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ウインに夢中
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「それじゃあ、僕は資料を職員室に持って行くね。」
ユミル殿下はそう言って、生徒会室から出て行った。
アンサム様もひと足先に帰られたので、生徒会室に残っていたのは私とジャズ先輩とブーケだけだった。
資料作成も一段落ついたことだし、私もそろそろ帰ろうかしら?
「ジャズ先輩。私は資料がある程度片付いたのですが、先輩は今どんな感じですか?」
「俺は、もう少し時間かかるかも。ここの鍵は俺が閉めとくから、先に帰ってもいいぞ。」
「それでは、お言葉に甘えて。お先に失礼します。」
今日も一日が終わったわ。
私は伸びをしてから、帰り支度をした。
「ジュリー、この後どこへに遊びに行く?」
「そうねぇ。本屋さんへ行きたいわ。新作のロマンス小説が今日発売だし。」
「そういやロマンス小説で思い出したけどさ、この前生徒会室の机に『男爵令嬢の午後』っていうロマンス小説が置いてあったけど、お前ら2人は心当たりあるか?」
嗚呼、あの小説ね。
タイトルを聞いただけで、嫌な気分になった。
男爵令嬢の午後、通称『だんごご』は、私がモデルの悪役令嬢が出てくる小説だ。
一度気になって読んだことがあるけど、私がモデルの公爵令嬢が酷すぎて途中で読むのをやめてしまった。
「私もジュリーも、そんな最低な小説、読みませんよ!」
「へぇ。あの小説、そんなにつまんねぇのか。ってか、お前ら2人の本じゃなかったら、誰のなんだ?」
「さぁ。一体、どなたの忘れ物なのでしょうね?」
すると突然、生徒会室の扉をノックする音が響いた。
ユミル殿下かしら?
いえ、殿下ならノックをするはずがない。
「はい。どなたでしょうか?」
私が尋ねると、相手は勢いよく扉を開けた。
不敵な笑みを浮かべながら現れたのは、悪魔憑きになったロザリアだった。
その姿を見て、私達は警戒して後ろに下がった。
「ご機嫌よう。ジュリー・オルティス。」
あぁ、最悪。
また狙いは私みたいね。
「ロザリア様。今日は一体、どのようなご用で来られたのでしょうか?」
私は平静を装いながら、穏やかな口調で話しかけた。
「今日は知りたいことがあって来たの。」
「知りたいこと、ですか?」
「そうよ。貴女の好きな相手が知りたいの!」
するとロザリアは、右手を私に向けてビームを放ってきた。
「ジュリー、危ない!」
ジャズ先輩は咄嗟に、私を庇ってくれた。
でもそのせいで先輩はビームの餌食になってしまった。
......はずなのに、何も変化が起きない。
「あれ? 俺、くらったよな?」
当の本人ですら、異変を感じていないようだ。
「アンタ、邪魔よ! 誰が薄汚い平民なんかの情報を知りたいものですか!」
ロザリアは歯軋りをして地団駄を踏む。
「薄汚い平民で悪かったな! とりあえず逃げるぞ!」
「ロザリアは私が足止めします。先輩、ジュリーをお願いします!」
ブーケはロザリアに飛びついて足止めをすると、その間にジャズ先輩は私を担いで生徒会室の窓から飛び降り、一目散に逃げた。
変身していないのに私を担ぎながら走れるなんて。
ガタイが良いとはいえ、ジャズ先輩は力持ちだわ。
「とりあえずフィーネを探すぞ! 悪魔憑きが出たってことは、フィーネも現れるはずだ!」
今の状況じゃ、現れたくても現れることができない。
どうにか理由をつけて、ジャズ先輩と別れないと。
「とりあえずジュリーはトイレにでも隠れてろ。俺はフィーネに会いに行くから!」
あれ? ジャズ先輩、ロザリアをどうにかすることよりフィーネに会うのが目的になってないかしら?
