『クズ王太子の婚約者って私聞いてませんわ!』

ともえなこ

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カフカ殿下が本当の気持ちを告げてくれた、その直後だった。

バンッ!

寝室の重厚な扉が、まるで木の葉のように吹き飛ばされた。

なだれ込んできたのは、猪の紋章を掲げた、オルデンブルク宰相の私兵たちだった。

「いたぞ! 逆賊どもめ、神妙にお縄につけ!」

隊長らしき男が、下卑た笑みを浮かべて剣を構える。

「フブカ! リルティアを頼む!」

カフカ殿下は、ベッドから起き上がろうとするが、解毒薬が効いたとはいえ、まだ本調子ではない。その体は、ぐらりと大きく揺れた。

「殿下!」

私は、慌ててその体を支える。

「お兄様とリルティア様は、わたくしがお守りいたします!」

フブカ王女は、私たちを背中に庇うようにして、毅然と敵の前に立った。

しかし、相手は多勢に無勢。

じりじりと、兵士たちが包囲網を狭めてくる。

フブカ王女が、床に落ちていた剣を拾い上げた、その時だった。

「そこまでだ、逆賊ども!」

廊下の奥から、凛とした、鋼のような声が響き渡った。

その声に、私とフブカ王女は、はっと顔を上げる。

宰相の私兵たちが驚いて振り返った、その背後から。

王家の紋章を掲げた兵士たちが、怒涛の勢いで襲いかかった。

その先頭に立っていたのは、銀の鎧を血で汚しながらも、その瞳に闘志を燃やす、女騎士団長レオノーラ・シュヴァルツ様、その人だった。

「レオノーラ!」

フブカ王女が、歓喜の声を上げる。

「陽動は、もう十分でしょう。ここからは、本番ですぞ」

レオノーラ様は、にやりと笑うと、剣を振るって敵を薙ぎ払っていく。

さらに、驚くべきことに。

レオノーラ様の隣には、自らも抜き身の剣を手にした、国王陛下のお姿があった。

「息子の寝込みを襲うとは、万死に値するぞ、オルデンブルクの犬どもめ!」

国王陛下は、とても軟禁されていたとは思えぬほどの覇気を放ち、宰相の私兵を斬り伏せる。

「お父様まで! いったい、どうやって……」

「フン。あの程度の部屋、抜け出すのに造作もないわ」

国王陛下は、私たちを一瞥すると、力強くそう言い放った。

味方の、それも国王陛下と最強の騎士団長の登場に、形勢は一瞬にして逆転した。

あれほど威勢の良かった宰相の私兵たちは、次々と打ち倒され、あるいは、武器を捨てて降伏していく。

やがて、寝室から、全ての敵の姿が消えた。

戦いが終わった後、国王陛下は、カフカ殿下の元へと歩み寄った。

「……カフカ、よく、耐えたな」

「ご心配をおかけしました、父上」

父子の間には、多くの言葉はなかった。

しかし、その視線の交錯だけで、二人の間の、深く、そして固い信頼関係が、痛いほどに伝わってきた。

私は、そんな王と王子の姿を見ながら、自分が命懸けで守ろうとしたこの人が、本当は、こんなにも強く、そして大きな存在だったのだということを、改めて実感する。

私の頬を、安堵の涙が、静かに伝っていった。
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