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9・アージェン
しおりを挟む真後ろから超イケボが聞こえたものだから、びっくりして振り返ると、アージェンさんだった。
わぁ、ホントに来た。
連絡を取り合える訳でもないのに、俺の居る場所に来るって凄いなぁ。
「おかえりなさい」
何となく、俺の所に戻って来た。って感じが嬉しくて、無意識に出迎えの言葉を口にしていた。
「………。
神殿長の伝言を頂いて来ました。
厨房は好きに使えるように伝達しておくそうです。
ただ今日のところは夕食の準備と重なる為、明日からにしてほしいと。
今日の夕食と、明日の朝食は外注を掛け。明日の午前中に来る業者には、今まで発注しなかった調味料やスパイスを一通り持って来て貰うので、試して欲しい。 との事です。
それで、不具合が出る様なら知らせて欲しいと」
素早い対応に、あまりの好遇でついポカンとしてしまった。
「復唱、致しましょうか?」
「はっ、ぁ、いえ!
迅速な対応に驚いたのと、ここまでして頂いて良いのだろうかと思いましてっ」
「創成神の使わした神子なのですから、これくらいは当然かと。
それと、私に敬語は不要です」
そーせーしんのみこ。…巫女…神子?
「神子、とは?」
「そのままの意味です。
神殿長が、今朝方強力な浄化力を持った神子様二人を、創成神がお使わしになったので、大切に扱うように。 と、神殿内に通達されていました」
マジか! だからアージェンさんもユースさんも俺達の事を様付けしてたのか? それって結構な大事にされてる?
「いや、俺達…神子かどうか分からないし。まだ何の仕事もして無いし。それにアージェンさん歳上ですよね?
流石にお世話になる歳上に、タメ口は不味いかと」
「…神殿長が神子だと仰っていたので、訂正は難しいでしょう。そこは諦めて下さい。
それと確かに私は現在二十六で、ルキ様より年齢は上だと思いますが、神子と護衛の立場がありますので、どうか御理解を」
「二十六、俺より五つ上…」
「「え、」」
「五歳、下?」
「では二十一?…ぁ、申し訳ごさいません」
なんで驚かれた? そして、なんで謝られた?
「…しかし俺だけ常語で偉そうなのは気が引けます。せめてアージェンさんも敬語を抜いて貰えると楽なのですが」
「………。」
そう、雇い主でも上司でも無いのに、敬語抜きで相手を使えるほど、神経図太く無いんだ。
せめて気軽に話せる仲なら。
でも、立場…決まりみたいなものがあるなら仕方ないのかな。
あまり困らせたくは無い。
折れるか。
そんな事を考えていると。
「お二人共。このままでは平行線なので、こういうのはどうでしょう。
アージェン殿は神子様の要望という事で、公の場以外では敬語を外す。
ルキ様も、我々には立場や人目がありますので、それで了承して貰えないでしょうか?」
ユースさんが俺の気持ちを汲んでくれて、そんな提案をしてくれた。
折れるつもりでいた俺は、その提案に対し、コクリと頷いた。
後は、アージェンさん待ちだとじっと見上げると。
「わかった」
了承してくれた。
「改めてよろしく、アージェンさん」
「アージェンと」
「アージェン」
「………。」
「ユースさんっ、僕も敬語無しの方が良い?」
「うーん、ルア様は最初のご挨拶以外は普通にお話しているのでそのままで大丈夫ですよ。
ただ、強いて言うなら私も、お二人からユースと呼んで頂きたいですね」
「ユースさんも敬語無しにする?」
「ふふっ私はこれが通常運転なので、差程変わりません」
「そっかぁ、でもユースって呼ぶと僕甘えちゃいそう」
「ルア様はまだ子供ですから、甘えても良いのでは?」
「わかった! 僕もう十六歳だけど、甘やかしてくれる人は好きだよ。よろしくね、ユースっ」
「ぇ、十六?」
話が纏まったところで、そろそろ夕方なので戻ろうと言われ、俺と留愛は適当に本を借りて戻る事にした。
昇降機の前まで来ると、ユースがアージェンに小さな声で何か言っている。
何だろう? と思いながらも、まぁいいかっとふぅーと息を吐き、降りの昇降機に挑むべく乗り込んだ。
留愛、俺、アージェン、ユースと乗り込み。俺は誰かを掴む事が無いように自分の拳をぎゅっと握り締めた。
緊張しながらその時を待っていると…。ぐいっと体を引き寄せられて、目の前には白い壁…制服越しの逞しい体に抱き込まれた。
んえええぇっ…な、なんで?!
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