しかも男子トイレの個室に入れられても困るんだけど。
ジャズ先輩は私をトイレに入れた後、フィーネフィーネといつものように叫びながらどこか遠くへ行ってしまった。
今が変身するチャンスね。
私はそのまま変身した後、誰にも見られないようにこっそり男子トイレから出て、ロザリアのもとへと移動した。
「出て来なさい、ジュリー・オルティス! 出ないと、他の人にこのビームを打つわよ?」
ロザリアは中庭でジュリーを探しながら、学校中の人々に、あのビームを打っていた。
ビームを打たれた人は怪我はないものの、みんな様子がおかしい。
ある人は他の人に強く抱きついたり、またある人は、何度も誰かの名前を連呼しながら必死に探し回ったりしていた。
ビームの具体的な効果は不明だけど、精神に干渉する類のものなのは明白だ。
もしかしたらジャズ先輩も、今頃ああなっているのかも。
「フィーネ様、お待たせ! またロザリア嬢か。今度は何で怒っているのだろう?」
「あっ、ウイン様!」
私がロザリアの元へ来たのと同じタイミングで、ウイン様も現れた。
「みんな様子がおかしいけど、コレって彼女の仕業?」
「えぇ。そのようです。彼女の放つビームに当たると、あのようになってしまうみたいです。」
「どんな能力かは知らないけど、当たると厄介だ。フィーネ様、気をつけて戦おう!」
「はい!」
ウイン様と2人で戦うのは久しぶりだ。
いつもはレディーナがいるから気にならなかったけれど、2人だけだと気持ちがドキドキして落ち着かない。
「アンタたちにも当ててあげる♪」
ロザリアは不敵な笑みを浮かべて、私達に手を翳し、ビームを放つ。
私とウイン様はそのビームを躱しつつ、ロザリアに近づいて手を塞ごうとした。
が、その時、私の腰に誰かが強く抱きついてきた。
「フィーネ、フィーネ、フィーネ~♪ 会いたかったよ!」
抱きついてきたのは、レディーナだった。
やっと来たと思ったら、このタイミングで来るなんて。
しかもいつもより抱きつく力が強い。
「レディーナ、会いたかったのは分かったから、今はロザリアをどうにかしましょう。」
「えぇ~! フィーネともっとイチャコラしたい!」
駄目だ。
ロザリアと戦うどころか、全然離れてくれない。
「隙あり。」
「きゃっ?!」
レディーナに気を取られたせいで、ロザリアのビームに当たってしまった。
......けど、やっぱり何も起きない?
「フィーネ様、大丈夫かい?!」
私を心配したウイン様が、側まで様子を見に来てくれた。
嗚呼、ウイン様。
近くで見ると、更に格好よくて素敵だわ。
「大丈夫です、ウイン様。」
私は彼の手を強く握った。
ウイン様の手は、男の人らしくゴツゴツとして大きくて、温かい。
「えっーと......フィーネ様?」
苦笑いする彼の顔も素敵だ。
その瞳に惹き込まれそう。
ずっと見つめていたい。
だけどロザリアがビームを放ってきたからか、ウイン様は避けるためにジャンプをして、私から離れてしまった。
「あっ、待って! ウイン様!」
私はウイン様を追いかけて、腕にしがみついた。
ウイン様の腕、強くて頼もしいわ。
「フィーネ様。悪いけど、少しの間でいいから離してくれないかな?」
「いいえ。このまま、ずっとウイン様と一緒にいたいです。」
「気持ちは嬉しいけど......あっ、危ない!」
ロザリアがビームを打って来てくれたお陰で、ウイン様は避けるために私をお姫様抱っこしながら軽やかにジャンプをした。
間近で下から覗くウイン様のお顔も、凛々しくて美しい。
嗚呼。こんな日が来るなんて、幸せ。
......ん?
あれ? 私、何をしていたんだろう?
