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第56話 誠意

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「改めて紹介します。最近ボクのパーティー【ハンドレッド】に入ってくれたゼマさんです」

 ロビーに集まった疾風怒濤たちに、新たな仲間を紹介する。この場には、レニナも来ていた。リーダーが何か考えているということで、一応彼女も招集したのだ。昼寝をしていたので瞼が重そうだ。

「どうも。昔はソロでやってたんだけど、まぁ戦力増強でララクのパーティーに入ったって感じかな。
 役割はヒーラーだけど、攻撃も得意だよ」

「ゼマさんは凄いんです。正直、初めて戦いを見た時は驚きました」

 冒険者狩り シームルグの戦闘をララクは思い出す。痛みも顧みずに特攻していく姿は、無謀ともいえるが勇敢とも捉えることが出来る。

「ほう、キミがそんな評価をするとはよっぽどのようだな」

 ガッディアは改めて彼女の姿を観察する。貸出用の服を着ているのであまり肌は露出していないが、節々の筋肉が発達していることがよく分かる。

「おいヒーラー、本題に入るぞ。俺はこいつと戦いてぇんだ。別にかまやしないだろ?」

 このままだとゼマに話題が移りそうだったので、そうそうに話を切り替えた。
 ララクは先ほど聞いた話だが、他のメンバーはその意思をはじめて聞くこととなる。

 ガッディアたちは納得する部分があるのか、そこに関しては口を挟まなかった。

「戦いたいって、野蛮だねぇ。ま、その気持ちは分からないわけじゃないけど」

 ゼマもどちらかというと戦闘には前向きな性格だ。なのでデフェロットと通じ合う部分もあるようだ。

「だったら……」

 少し遠回りになったが、問題なく勝負が出来そうだと安心しだしたデフェロットだが、ゼマの一言で状況が一変する。

「でもさぁ、それって私たちにメリットある?」

 さばさばとした態度で切り込むゼマ。その言葉は、デフェロットにあの日のことを鮮明に思い出させる。

「メリット、だと!?」

 ララクを再勧誘した際にデフェロットは「それってボクにメリットありますか?」と一蹴された。自分も同じ理由で彼を追放した手前、その言葉は彼に重くのしかかっていた。

「そうそう。私たちはここに来たばかりで観光もしてない。ギルドにも行ってないしね。
 忙しいわけじゃないけど、そう行ったことを後回しにしてまで、あなたと戦う理由ってないんだよね」

「……てめぇ」

 ゼマとデフェロットは初めましてなわけだが、すでに険悪なムードになっている。2人とも物怖じしないタイプなので、意見がぶつかりあっている。

「だが、確かに彼女の言う通りだ。クエストに赴けば、それだけ時間はかかる。それを待つとなると、かなり時間が空いてしまうぞ」

 冷静に日程を考え出すガッディア。彼が一番、事を急いでいるかもしれない。

「じゃあ、金でも払えってのか?」

 ゼマを睨みつけながら、デフェロットは交渉しだす。明らかに態度が悪い。

「あいにく、ふところは潤っているんだよね。でしょ? ララク」

 余裕な態度でデフェロットの意見を受け流す。

「えぇ、まぁ。確かに、ゼマさんの言う通り、ボクに得はないかもしれません」

 損得勘定で考え出すと、ララクも急に戦う気力がなくなってきた。

 冒険者同士で模擬戦を行うことはそれほど珍しい事ではない。微量ながら経験値も得る。しかしそれは、良好な関係性が築かれているからこそ出来ることだ。

「じゃあ、どうすりゃあ良いってんだ!」

 半ばキレ気味にデフェロットは問いただす。戦う事しか今は興味がないようで、上手く交渉の材料は考えられていなかった。

「あのさぁ、分かんないの? そもそも、あんたは頼む側の態度ってもんが分かってない。誠心誠意頭下げれば、損得関係なく人は頼みを聞くことだって、あんのよ」

 彼女は、言葉ではああ言ったが、本心はメリットなど気にしていないのだろう。ただ単純に、彼の態度が気に食わなかったようだ。

「正論だな」

「言われてやんの~」

 ガッディアやレニナは立場的にはデフェロット側だが、彼女の言うことも一理あると、妙に共感していた。ずっと、彼の乱暴さを経験しているからだろうか。

「……はぁ、わかったよ。おいララク、俺は新しい力を得た。それがお前に通用するか確かめたい。
 だから……頼む。俺と勝負してくれ」

 少し頭を下げるデフェロット。深くとまではいかないが、彼の中では出来るだけ誠意を示しているつもりだった。
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