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31話

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「あちらに見える丘に旗を掲げています故、それを見ればお分かりになるはずです」
確かに劉焉が言う通り、丘の上に何やら白い布で何かを形取った物を掲げているらしい人影が見える。
楊彪は目を凝らしてよく見るとその白い布が董卓軍の軍旗である事が分かった。
「まさか……」
「では、私はこれで失礼しますよ。今日の所は我が主が待ち望む者とお会いできただけで満足です。明日の昼までに我々の出す条件を吟味して返答して頂ければと」
そう言うと劉焉は部屋を後にした。
翌日、楊彪は東の空が薄っすらと明るくなり始めた頃に部屋の戸を開けて外に出ると丘に目を向けてみた。
確かに白い布を象った軍旗が風に揺られながらはためいていたのである。
それを見た楊彪の表情がみるみる内に変わって行く。その表情には混乱と動揺が入り混じっていた。
「冗談ではなかったのか……」
しかしそれでも現実を受け入れられないようで、その場に座り込み呆然と空を眺めていた。
翌日、楊彪は体調不良と偽って袁術に会うのを避けたと言う。
やがて日が暮れる頃になり楊彪は意を決するとその丘へと向かって歩き始めた。
歩いている途中、楊彪はある事を思い出したのである。
以前、都で反董卓連合と成った際に自分が所属していた部将から言われた言葉である
「我々は呂布軍と戦っても勝ち目がない」
と言う言葉だった。
その時の自分と言えば董卓討伐に協力する気などさらさら無く、むしろ朝廷は自分にそれを押しつけようとし、実際そうなったとしても黄巾党の攻勢に疲れ果てていた自分は断るつもりでいたのだが……。
「そういう事か」
楊彪がようやく気付いた時、丘の上に到着したのである。
そこには小さな砦があり兵達が警戒に当たっていた。
そんな彼らに取り囲まれながら砦へと入るよう促された楊彪が渋々そこに足を踏み入れると、そこには先客がいたのである。
それは楊彪より少し歳上の男で、色鮮やかな装飾の施された鎧を身に付けていた。
彼は楊彪を見ると言った。
「ようこそ来られました。我が名は公孫賛、字は伯珪と言います」
驚く楊彪に対し彼はさらに言葉を続ける。
「この砦にて貴方が来られるのを待っていたのですよ」
そんな彼の言葉に対して楊彪は何も返す事が出来ずに立ち尽くすしかない。
そんな彼に彼……公孫賛は言葉を続けたのである。
「私……いえ、我々袁紹軍はこれより天下の反董卓連合に入る事と相成りました。楊彪殿、私は貴方が我らに協力するに相応しき器量の持ち主であると見込んでこうしてここまでお誘いしたのです。貴方の答えは如何ですか?」
その言葉に楊彪は呂布の言葉を思い出していた。
「俺の元に来れば天下を取れる男になれるかも知れない」
と彼か言ってくれた事を思い出し、この乱世を鎮められる器量を持っている人物である事は疑うべくもない。
ここで協力を拒み黄巾党と相討ちになった所で一体何を得る事が出来るだろうか?いや、そもそも自分は何も得るべきでは無いのではないかと思う楊彪である。
彼は公孫賛の前に跪き拱手しながら答えた。
「この楊彪、命をかけて貴方に協力させて頂きたく思います」
呂布軍が南陽郡の太守である楊彪の元に駆けつけたその日、公孫賛によって本拠地を与えられた事を伝令から知ると呂布は喜んでいた。
「やったな!これで心置きなく戦えるぞ!」
そう豪語する呂布の姿を見て董卓が呟く。
「まさかこれ程の活躍をするとはな……なかなかやるではないか」
董卓の呟きが聞こえたのか、呂布が答える。
「私に恐れを成したという事はないと思いますが、私が有言実行の男である事がお分かりになられたのでしょう」
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