ふと今までの出来事を冷静に振り返る。
ロザリアのビームに当たって、それからウイン様の手を握って、腕にしがみついて、それから、それから...。
「きゃぁぁ!」
あまりの失態に、私は思わず声を荒げてウイン様を突き放してしまった。
あぁ、恥ずかしくてウイン様の顔が見れない。
せっかく私を気遣って抱っこまでしてくれたウイン様に乱暴をするなんて。
自分が嫌になる。
「よかった、いつものフィーネ様に戻って。」
ウイン様は私に振り回されていたにも関わらず、いつものように優しく話しかけてくださった。
「ウイン様、お願いです! さっきまでの出来事は綺麗さっぱり忘れてください!」
私は恥ずかしさのあまりに、手で顔を隠しながら無茶なことをお願いした。
「うん、わかったよ。きっと、ロザリア嬢のビームで変になっていただけだよね?僕は気にしないよ。」
気にしないと言われても、私が気にしてしまう。
あぁ。しばらくはウイン様の顔をまともに見れないわ。
「フィーネ、大丈夫? 正気に戻ったか?」
するとレディーナが心配するように私の顔を覗いてきた。
「えぇ、なんとか。それよりロザリア嬢は? ビームの効果が消えたのは何故?」
「ロザリアなら私がギッタギタのボッコボコに倒したよ! 私のフィーネに余計なことした罰だ。」
レディーナの後ろを見てみると、確かにロザリアが伸されて元の姿に戻っていた。
「なぁフィーネ! 私一人でロザリアを倒してあげたんだから、お礼にキスしてくれてもいいんだよ?」
期待するような目で見つめられても困る。
「レディーナ様、もしかしてロザリア嬢のビームを喰らった?」
「えっ! ウイン、お前何でそのこと知ってんだ?」
「レディーナ様の様子が、さっきまでのフィーネ様と似ていたからそう思っただけだよ。」
私、レディーナみたいになっていたのね。
客観的に自分を振り返って、改めて死にたい気持ちになった。
「それより、ロザリア嬢も悪魔祓いしたことだし、早いとこ学校を元に戻そう。」
「だな!」
とりあえず私は二人と一緒に、精霊の力で学校を元通りにした。
だけど......。
「はぁ。」
今日のことを何度も反芻しては、ため息が出る。
ウイン様にドン引きされた。
私はその後、一日中、自己嫌悪に陥って発狂しそうになった。
◆◆◆
「ッチ! 水の賢者め、余計なことをしやがって!」
せっかくロザリアに便利な能力を授けたというのに、こうも易々と悪魔祓いされるとは。
結局あのビームで判明したのは『光の賢者は風の賢者が好き』だという下らない情報だけだ。
せめて光の賢者が別の相手を好いていれば、そこから光の賢者の正体を推測できたものを。
風の賢者が好きだという女は、この国にはごまんといるから参考にならない。
肝心のジュリーの情報は得られなかった上に、今回の戦闘で賢者達も見切っているだろうから、ロザリアにまた同じ能力を授けても似たような結果になるだろう。
だったら違う人物を悪魔憑きにする時に、今回と似たような能力が授かるように誘導するか?
それとも、正攻法でジュリーにアプローチするか?
その二択だったら、前者だな。
あのお堅い女に正面からアプローチしたところで、効果は期待できない。
少なくとも『好きな相手』とやらが存在するうちは、やるだけ無駄だろう。
ただ『違う人物』といっても、ロザリアのようにジュリーを狙ってくれそうな逸材に心当たりがないのがネックだ。
他に使えそうな手駒はいないか?
