って」
圭介はしばらく黙っていたが、静かに口を開いた。
「俺も、実は似たような気持ちだったよ」
「え?」
「佳奈美さんと話すのが心地よくて、会いたいって思うたびに、でも——これはもう“勘違い”かもしれないって、何度も自分を抑えてた」
「……どうして?」
「若くないからかな。恋なんて、もうする年じゃないって。……でも」
彼は佳奈美の方へ向き直った。
「もう一度くらい、誰かを大切に思ってもいいかなって……そう思えるようになったのは、佳奈美さんのおかげだよ」
佳奈美の目に、静かに光が宿る。
「私も……です」
「じゃあ、もう少し、歩きませんか?今日はただ、友達としてでも」
「はい。嬉しいです」
夜の町を、肩を並べて歩く二人。
手はつながれていない。けれど、気持ちは少しだけ、また近づいていた。
“すれ違い”は、必ずしも悪いことじゃない。
それを乗り越えたとき、見える景色があるから。
そして、そこに寄り添う誰かがいるなら——
それは、人生の中でもっとも優しい奇跡のひとつなのかもしれない。
「この間は……ごめんなさい」
再会した“シングルナイト・夜カフェ編”の入り口で、佳奈美が小さく頭を下げた。
圭介は少し驚いた顔で彼女を見た。
「謝ること、何かあったっけ?」
「前回……私、圭介さんが話しかけてくれたとき、ちょっと素っ気なかったかなって。いろいろ、考えすぎてしまって」
圭介は小さく笑った。
「大丈夫。俺も、なんだか空回りしてた気がするから」
照れくさそうに笑い合う二人。
その姿を見て、美咲は受付の後ろでそっと目を細めた。
それでも——
その夜の二人の間には、少しだけ“距離”があった。
イベントが進み、ペアになって話す時間。
圭介は別の女性と話していた。
相手は華やかなワンピースを着た、同年代の女性だった。
「へえ、釣りがご趣味なんですね?すてき」
「海を見てると落ち着くんです。……あ、でも、佳奈美さんも山派でしたよね。登山」
その言葉に女性は一瞬、ふふっと笑った。
「もしかして、お気に入りの人がいるんですか?」
「え?……あ、いや、そういうんじゃ……」
圭介の言葉は、曖昧に空を切った。
佳奈美は少し離れた席でその様子を見ていた。
別に、嫉妬しているわけではない——
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に針のようなものが刺さる。
(私だけじゃないんだ。話して、笑って、つながっていく相手が……私じゃなくても)
彼女は小さく息をついた。
その日の帰り道、偶然にも、駅前で再び圭介に出くわした。
「帰り、同じ方向?」
「ううん、ちょっと用があって。でも……少しだけ、歩けますか?」
「もちろん」
夜風が少し冷たく、肩をすぼめながら歩く二人。
「……圭介さん、あの女性と楽しそうでしたね」
「え?……ああ、うん。明るい人で、話が盛り上がって」
「そうですか」
その言い方に、圭介は立ち止まった。
「……もしかして、気にしてる?」
「してません。……でも、私、少しだけ怖くなって」
「何が?」
「圭介さんと話すのが、すごく楽しくて……でも、その気持ちを持ってしまったことで、また失うんじゃないかって思って」
圭介はしばらく黙っていたが、静かに口を開いた。
「俺も、実は似たような気持ちだったよ」
「え?」
「佳奈美さんと話すのが心地よくて、会いたいって思うたびに、でも——これはもう“勘違い”かもしれないって、何度も自分を抑えてた」
「……どうして?」
「若くないからかな。恋なんて、もうする年じゃないって。……でも」
彼は佳奈美の方へ向き直った。
「もう一度くらい、誰かを大切に思ってもいいかなって……そう思えるようになったのは、佳奈美さんのおかげだよ」
佳奈美の目に、静かに光が宿る。
「私も……です」
「じゃあ、もう少し、歩きませんか?今日はただ、友達としてでも」
「はい。嬉しいです」
夜の町を、肩を並べて歩く二人。
手はつながれていない。けれど、気持ちは少しだけ、また近づいていた。
“すれ違い”は、必ずしも悪いことじゃない。
それを乗り越えたとき、見える景色があるから。
そして、そこに寄り添う誰かがいるなら——
それは、人生の中でもっとも優しい奇跡のひとつなのかもしれない。
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