......う~ん、思いつかない。
よし。
こうなったら次は、今まで悪魔憑きにしたことのない人間を悪魔憑きにしてみるか。
ここ最近は使い慣れた人間ばかりを悪魔憑きにしていたし、新規開拓をして便利な手駒を探すのもアリだ。
俺は今日の反省会をその場で終えると、王宮に帰ってから逸材探しを始めた。
ユミル殿下はそう言って、生徒会室から出て行った。
アンサム様もひと足先に帰られたので、生徒会室に残っていたのは私とジャズ先輩とブーケだけだった。
資料作成も一段落ついたことだし、私もそろそろ帰ろうかしら?
「ジャズ先輩。私は資料がある程度片付いたのですが、先輩は今どんな感じですか?」
「俺は、もう少し時間かかるかも。ここの鍵は俺が閉めとくから、先に帰ってもいいぞ。」
「それでは、お言葉に甘えて。お先に失礼します。」
今日も一日が終わったわ。
私は伸びをしてから、帰り支度をした。
「ジュリー、この後どこへに遊びに行く?」
「そうねぇ。本屋さんへ行きたいわ。新作のロマンス小説が今日発売だし。」
「そういやロマンス小説で思い出したけどさ、この前生徒会室の机に『男爵令嬢の午後』っていうロマンス小説が置いてあったけど、お前ら2人は心当たりあるか?」
嗚呼、あの小説ね。
タイトルを聞いただけで、嫌な気分になった。
男爵令嬢の午後、通称『だんごご』は、私がモデルの悪役令嬢が出てくる小説だ。
一度気になって読んだことがあるけど、私がモデルの公爵令嬢が酷すぎて途中で読むのをやめてしまった。
「私もジュリーも、そんな最低な小説、読みませんよ!」
「へぇ。あの小説、そんなにつまんねぇのか。ってか、お前ら2人の本じゃなかったら、誰のなんだ?」
「さぁ。一体、どなたの忘れ物なのでしょうね?」
すると突然、生徒会室の扉をノックする音が響いた。
ユミル殿下かしら?
いえ、殿下ならノックをするはずがない。
「はい。どなたでしょうか?」
私が尋ねると、相手は勢いよく扉を開けた。
不敵な笑みを浮かべながら現れたのは、悪魔憑きになったロザリアだった。
その姿を見て、私達は警戒して後ろに下がった。
「ご機嫌よう。ジュリー・オルティス。」
あぁ、最悪。
また狙いは私みたいね。
「ロザリア様。今日は一体、どのようなご用で来られたのでしょうか?」
私は平静を装いながら、穏やかな口調で話しかけた。
「今日は知りたいことがあって来たの。」
「知りたいこと、ですか?」
「そうよ。貴女の好きな相手が知りたいの!」
するとロザリアは、右手を私に向けてビームを放ってきた。
「ジュリー、危ない!」
ジャズ先輩は咄嗟に、私を庇ってくれた。
でもそのせいで先輩はビームの餌食になってしまった。
......はずなのに、何も変化が起きない。
「あれ? 俺、くらったよな?」
当の本人ですら、異変を感じていないようだ。
「アンタ、邪魔よ! 誰が薄汚い平民なんかの情報を知りたいものですか!」
ロザリアは歯軋りをして地団駄を踏む。
「薄汚い平民で悪かったな! とりあえず逃げるぞ!」
「ロザリアは私が足止めします。先輩、ジュリーをお願いします!」
ブーケはロザリアに飛びついて足止めをすると、その間にジャズ先輩は私を担いで生徒会室の窓から飛び降り、一目散に逃げた。
変身していないのに私を担ぎながら走れるなんて。
ガタイが良いとはいえ、ジャズ先輩は力持ちだわ。
「とりあえずフィーネを探すぞ! 悪魔憑きが出たってことは、フィーネも現れるはずだ!」
今の状況じゃ、現れたくても現れることができない。
どうにか理由をつけて、ジャズ先輩と別れないと。
「とりあえずジュリーはトイレにでも隠れてろ。俺はフィーネに会いに行くから!」
あれ? ジャズ先輩、ロザリアをどうにかすることよりフィーネに会うのが目的になってないかしら?
しかも男子トイレの個室に入れられても困るんだけど。
ジャズ先輩は私をトイレに入れた後、フィーネフィーネといつものように叫びながらどこか遠くへ行ってしまった。
今が変身するチャンスね。
私はそのまま変身した後、誰にも見られないようにこっそり男子トイレから出て、ロザリアのもとへと移動した。
「出て来なさい、ジュリー・オルティス! 出ないと、他の人にこのビームを打つわよ?」
ロザリアは中庭でジュリーを探しながら、学校中の人々に、あのビームを打っていた。
ビームを打たれた人は怪我はないものの、みんな様子がおかしい。
ある人は他の人に強く抱きついたり、またある人は、何度も誰かの名前を連呼しながら必死に探し回ったりしていた。
ビームの具体的な効果は不明だけど、精神に干渉する類のものなのは明白だ。
もしかしたらジャズ先輩も、今頃ああなっているのかも。
「フィーネ様、お待たせ! またロザリア嬢か。今度は何で怒っているのだろう?」
「あっ、ウイン様!」
私がロザリアの元へ来たのと同じタイミングで、ウイン様も現れた。
「みんな様子がおかしいけど、コレって彼女の仕業?」
「えぇ。そのようです。彼女の放つビームに当たると、あのようになってしまうみたいです。」
「どんな能力かは知らないけど、当たると厄介だ。フィーネ様、気をつけて戦おう!」
「はい!」
ウイン様と2人で戦うのは久しぶりだ。
いつもはレディーナがいるから気にならなかったけれど、2人だけだと気持ちがドキドキして落ち着かない。
「アンタたちにも当ててあげる♪」
ロザリアは不敵な笑みを浮かべて、私達に手を翳し、ビームを放つ。
私とウイン様はそのビームを躱しつつ、ロザリアに近づいて手を塞ごうとした。
が、その時、私の腰に誰かが強く抱きついてきた。
「フィーネ、フィーネ、フィーネ~♪ 会いたかったよ!」
抱きついてきたのは、レディーナだった。
やっと来たと思ったら、このタイミングで来るなんて。
しかもいつもより抱きつく力が強い。
「レディーナ、会いたかったのは分かったから、今はロザリアをどうにかしましょう。」
「えぇ~! フィーネともっとイチャコラしたい!」
駄目だ。
ロザリアと戦うどころか、全然離れてくれない。
「隙あり。」
「きゃっ?!」
レディーナに気を取られたせいで、ロザリアのビームに当たってしまった。
......けど、やっぱり何も起きない?
「フィーネ様、大丈夫かい?!」
私を心配したウイン様が、側まで様子を見に来てくれた。
嗚呼、ウイン様。
近くで見ると、更に格好よくて素敵だわ。
「大丈夫です、ウイン様。」
私は彼の手を強く握った。
ウイン様の手は、男の人らしくゴツゴツとして大きくて、温かい。
「えっーと......フィーネ様?」
苦笑いする彼の顔も素敵だ。
その瞳に惹き込まれそう。
ずっと見つめていたい。
だけどロザリアがビームを放ってきたからか、ウイン様は避けるためにジャンプをして、私から離れてしまった。
「あっ、待って! ウイン様!」
私はウイン様を追いかけて、腕にしがみついた。
ウイン様の腕、強くて頼もしいわ。
「フィーネ様。悪いけど、少しの間でいいから離してくれないかな?」
「いいえ。このまま、ずっとウイン様と一緒にいたいです。」
「気持ちは嬉しいけど......あっ、危ない!」
ロザリアがビームを打って来てくれたお陰で、ウイン様は避けるために私をお姫様抱っこしながら軽やかにジャンプをした。
間近で下から覗くウイン様のお顔も、凛々しくて美しい。
嗚呼。こんな日が来るなんて、幸せ。
......ん?
あれ? 私、何をしていたんだろう?
ふと今までの出来事を冷静に振り返る。
ロザリアのビームに当たって、それからウイン様の手を握って、腕にしがみついて、それから、それから...。
「きゃぁぁ!」
あまりの失態に、私は思わず声を荒げてウイン様を突き放してしまった。
あぁ、恥ずかしくてウイン様の顔が見れない。
せっかく私を気遣って抱っこまでしてくれたウイン様に乱暴をするなんて。
自分が嫌になる。
「よかった、いつものフィーネ様に戻って。」
ウイン様は私に振り回されていたにも関わらず、いつものように優しく話しかけてくださった。
「ウイン様、お願いです! さっきまでの出来事は綺麗さっぱり忘れてください!」
私は恥ずかしさのあまりに、手で顔を隠しながら無茶なことをお願いした。
「うん、わかったよ。きっと、ロザリア嬢のビームで変になっていただけだよね?僕は気にしないよ。」
気にしないと言われても、私が気にしてしまう。
あぁ。しばらくはウイン様の顔をまともに見れないわ。
「フィーネ、大丈夫? 正気に戻ったか?」
するとレディーナが心配するように私の顔を覗いてきた。
「えぇ、なんとか。それよりロザリア嬢は? ビームの効果が消えたのは何故?」
「ロザリアなら私がギッタギタのボッコボコに倒したよ! 私のフィーネに余計なことした罰だ。」
レディーナの後ろを見てみると、確かにロザリアが伸されて元の姿に戻っていた。
「なぁフィーネ! 私一人でロザリアを倒してあげたんだから、お礼にキスしてくれてもいいんだよ?」
期待するような目で見つめられても困る。
「レディーナ様、もしかしてロザリア嬢のビームを喰らった?」
「えっ! ウイン、お前何でそのこと知ってんだ?」
「レディーナ様の様子が、さっきまでのフィーネ様と似ていたからそう思っただけだよ。」
私、レディーナみたいになっていたのね。
客観的に自分を振り返って、改めて死にたい気持ちになった。
「それより、ロザリア嬢も悪魔祓いしたことだし、早いとこ学校を元に戻そう。」
「だな!」
とりあえず私は二人と一緒に、精霊の力で学校を元通りにした。
だけど......。
「はぁ。」
今日のことを何度も反芻しては、ため息が出る。
ウイン様にドン引きされた。
私はその後、一日中、自己嫌悪に陥って発狂しそうになった。
◆◆◆
「ッチ! 水の賢者め、余計なことをしやがって!」
せっかくロザリアに便利な能力を授けたというのに、こうも易々と悪魔祓いされるとは。
結局あのビームで判明したのは『光の賢者は風の賢者が好き』だという下らない情報だけだ。
せめて光の賢者が別の相手を好いていれば、そこから光の賢者の正体を推測できたものを。
風の賢者が好きだという女は、この国にはごまんといるから参考にならない。
肝心のジュリーの情報は得られなかった上に、今回の戦闘で賢者達も見切っているだろうから、ロザリアにまた同じ能力を授けても似たような結果になるだろう。
だったら違う人物を悪魔憑きにする時に、今回と似たような能力が授かるように誘導するか?
それとも、正攻法でジュリーにアプローチするか?
その二択だったら、前者だな。
あのお堅い女に正面からアプローチしたところで、効果は期待できない。
少なくとも『好きな相手』とやらが存在するうちは、やるだけ無駄だろう。
ただ『違う人物』といっても、ロザリアのようにジュリーを狙ってくれそうな逸材に心当たりがないのがネックだ。
他に使えそうな手駒はいないか?
......う~ん、思いつかない。
よし。
こうなったら次は、今まで悪魔憑きにしたことのない人間を悪魔憑きにしてみるか。
ここ最近は使い慣れた人間ばかりを悪魔憑きにしていたし、新規開拓をして便利な手駒を探すのもアリだ。
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